第36回介護福祉士国家試験 問題の講評
第36回介護福祉士国家試験
筆記試験を振り返って(前半)
2024年1月28日
町田福祉保育専門学校 副校長
石岡周平(いしおか・しゅうへい)
町田福祉保育専門学校の石岡と申します。第36回介護福祉士国家試験筆記試験を受験されたみなさん、本当にお疲れさまでした。日々学習を重ねられて、そのご苦労は大変なものだったと思いますし、試験を終えた当日は、緊張から精神的にも身体的にも疲労を感じたのではないでしょうか。
結果発表の3月25日(予定)を迎えるまで気が気ではない心境かもしれません。「けあサポ」の解答速報で自己採点をしつつ、今回の試験を一緒に振り返ってみたいと思います。
前回(第35回)から午前問題、午後問題の科目の入れ替えがありました。午前問題に、制度系や医療系など知識を問う出題の多い科目が集まったことで、いかに午前中の問題で得点を稼げるかがポイントとなっています。午後は、生活支援技術やコミュニケーションなど普段の実務につながる分野の科目ばかりで比較的得点が稼ぎやすいので、「勝負の午前中」という科目編成ととらえています。
全体として、過去問からの踏襲となる問題が多かった印象です。「どこかで見たことがある」と思う人が多かったのではないでしょうか。過去問をしっかりと押さえ、その周りにある情報を知識としてインプットできていれば、そのような感覚になる受験者も多かったことでしょう。さらに、近年は総合問題での事例とは別に、各科目に「短文事例問題」が多く出題されていて、得点するためには事例の読解力も大きなポイントとなっています。
今回と次回の2回にわたって、筆記試験を振り返ります。今回受験した方、これから受験する方、各々の立場で参考にしてください。今回は、「午前」の問題です。
なお、解答案については、こちらをご覧ください。(リンクへ)
人間の尊厳と自立[2問]
実務経験ルートの受験者の方は、科目名の「人間」の文字を見ると初めはビックリするのではないでしょうか。介護とは「人間が人間を」相手にするものです。そのため、まず「人間」というものを理解しようというのが、この科目の目的です。人権や権利擁護、尊厳、自立支援、利用者主体の考え方などについて学びます。例年この科目からの出題は2問で、過去には人権や福祉理念の構築などにかかわった人物に関する問題が出題されていましたが、ここ2年は傾向が変わりました。利用者のQOLや自立の考え方に関する出題が続いています。
人間関係とコミュニケーション[4問]
この科目は、タイトルにあるとおり、「人間関係」を中心としたコミュニケーションを学びます。「自分を知り、相手を知る」介護にとって必要な「人間と人間の関係」を基本とした方向性からのコミュニケーションとなります。その一方で、2年前のカリキュラムの改正を受け、「リーダーシップ」「スーパービジョン」など介護チームを“組織”ととらえて組織や個人の成長、マネジメントにつながる部分の学びも組み込まれました。以前の出題は2問だったのが、第35回から4問に増えています。
傾向としては、前半はコミュニケーションにかかわる分野、後半はチームマネジメントからの出題となっています。近年の感染症の流行もからめて、今年はストレスマネジメントというタイムリーなテーマと、組織マネジメントの基本が出題されました。次回受験する方は、範囲を絞ってみてもいいかもしれません。
社会の理解[12問]
介護福祉の基本(介護保険法、障害者総合支援法など)であり、土台となる社会保障制度(社会保険、公的扶助、公衆衛生、医療制度など)について出題されます。全科目の中でも多くの受験生が苦手と感じ、学習を避けたくなる科目かもしれません。ですが、12問と問題数が多いことから、この科目を攻略することが合否を左右するといっても過言ではありません。ほとんどの問題で、法律や制度、理念などの「知識の有無」が問われます。
問題文の流れや勘では解くことができず、コツコツと学習の積み重ねが必要です。今回の傾向は、過去問に似た問題やその法律や分野から基礎的な出題が多く、コツコツと学習していれば正解できたのではないでしょうか。
「セツルメント」や近年あまり出題されていなかった「社会福祉基礎構造改革」は、ともすると準備しきれなかったかもしれません。「認知症のある人の商品購入や契約」にまつわる消費者トラブルに関連する出題は、この科目だけでなく生活支援技術にもあったことは、第36回の特徴の一つといえます。
こころとからだのしくみ[12問]
この科目は、人間の身体構造や疾患、障害などの種類や特徴を学習するため、介護を学んでいく上では欠かせない科目です。午前中は、この科目以降を総称すると「医療系」科目といえる分野で、これらも同様に「知識の有無」が問われます。
