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介護職に就いた私の理由(わけ)

さまざまな事情で介護の仕事に就いた方々の人生経緯と、介護の仕事で体験したエピソードを紹介していきます。「介護の仕事に就くことで、こんなふうに人生が変わった」といった視点からご紹介することで、さまざまな経験を経た介護職が現場には必要であること、そして、それが大変意味のあることだということを、あらためて考えていただく機会としたいと考えています。
たとえば、「介護の仕事をするしかないか・・」などと消極的な気持ちでいる方がいたとしても、この連載で紹介される「介護の仕事にこそ自分を活かす術があった・・」というさまざまな事例を通して、「介護の仕事をやってみよう!」などと積極的に受け止める人が増えることを願っています。そのような介護の仕事の大変さ、面白さ、社会的意義を多くの方に理解していただけるインタビュー連載に取り組んでいきます。


●インタビュー大募集
「このコーナーに出てみたい(自薦)、出してみたい(他薦)」と思われる方がいらっしゃったら、
kawase@chuohoki.co.jp
までご連絡ください。折り返し、連絡させていただきます。

花げし舎ロゴ

花げし舎ホームページ:
http://hanagesisha.jimdo.com/

プロフィール久田恵の主宰する編集プロダクション「花げし舎」チームが、各地で取材を進めていきます。
久田 恵(ひさだ めぐみ)

北海道室蘭市生まれ。1990年『フイリッピーナを愛した男たち』(文藝春秋)で、第21回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。
著書に『ニッポン貧困最前線-ケースワーカーと呼ばれる人々』(文藝春秋・文庫)、『シクスティーズの日々』(朝日新聞社)など。現在、読売新聞「人生案内」の回答者、現在、産経新聞にてエッセイを連載中。

第32回 調理員から介護の道へ 
ホームと、介護職としての私は同い年 
一緒に、ゆるやかに成長していきたい

田中洋子さん(46歳)
まどか川口芝(埼玉・川口)

取材:藤山フジコ

とにかく、資格を取ってみれば!

 介護職に就いてまだ半年です。以前は、学校給食センターで調理員として10年働いていました。その給食センターが閉鎖することになり、「この先どうしようかな・・」と思っているとき、ハローワークで介護職員初任者研修のパンフレットをもらったのです。3か月くらいずっと「自分にできるかな・・」と悩んでいたのですが、介護職に就いている友人に「とにかく、資格を取ってみれば!」と背中を押されたことがこの道に入ったきっかけです。資格取得後、ちょうど「まどか川口芝」がオープニングスタッフを募集していたので応募し、採用されました。ホームのオープンと同時に私の介護職人生も始まりました。

 ここは定員58名の介護付有料老人ホームで、自分の子どもと同じくらい年齢の若いスタッフも多く、「なんで私ここにいるんだろう」と最初は戸惑うこともありました。今は、気持ちの熱いスタッフたちにサポートしてもらったり、悩みを聞いてもらったりして、本当に助かっています。以前の仕事では人間関係に悩むこともあったので、ここで働けて恵まれているなぁと感じています。

年の功が役立つこともある

 介護職1年生の私は介護技術の面ではまだまだ未熟なので、わからないこと、できないことに直面したら、すぐに経験のあるスタッフに尋ねて技術を覚えるなど、日々勉強です。そんな私ですが、年を重ねているからこそできることも。認知症のご入居の方と若いスタッフとの言葉の行き違いがあるような時には、「申し訳ありません。私の娘(のようなもの)なんです」とその方に声をかけると、娘さんがいらっしゃる方だったので、「あなたも大変ね」と穏やかになられたり。体力や力ではとても若いスタッフにはかないませんが、年の功が介護に役立つこともあるのではないかと思います。

 息子を2人育ててきましたが、ご入居の方に子育ての悩みを聞いていただいたり、励まされたり・・。子育てをしてきたことが共通の話題となって花が咲き、この仕事の潤滑油となっています。

 こちらのホームは立ち上げ時から認知症のケアに力を入れています。認知症の方も、そうでない方も入居されていますが、皆さまに生き生きと暮らしていただけるように、役割をもっていただくことを大切にしています。ご入居の方同士で助け合ってらっしゃる姿もよく見られます。ホームの中に調理班や園芸班があり、お一人おひとり、得意だったことを楽しまれています。

