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介護職に就いた私の理由(わけ)

さまざまな事情で介護の仕事に就いた方々の人生経緯と、介護の仕事で体験したエピソードを紹介していきます。「介護の仕事に就くことで、こんなふうに人生が変わった」といった視点からご紹介することで、さまざまな経験を経た介護職が現場には必要であること、そして、それが大変意味のあることだということを、あらためて考えていただく機会としたいと考えています。
たとえば、「介護の仕事をするしかないか・・」などと消極的な気持ちでいる方がいたとしても、この連載で紹介される「介護の仕事にこそ自分を活かす術があった・・」というさまざまな事例を通して、「介護の仕事をやってみよう!」などと積極的に受け止める人が増えることを願っています。そのような介護の仕事の大変さ、面白さ、社会的意義を多くの方に理解していただけるインタビュー連載に取り組んでいきます。


●インタビュー大募集
「このコーナーに出てみたい(自薦)、出してみたい(他薦)」と思われる方がいらっしゃったら、
kawase@chuohoki.co.jp
までご連絡ください。折り返し、連絡させていただきます。

花げし舎ロゴ

花げし舎ホームページ:
http://hanagesisha.jimdo.com/

プロフィール久田恵の主宰する編集プロダクション「花げし舎」チームが、各地で取材を進めていきます。
久田 恵(ひさだ めぐみ)

北海道室蘭市生まれ。1990年『フイリッピーナを愛した男たち』(文藝春秋)で、第21回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。
著書に『ニッポン貧困最前線-ケースワーカーと呼ばれる人々』(文藝春秋・文庫)、『シクスティーズの日々』(朝日新聞社)など。現在、読売新聞「人生案内」の回答者、現在、産経新聞にてエッセイを連載中。

第69回 接客業を経て介護職&シンガーソングライターに 
日々楽しく、大切なことを気づかせてくれる仕事です

石橋りょうさん(29歳)
株式会社まんぞく介護(東京・豊島区)

取材・文:進藤美恵子

ビビってしまい、デイサービスからのスタート

 介護職としての第一歩は、今の会社でスタートしました。2014年5月、27歳のときです。入社のときに、「訪問介護をやってくれないか」と言われ、正直、ビビってしまって。介護職員初任者研修を修了したばかりで一人で現場に行くというのは、やっぱり怖かったです。

 最初は、スタッフも近くにいる施設のほうがいいと思い、デイサービスで働かせていただきました。1年くらい経った頃、利用者の方にこうしてみたいとか、ああしてみたいという思いが自分の中に募ってきたんです。デイサービスの中にいると、利用者の方も変わるじゃないですか。家に居る自分と働いているときの自分が違うように、利用者の方でも同じです。

 本当に困っている部分や助けて欲しい部分は見えないんじゃないかと思ったのと、もう少し深く突っ込んで利用者の方に付き添ってみたいと思ったのがきっかけで、訪問介護への異動願いを出しました。現在は、訪問介護のホームヘルパーとして働いています。

資格よりスキルが欲しかった

 離れて暮らす祖父母が老々介護だったんです。それで自分に何かできないかと思ったのがきっかけで、介護職員初任者研修を受講しました。資格が欲しかったわけではなくて、基本的なことだけでもいいから、介護スキルを学びたくて通学していただけなんです。バイトのほかに芝居をメインにやっていましたので、介護の仕事をするという気は全然なくて。通学先の方からは「修了したら、どうするの?」と何度も聞かれ、話を聞いていくうちに介護の現場で働くのもありかなと思うようになりました。

 ホームヘルパーになる前は、居酒屋などの飲食店や、事務職で働いていました。誰かとおしゃべりをするのが好きなので接客業がメインでしたね。居酒屋で「どうもー」って感じです。はじめは、介護の仕事はそんなに続かないと思ったんです。芝居やシンガーソングライターの仕事もしていて、それも大事にしたかったら。でも、気づけば、あれよあれよとここまで来ました。

両立を応援してくれる環境に感謝

 デイサービスで働いていたときのことです。利用者の方とスタッフでサンシャインに行くイベントがありました。その前日か前々日くらいに急な芝居の仕事が入ってしまって。ものすごく申し訳なかったんですけど、会社に相談してみたら、「都合をつけるから行っておいで」って。一年かけて入念に準備を重ねてきたものだし、みんなと一緒に行きたかった。それでも、「やりたいことがあるのなら、そちらを優先しなさい」と、その時に背中を押してくれた会社には感謝しています。

 会社の環境に助けられている面は、多々あります。シンガーソングライターと介護の仕事は、会社の支えがないと両立できないですから。スタッフの生活ありきでシフトが組まれ、一緒に働いて行くという姿勢にものすごく助けられています。