科目の1問目は、例年、「からだのしくみ」もしくは「こころのしくみ」から出題され、近年は「こころ」から出題されています。次問からは、移動、身じたく、食事、入浴、排泄、睡眠、終末期に関して順番に出題され、生活支援技術と分野は重なるのですが、内容は「技術(方法)」ではなく、関連する医療的な部分が問われます。その中でも「睡眠」や「終末期」に関しては必ず出題があり、内容は似ているところが多いため、絞って学習することができそうです。今回の特徴は過去問に近い出題も多く、「マズローの欲求階層説」「交感神経」「爪」「窒息」「浮力作用」「概日リズム」などは学習をしていた方も多かったのではないかと思います。
発達と老化の理解[8問]
介護福祉を大きく分けると、高齢者系と障害者系に分けることができます。障害者系には児童の分野も含まれますので、前半はその「発達」、後半が高齢者の「老化」について学ぶ科目となります。国試の出題傾向では、「乳幼児期の発達段階の理論」から、児童期に特徴がある障害などが出題されています。老化では、老年期の心身の特徴から、高齢者に多い疾患などが多く出題されます。
今回の出題では、広汎性発達障害のある幼児がパニックになっているときの対応が難しかったのではないかと思います。各科目にも共通していますが、しっかりと事例を読み込むこと、真正面から誠実に向き合うことが求められるのかもしれません。近年、高齢化社会で注目される「エイジズム」や「健康寿命」というテーマはタイムリーな出題となりました。
認知症の理解[10問]
この科目は、高齢者介護を学ぶ上で必須となる「認知症」に関する科目です。要介護・要支援者における認知症者の数は、年々増え続けています。高齢者系の事業所で業務を経験して受験された皆さんにとっては身近な科目といえるのではないでしょうか。
学習内容としては、認知症に関する基礎(原因疾患や周辺症状、BPSDなど)や認知症ケアの方法、家族への支援などを学び、ここから出題が多くあります。覚える内容は難しいですが、高齢化社会を生きる我々にとって、資格としての学習や業務に生かすといった視点以外の、日常生活でも役立つ分野ともいえます。今回も傾向としては例年どおりで、若年性認知症やレビー小体型認知症、周辺症状、BPSD、認知機能障害、認知症のある人への対応方法(バリデーション)について出題されました。「高齢者の自動車運転免許」、「アパシー」などは近年にはない出題でしたが、タイムリーなところでもありました。
障害の理解[10問]
この科目は障害者介護を学ぶ上で必須となる科目です。障害者総合支援法などの障害者福祉や介護の実践にかかわる法律や制度は「社会の理解」での出題もありますが、他にも障害の種類、難病、疾患などの基礎から、障害を抱えた人の心理や家族の支援と学習の範囲は多岐にわたります。例年前半の問題では、障害福祉の基本理念が出題されますが、今回は「ノーマライゼーション」でした。近年は「障害受容」に関する出題が必ずあり、今回は「心理的段階」に関してです。統合失調症の特徴も出題されており、このテーマからは2年連続になります。隔年で筋萎縮性側索硬化症(ALS)も出題されており、出題予測がおもしろい科目かもしれません。障害者差別解消法に関しては、2024(令和6)年4月から民間事業者にも「合理的配慮」が義務化されることから、これもタイムリーな出題でした。
医療的ケア[5問]
科目名からしても医療系で、イメージとして「難しそう……」と学習を敬遠しがちな科目かもしれません。全科目の中でも最小の「5問」(※)となっていて、出題者はこの科目で無得点にならないような難易度を意識して作問していると思われ、イメージの割には困ってしまうような問題は少ない印象です。
この科目の規定は介護福祉士資格の取得の後押しをしてくれていると思っています。実務経験ルートでは実務者研修において「医療的ケア」を対面で学び、養成校ルートでも各養成校で医療的ケア科目の授業があります。両ルートとも演習では内容を丸ごと暗記しなければ合格できません。時間が経ってしまっていても試験中に問題を見れば思い出す人も多いのではないでしょうか。
科目としては、医療的ケアの法的背景や清潔保持、感染予防、健康状態の把握からはじまり、喀痰吸引や経管栄養の実施手順が出題されます。この実施手順が前述したとおりで、緊張しながらも、くり返し、くり返し手技の手順を練習してきたことが、試験中に発揮されます。今回の特徴も例年どおりで、「事業者登録」「呼吸器官の部位」「痰の吸引」「経管栄養」の実施方法が出題されました。
- ・「人間の尊厳と自立」(2問)+「介護の基本」(10問)で、1科目群
- ・「人間関係とコミュニケーション」(4問)+「コミュニケーション技術」(6問)で、1科目群
※ 全11科目群の各科目群で1点以上の得点がないと、総合得点が合格点に達していても不合格となる。