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介護職に就いた私の理由(わけ)

さまざまな事情で介護の仕事に就いた方々の人生経緯と、介護の仕事で体験したエピソードを紹介していきます。「介護の仕事に就くことで、こんなふうに人生が変わった」といった視点からご紹介することで、さまざまな経験を経た介護職が現場には必要であること、そして、それが大変意味のあることだということを、あらためて考えていただく機会としたいと考えています。
たとえば、「介護の仕事をするしかないか・・」などと消極的な気持ちでいる方がいたとしても、この連載で紹介される「介護の仕事にこそ自分を活かす術があった・・」というさまざまな事例を通して、「介護の仕事をやってみよう!」などと積極的に受け止める人が増えることを願っています。そのような介護の仕事の大変さ、面白さ、社会的意義を多くの方に理解していただけるインタビュー連載に取り組んでいきます。


●インタビュー大募集
「このコーナーに出てみたい(自薦)、出してみたい(他薦)」と思われる方がいらっしゃったら、
kawase@chuohoki.co.jp
までご連絡ください。折り返し、連絡させていただきます。

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花げし舎ホームページ:
http://hanagesisha.jimdo.com/

プロフィール久田恵の主宰する編集プロダクション「花げし舎」チームが、各地で取材を進めていきます。
久田 恵(ひさだ めぐみ)

北海道室蘭市生まれ。1990年『フイリッピーナを愛した男たち』(文藝春秋)で、第21回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。
著書に『ニッポン貧困最前線-ケースワーカーと呼ばれる人々』(文藝春秋・文庫)、『シクスティーズの日々』(朝日新聞社)など。現在、読売新聞「人生案内」の回答者、現在、産経新聞にてエッセイを連載中。

第97回 新卒で介護職へ 
介護は、誰かに笑顔になってもらえる仕事
利用者の方の一日が、何事もなく平和に終えられるように

岸野夢乃さん(24歳)
社会福祉法人武蔵野 ゆとりえ
社会福祉士
精神保健福祉士
(東京・吉祥寺)

取材・文:原口美香

利用者の方とのちょっとした時間に救われていた

 ここに入った頃は、介助方法を覚えるのに必死で、入居者の方と何気ない会話をする時間があまりなかったんです。ずっと緊張していて、休憩時間までも緊張しているような状態でした。眉間にしわを寄せたようなかたい表情で、介助にあたっていたと思うんですけれど、ある時、ちょっとした合間に利用者の方と話せた時間がありました。私、普通に笑えていたんです。入った1年目は、合間のちょっとした時間に、私自身すごく救われていたなと思います。今も、一番の思い出とかいうよりは、そういう触れ合いの時間がたくさん心に残っています。

職業体験で感じたことがきっかけに

 中学2年生の時に職業体験というものがあって、特養老人ホームに行ったのです。職業体験と言っても介護をやるわけではなく、グループでちょっとした出し物をやったのですが、入居者の方が楽しんでくださったんです。その時に、やりがいのある仕事だなと感じました。自分が何かをして、それに対してすぐに反応をもらえる仕事ってあんまりないなと。例えば、それで入居者の笑顔を見れたとしたらいいなと思ったのです。

 高校で本格的に進路をどうするかと考えた時に、福祉をやってみようと決め、大学に進みました。私は就職するまで、祖父母と同居していましたので、高齢者がいつも身近にいた、そういう環境も大きかったのかなと思います。

 大学在学中には、社会福祉士と精神保健福祉士の資格を取得しました。私の人生の中で、一番勉強したかも知れない、というくらい勉強しました。実習では、特養とか、包括支援センターとか、いろいろまわらせてもらって、正直、大変なんだなと感じました。実習前に何度かボランティア体験もしましたが、その時は楽しい面、仕事のいい面しか見えていなかったのです。実習中も本格的に関わったわけではありませんでしたが、難しいなと感じることも多かったです。将来、この仕事に就くって考えていましたが、やっていけるかなという不安も持ち始めました。

 それでも、大学で4年間学んできて、実習も乗り越えて、試験にも合格しましたので、他の職業に就くという選択肢はなく、大学で学んできたことと、資格を活かす仕事に就きたいと思っていました。

プレッシャーとの闘いだった1年目

 もともと資格を取るときは、直接的な介護ではなくて、間接的な相談員やケアマネージャーを目指していました。けれど現場を知らないと、利用者の方や家族の気持ちを汲み取ることはできない。現場でちゃんと学ぶために介護をやってみようと思いました。