 調理班は月に1度、ご入居の方全員で料理会議を開き、メニューを決めます。いよいよ調理班が調理を担当するときには張り切ってマイエプロンを準備する方もいらしたり・・。おにぎり用の鮭を焼いてほぐす係や、お米を研いでセットする係など分担作業で仕事を進めます。我々スタッフはお手伝いはせずに側で見守るんですが、そうすると、「大丈夫よ~」って、余裕の笑顔で返してくださいます。主婦だった方も多いので、皆さま手際がいいですね。

 最後はすごく美味しい料理が出来上がります。一番人気は「糠床当番」。当番制になっていて、園芸班が作った野菜を糠床に漬ける係なんです。今朝は「糠床を見せて」とご入居者の男性がおっしゃるので、一緒に糠床を見ていたら、その方が子どもの頃のお母さんの思い出をポツリ、ポツリと話してくださいました。

 園芸班では、庭の花壇に花を植えたり、花壇の奥の畑で野菜を育てたり。私は畑の経験がないので、皆さまに畑のイロハを一から教えてもらいました。園芸班で作った野菜は、毎日の食事に使われています。

この仕事に就いて、人生観が変わりました

 できることはご自分でしていただくために自立を促すことがホームの方針なので、毎日の食事も、ご入居者の皆さまが自分でお箸を用意し、トレーを持って配膳に並びます。ご飯も自分でよそいます。ここでも、スタッフは必要以上のことはせず見守ります。スタッフが用意したほうが早く終わるのですが、それでは自分たちの都合になってしまい、ホーム立ち上げのときの介護理念とは違ってしまいます。そんな見守る介護が功を奏し、まるで我が家にいるような自然な感じで食事が終わると、ご入居の方自ら自主的に食器を洗ったり、皆のお茶を淹れてくださったり。「私は洗うから、あなた拭いてね」とお互いで役割分担までされています。

 認知症があって、食事が終わると歩き回られてしまう方がいると、他の方が私たちに行き先を教えてくださったり、食器を片づけるとき、戻す場所が分からず何度も同じことを質問してしまう方にも丁寧に答えていらしたり、お互いを労わりながら暮らしている皆さまの姿を見ていると、血のつながりはありませんが、家族のように思えてきます。

 この仕事に就いて、人生観が変わりました。

 田舎で一人暮らしをしている母に対しても優しくなれたかなって。以前は買い物などでお年寄りを見ても何とも思わなかったのですが、今はすごく気になります(笑)。自分も年をとっていくんだということも最近よく感じるようになりました。子どもに対しても待てるようになりましたね。

 今後の目標は、ご入居の方が介護されていると感じることなく、自然に自分から動いているんだと思えるような介護技術を向上させることです。今はご入居されている皆さまと毎日過ごせることが楽しいですし、職場に来るのが楽しみなんですよ。

まどか川口芝には図書館もあります

インタビュー感想

 取材時には、「介護職半年」と話していた田中さん。活気にあふれ、フレッシュで生き生きとされていました。声が大きいので、田中さんがどこにいても分かるんだとか(笑)。「毎日、働きに来ることが楽しみ」と言えることは素晴らしいことだと思いました。ホームも開設して半年、どこもかしこもピカピカで明るく、きれいな施設は気持ちよく働きやすいとのことでした。新しい施設らしく、さまざまなことに取り組んでいこうという気概にあふれています。現在、地域の介護セミナーを無料で行ったり、施設内の図書館を地域の方に開放したりしています。自由で活気があり、開放的な新しいホームだと思いました。

【久田恵の眼】
 「自立を促すホーム」というのは、とても大事な視点ですね。さらに、入居者が、介護されていると感じないで自然に生活ができるホーム、これも理想ですね。これは、ほとんど究極の介護理念と言えるのではないでしょうか。そのようなホームには、誰でも入りたくなります。ついでに入居者同士が助け合い、協力し合うことで、経費も安く利用できたら、もう言うことがないと思いました。高齢者のためのホームって、こういうものだ、という固定観念が知らず知らずに固定されてしまいがちです。そうなってしまうと、そこからなかなか自由になれなくなり、奔放で自由で、かつ本質的な介護理念が生まれなくなってしまいます。常に、革新的で、新しい介護理念が、現場で働く人の具体的な仕事の中から追求されていったらいいな、と願います。