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精神保健福祉士として働く

精神保健福祉士の職場は多様です。業務の内容も多岐にわたります。
ここでは、さまざまな現場で活躍する精神保健福祉士の「職場と仕事の内容」をご紹介します。
「精神保健福祉士」という仕事の特性とその奥深さ、可能性を感じ取ってみてください。


第1回 精神医療センター

光森陽子さん Mitsumori Youko
宮城県立精神医療センター地域医療連携室

大学生のときに見学に訪れた精神科病院で、鉄格子の隔離室や人権が守られているとは到底思えない病棟の療養環境をみて衝撃を受け、精神障害のある人への支援に携わりたいと一念発起。心理系の大学を卒業後、障害者相談支援事業所(当時は精神障害者地域生活支援センター)に入職。その後、精神医療センターに転職し、精神科デイケア勤務を経て現職。

私の職場

 私が勤めている宮城県立精神医療センターは、宮城県における精神科医療の基幹病院としての役割を担っています。スーパー救急病棟が2病棟、慢性期病棟が3病棟、児童思春期病棟が1病棟の計258病床の精神科単科の病院です。
 所属部署である地域医療連携室は、室長の精神科医1名、保健師2名、看護師4名、精神保健福祉士15名、事務職員2名にて構成されており、病院の窓口として地域の関係機関や患者家族の相談業務を行っています。

仕事の内容

 地域医療連携室の業務は、入院中の患者さんの退院支援や退院後の地域生活上の困りごとへの相談対応、新患予約を受ける際のインテーク、地域の支援者からの医療介入依頼、県から委託を受け24時間対応する宮城県精神科救急情報センターの電話対応業務など、多岐にわたります。
 私自身は現在、児童思春期病棟を担当しています。14床のユニット病棟と外来患者の相談業務を担い、在籍校の先生や児童相談所、市町村の子ども福祉課などと連携し、入院・通院する児童のほか家庭全体の環境調整や支援活動を行っています。

「ある日」の勤務から

 朝出勤してから夕方退勤するまでの「ある日」の勤務をご紹介します。部署と担当病棟の特性から、この日は機関内外の関係者との協議や連絡調整が業務の中心となりました。

9:00 出勤

前日のカルテに目を通し、担当ケースの夜間の様子などを把握する。メールチェックや病院全体の連絡事項などについて申し送りを受ける。

10:00 入院中の患者さん(Aさん)の退院に向けたケア会議

Aさんのご家族、在籍校の担任の先生、主治医、看護師、精神保健福祉士にてケア会議を実施。ご本人は未成年ということもあって途中から参加。入院中の治療状況や学校に戻る際に配慮していただきたいことなどを確認し、退院日を決定する。

11:00 児童病棟の多職種で症例検討会

月1回開催している症例検討会に参加。今回は精神保健福祉士が担当月であり、日頃悩んでいる症例をまとめて参加者に提示し、さまざまな意見をいただく。多職種の視点で症例を改めて振り返るよい機会となった。

症例検討会の1コマ。医師、看護師、作業療法士など
複数の専門的な視点が集結する

12:00 昼休憩

13:00 入院中の患者さん(Bさん)のケア会議

Bさんのご家族、在籍校の担任と養護の先生、スクールソーシャルワーカー、市町村の子ども福祉課、主治医、看護師、心理士、精神保健福祉士にてケア会議を実施。家庭内の問題について整理し、利用可能なサービスについて情報共有を行う。ご家族にサービスの利用を案内し、退院前にサービス利用のための申請手続きを行うこととなった。

15:00 児童ユニット協議会へ参加

児童病棟で毎月実施している児童ユニット協議会に参加。この会議では、医師、看護師、公認心理師、作業療法士、精神保健福祉士が集まり、病棟運営上の連絡事項や検討課題を共有・検討している。今回は、来月実施予定の病棟レクリエーション(ゲーム大会、体育大会)について情報共有を行った。

専門病棟の運営には医療チームの情報共有が不可欠。
確認事項を1つずつ押さえていく

15:30 外来通院患者さん(Cさん)と面談

以前に入院し、現在は外来通院を継続しているCさんとそのご家族との定期面談。近況について伺い、学校生活で困っていることがあれば学校と連絡を取り対応する旨を伝える。ご家族からは最近の生活状況をお聴きし、体調面も含め何か困りごとが生じていないか確認する。

16:00 電話連絡、記録作成

入院中や外来通院中の患者さんについて、関係機関と連絡を取り合う。特に学校の先生方とは夕方の時間帯に連絡を取り合うことが多い。連絡の合間に、今日一日の業務記録を作成する。支援の振り返りに役立てられるようまとめていく。

17:00 退勤

終業時刻に業務終了。定時に退勤できる日ばかりではないが、緊急の対応もなく無事に一日を終えられた。ほっとひと息、帰途につく。

「働きがい」について

 精神医療センターは、基幹病院としての特性からさまざまな外部の機関と連携していきます。児童思春期病棟の場合は、保健所や市町村の各課、児童相談所、学校など教育現場との接点が強くなります。ここへかかわっていく関係者も多様です。担任の教員や養護教諭など学校関係者、スクールソーシャルワーカー、保健師、民生委員など患者さんとかかわりのある地域の支援者が、医師や看護師、作業療法士など病院の医療チームと協働しながら支援を進めていきます。
 全体としてのこの構図のなかで、精神保健福祉士は「窓口」の機能を担っています。ケースの相談受付に限らず、質の高い支援が行えるよう各機関・各関係者の橋渡しを行っていきます。その過程では、発言の趣旨を咀嚼して相手に伝える、激しい感情を1回受けとめて柔らかく返すなど、ソーシャルワーカーとしての技量が問われる場面にもたくさん遭遇します。それは仕事の難しさであると同時に、この職場の働きがい、やりがいそのものであると感じています。
 そして、患者さん、ご家族とのかかわりこそは、この仕事の大きな働きがいです。これまでの生活で苦労されてきたことや大切にしてきたことなど、毎日さまざまなお話を伺います。専門の視点から傾聴し、助言し、支援活動を行い、それまでの困難な状況がよい方向へ変わったときはうれしいです。
 一方で、自分なりの正解を考えながら支援活動を行っているなかで、精神保健福祉士としての専門性や信念を持ち続けることが難しいとも感じています。ジレンマを抱えることもあります。そのようなときは、職場の上司や同僚、他の専門職、地域の支援者、時には患者さんご本人に相談しながら課題に向き合っています。

「精神保健福祉士」の醍醐味

 仕事の上では、多職種や地域の支援者に対して意見しなければならないことがあります。「患者さんを守るために」というその理由は、対立する立場にとっても同じはずです。でも、自分が信じるものは何かを見失うと意見することすらできなくなり、それこそ専門性を見失いかねないと感じています。
 精神保健福祉士は、精神保健福祉分野で活動する職種のなかで最も患者さん(=クライエント)に身近で相談しやすい存在であると思っています。権利擁護の視点を大事にしながら、時には友人のように傍で見守っている存在。「そういえばこの人、精神保健福祉士とかいう資格だっけ」と、ふだんは専門職であることが忘れられている存在であり続けることが一番の専門性であると私は考えています。
 「私の人生で、自分のことを親身になって考えてくれた人に出会えたことは一生の宝物で す」。これはある患者さんからいただいた言葉です。その人の人生にとって、このような言葉にまで値しうる可能性をもった「精神保健福祉士」という仕事を、今後も大事に続けていきたいと思います。

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