 就職先を決めるときは、何か所か見学をしたのですが、「ゆとりえ」には明るいイメージがあったのです。職員の方が活き活きしているように感じられて。説明会では特養は見ていなかったので、お願いをして別日に特養を見学させてもらいました。いい雰囲気だなと感じたことを覚えています。

 社会福祉法人武蔵野は、障害分野がメインで、事業の数は多くはないのですが、高齢分野・児童分野もあるのです。いろいろな分野をにつけるというのも、大きな決め手でした。

 私は高齢の分野に希望をだして、最初から特養に配属されました。入社して最初に思ったことは、とにかく覚えることがたくさんある。介助の方法も覚えなくてはいけないし、入居者の方の顔と名前も全然一致しなくて大変でした。

 研修期間は2か月、マンツーマンで研修担当職員がずっとついてくださって。3か月目からは一人立ちとなりましたが、しばらくは研修担当の方が入ってくれるようなシフトを組んでくださっていました。でも、今までは側で見てもらっていたのが、一人でいろいろな場合で介助しなければいけない。間違ったことがあれば、すぐに教えてもらえていた環境ではなくなると、今までもそうですけれど、大きな責任やプレッシャーに押し潰されそうな気持ちにもなりました。

利用者の方から元気をいただく

 私は、上手くいかないことのほうが多かったんです。利用者の方がどういう方かを考えて接したりしなければいけないのに、時間に追われてしまうことがあったり、最初は「時間よりも正確な介助をしてください」って言われていたのに、心のどこかで、自分は遅いんじゃないかと、利用者の方を思ってではなく、自分の評価を気にしてしまったり。振り返って自分のことを「嫌な職員だな」と思ったりもしました。一日を振り返った時に、あの時、こうすればよかったなと思うことが多いのです。

 でも、ある時、何気ない話をしながら、利用者の方と雑誌を一緒に見ていて、たくさん笑い合っていたんですね。その後に、長く勤めている職員の方に「あの人があんなに笑うのは、岸野さんと話していたからじゃない? なかなかあんな笑顔、見れたりしないかもよ」と言っていただいて。そのことは本当に嬉しかったです。

 利用者の方に、穏やかに、笑顔ある毎日を送ってほしいと思いながら接していますが、逆に私も利用者の方から元気をいただいていると思います。

3年目になって思うこと

 今は3年目です。時間と共にちょっとずつ、分かってきた部分もあるのかなと思います。利用者の方に対しても、今はこうしたほうがいいのかなと、考えられるようになってきましたので、何も分からなかった1年目よりは、動きやすくなったところもあると思います。正直、辞めたいと思ったことはたくさんありました。でも社会人になる時に、周りのいろいろな人から「仕事のおもしろさや良さが分かるには、3年は続けたほうがいい」と言われたことがずっと頭の中にあったんです。それに法人でもOJT面談を定期的にやってくださって、いろいろな話をする時間をいただいていました。歳の近い先輩に、仕事を始めた頃はどういう状態だったのかとか、私が抱えている不安のことなど、先輩も同じように感じていたというのを知ることができて安心し、ここまで続けられたのだと思います。

 3年目でも、まだまだできないことがたくさんあります。この仕事は何年続けても、分からないことがいっぱいあるんだろうなと感じます。入居者の方が入れ替わったりすると、性格も違うし、その方によって、また学ぶことがたくさんあると思います。

 介護って、ニュースなどで低賃金・重労働等と取り上げられていることが多く、良いニュースを知る機会ってあまりないかと思います。「介護をやってる」というだけで周りから「すごいね、偉いよね」とよく言われます。私はそう感じることがなくて、もちろん体を使うことは多いのですが、体力がないと思っていた私でも3年続けてこれた。やってみたらイメージが変わる人も多いのではないかと思います。仕事自体に未知な部分もあり、介護が自分にとっての天職とは、まだ思えないのが本音です。だけど、勉強してきたことと違うことを知れるというのは、良かったと思っています。これから先のことはまだ分かりませんが、今はとにかく経験をたくさん積んで、現場でこのまま続けていきたいと思います。

ベランダで利用者の方と日光浴。
何気ない会話を楽しむひととき。

入居者の方のお誕生日には、サロンでケーキを囲み、みんなでお祝いをする。

【久田恵の視点】
 高齢になって誰かの介護を受けるようになる、ということは、人がこの世に生まれ、学び、働き、家族を作り、子どもを育て・・・というふうにそれぞれの人生を生きていくことの先にあるフツウのことなのですよね。社会のシステムが変化しそのフツウのことが特別なこと、大変なことになったということに気が付くことは、大事ですね。介護の現状を変えて行く力になります。若い世代が実践を通して学び、変えていってほしいと思います。