 訪問介護では、基本的には一人で利用者のご自宅へ行きます。仕事を終えて事務所に戻ってくると誰かしらが居て、そういうときに話せる人とか話しやすい人が居る、何かを話したくなる人が居るということはすごく心休まりますし、モチベーションにもつながっていきます。そういう意味でも環境に恵まれています。

利用者の方との共有できる時間が楽しい

 日々の仕事がとても楽しいです。理由はないんですけど、一番思うのは利用者の方に会いたいから。昨日も夢に出てきた方がいて、何をするわけでもなく、いつものように「こんにちは」ってペチャクチャ話して笑って・・・という夢を見ました。その何気ないことが楽しいんですね。語弊はありますが、会話の中身よりも一緒にいて時間を共有できるのが好きなんですよね。

 一概に、ただ一緒にいて楽しいだけというわけにはもちろんいかないです。利用者の方からすると、僕は孫みたいなもの、孫扱いなんですね。そうすると、どうしても介助等で必要になる「こうしてもらいたい」ということなどが、なかなか通りにくかったりすることもあります。介護職員としての態度をとるべきなのかもしれないですけど、そう切り替えたところで自分にはスキルが少なかったりするので、説得力に欠けてしまうことも。今後、僕自身がもっと技術を身につけて、勉強あるのみです。

 今朝もデイサービスの送迎があったのですが、いざ出掛けるとなると、戸締りやガスの元栓が気になり、何度も確認される方もいます。限られた時間の中では、デイサービスの車を待たせてしまうことも。不安を解消して気持ちいい状態でデイサービスの車に乗ってもらうのを時間内でやらなければならないのに、それを時間オーバーしないとできない自分は未熟だし、今日は、朝からブルーでした。

得るものが大きく影響を受けた曲も

 「いつ自分みたいな身体になるかわからないんだから、好きなことをやりなさい」と口が酸っぱくなるほど、何度も言ってくださる利用者の方も。その方に影響されて作った曲があります。でも本当に好きなことだけをやっているのかというとそうじゃない。本当に好きなことだけしかやらないのは無理だし、単なるわがままになってしまう。必要のない縛りとかを作っている自分が少なからずいるわけで、どこまでそういうのを壊して自分らしくやれるのかを大事にしたいと思って作った曲です。利用者の方には恥ずかしくて伝えてはいませんが、いつか伝えることができたらいいです。利用者の方との会話は曲作りにもインスピレーションを与えてくれるし、人生にも多くの示唆を与えてくれます。

 介護でも音楽でも大事にしている部分は同じだと思うんです。介護も音楽も人と関わるもの。介護では接するときの自分の素直な気持ちが伝わり、音楽でも演奏するときに何も思っていなかったら、聴いている人にも何も伝わらないんですね。シンガーソングライターと両立させるために、介護と音楽の共通点や影響するものを増やして工夫につなげています。

 現場でも一番に直面する問題も同じです。基礎ができてなかったり、曖昧だったり、いい加減だったりからくる、失敗みたいなものとかあります。いまいち完璧になりきらない部分というのは介護でも音楽でも同じですね。

あらためて大切な意味を気づかせてくれる

 介護職の魅力は、正直なところ最近よくわからないんです。介護職という仕事は必要ないに越したことはないとずっと思っているんですね。それを前提にして思う介護の魅力は、少しでも介護の必要がなくなるというようなことも目指していいことかなと思います。少し矛盾しているんですけど、訪問先ですることがないと感じられることが僕にとってはありがたいんです。介護のために訪問しているのですが、感覚としては「遊びに来ました」という感じで。デイサービスに出掛けるときも、「やってくれてありがとう」ではなくて、「そろそろ行くけど、一緒に行く?」みたいな。「じゃあ、玄関まで一緒に行きますよ」というような感じでやれるように少しずつなってきたりするのは魅力だと思います。

 これは理想論なので、そういうわけにはなかなかいかないかな。でもどんなに小さなことでもいいんです。全くしゃべらなかった方が、着替えをして、さあ行きましょうというときに、「ありがとー」って言ってくれる。それって大きな一歩だと思う。そういうのが見れるときは嬉しいし、魅力だと思います。

 言葉の一つひとつや、態度の一つひとつに、あらためて大事な意味に気づけることも。「酸素は大事なんだよ」って言われても通常は、あまり意識はしない。でも、この酸素が薄いような、自身でできることがごくごく限られているような方々が、何か一つポンッとできるようになったり、できたりした瞬間には、「これができるというのは本当に素晴らしいことなんだ」と心から思える。その瞬間に立ち会えることが、この仕事の素晴らしいところだし魅力だと思いますね。

【久田恵の視点】
 音楽の言葉、介護の言葉、どちらも相手に気持ちを伝える表現であり、伝える何かを持っていなかければ何も届きません。石橋さんにとって介護の仕事とは、自分の表現にたくさんの示唆を与えてくれて、自分を豊かにしてくれるものなのですね。そんな思いを抱きながら、介護の仕事に向き合う人がいると思うと、心が温かくなります