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和田行男の婆さんとともに

和田 行男 (和田 行男)

「大逆転の痴呆ケア」でお馴染みの和田行男(大起エンゼルヘルプ)がけあサポに登場!
全国の人々と接する中で感じたこと、和田さんならではの語り口でお伝えします。

プロフィール和田 行男 (わだ ゆきお)

高知県生まれ。1987年、国鉄の電車修理工から福祉の世界へ大転身。
特別養護老人ホームなどを経験したのち99年、東京都で初めてとなる「グループホームこもれび」の施設長に。現在は株式会社大起エンゼルヘルプ地域密着・地域包括事業部 入居・通所事業部部長。介護福祉士。2003年に書き下ろした『大逆転の痴呆ケア』(中央法規)が大ブレイクした。

応じる


 16日~18日「注文をまちがえる料理店」(実は僕、実行委員長でした)のイベントが終わりました。

 この取り組みについては僕が書かなくとも、すでにテレビで放映され、新聞やネットで報道されていますので、僕はこの中で起こった「婆さん支援の至らなさ」について書いてみようと思います。

 ある介護保険事業所で暮らすトメさん(仮名)さんと留蔵さん(仮名)が、ウエイトレス・ウエイターとして参加されました。

 以下、僕が三日間を終えた後、うちの職員たちに送ったメールと、トメさんが暮らす介護保険事業所責任者Aと留蔵さんが利用する事業所責任者Bとのやりとりです。
(若干文章は省略したり読みやすいように書き換えています)

トメさんのはなし

和田からみんなへ

 注文をまちがえる料理店の表方・裏方で前線に立って奮闘してくれた方又、後方で取材対応してくれた方、本当にありがとうございました。

 この取り組みで感じたことは、大事なことは『日常=普段』で、婆さんを含めて、表方も裏方もうちの法人の素晴らしさが出ていたなと思いました。
 そうはいっても、まだまだの面もあり、精進せねばです。

 韓国、中国、アルジャジーラ、ロシア、ニョーヨークタイムズと取材を受けたので世界中に報道される取り組みとなりましたが、そんな華やかさに惑わされることなく『日常=普段』を不断の努力で職員さんたちと追求していきましょうね。

トメさんが入居するグループホーム責任者Aから

 トメさんを「混乱」させてしまった場面もあり冷や汗が出ましたが、本人が「私まだまだできるね。自信がついたわ」と話されいたので良かったと思います。

 事業所に戻られると、「も~なんだか連れていかれて、疲れちゃったわよ」と話していたそうで「楽しかったとは言わなかった」ようですが、ウエイトレスをしていた数時間の彼女の素敵な姿を職員さんたちにも見ていただきたかったです。

 あの「混乱」は想定出来たことで、事前に手だてをとるべきでした。ウエイターを終えたあとトメさんに声をかけて外食に出かけていたら、あんな風にはならなかったのになと反省しきりです。

 というのもウエイターさんが休憩する場所を事前に見たときに「トメさんには無理な環境」だと直感的に思ったからです。

 こんな素敵な認知症時代が来るなんて。私が働ける若さがあるうちに、もっと足を突っ込み、仕事をしたいですわ。

和田から責任A者へ

 なんぼでも仕事してや。ハハハ。
 Aさんに、トメさんに「最後まで働いていただくという選択肢」がなかったのかなって感じでした。

 Aさんは「決まりごとに合わさせようとした」、そこを重んじて「トメさんの気持ちを大事にできていなかった」んじゃないかなって思いましたが、どうなんでしょうかね。

責任者Aから

 ほんとそうですね。
 休憩場所は「トメさんには難しい」と思えていたのに、タイムスケジュール的なことばかり考えてしまいました。
 案の定、トメさんにとって休憩場所が「やくざの組」に思えたようで「私に組から抜けて早く帰れ、私は一人で帰れるから」となってしまいました。

 和田さんが言うようにトメさんを見ていて「午後からのウエイトレスもしたい・する」という思いをもっていることに気づけていたのですが、「取材が入る、もし大きな声をあげてしまったら」と後ろ向きになってしまいました。

 先を読むことができても、先を見据えて手立てを講じることができない私ですが、混乱された後「気分を変えていただけるかな」と思い、敢えて高級ホテルの喫茶店にお誘いしたことが転機となり、料理店に戻っていただけたし、しかも戻っていただけた時間が「ウエイトレスとして働いた謝礼金を受け取る時間」と重なり、謝礼金を受け取ったトメさんのキリッとした顔つきを見て又、いろいろと考えることができました。
 認知症の方の生きること支援って、ホント難しい!
 これからも、チャレンジします!

和田から

 『婆さんに学んで婆さんに還す』
 いつも僕が言っていることを噛み締めて「日常」に取り組もうね。

留蔵さんのはなし

 18日テレビ朝日が「羽鳥慎一モーニングショー」で「注文をまちがえる料理店」を紹介してくれました。
 その番組では、料理店でウエイターをされた留蔵さんの「普段の様子」の一部として、うちの介護保険事業所利用中の様子が流されました。
 その録画を見てすぐ事業所責任者Bに連絡を入れました。

和田から

 責任者Bさんへ
 事前取材から料理店への参加まで、いろいろありがとうございました。いま名古屋に戻り、18日朝放送された番組(羽鳥慎一モーニングショー)を見ました。
 Bさんは、あれを見てどう感じていますか?

責任者Bから

 「当初は無表情が多かった源蔵さん(仮名)ですが、大活躍でしたよ!イキイキ輝いていました。」と家族に伝えたところ、「こんな人でもまだ役に立てますか?」と、久しぶりに笑顔で応えてくださいました。

 留蔵さんはご家族がくたびれきって「何処の施設でも受け入れてくれるのであればすぐに入れたい」と切羽詰まった家族状況でしたが、最近は「いずれは…」に変わってきました。

和田から

 僕は、番組の中で映し出された「デイサービス利用中に塗り絵をしている留蔵さん」と「注文をまちがえる料理店で僕が世に問いかけていること」とのギャップに、かなり愕然となりました。
 また改めて議論しましょうかね。僕の見間違いなら良いですが。

責任者Bから

 確かに、あの留蔵さんが「なぜ塗り絵を」と思うのは当然の事だと思います。
 きっかけはたまたま隣に座った男性の趣味が「大人の塗り絵」で、それをやっているのを見て「僕も意外とこういうの得意なんだよ」と言い、いただいて塗りだしたことがきっかけです。
 でも留蔵さんは長時間座って何かをする事があまり得意ではないし、私たちとしても塗り絵をするよりも、もっともっとチャレンジして欲しい事があるので、こちらから積極的に塗り絵をすすめる事はありません。
 事業所に到着して血圧測定をするまでの数分間など、活動の合間にやる程度で、1日長くても10分やっていないと思います。
 ただ、職員が留蔵さんに適したことを見出せなかったり、他の利用者支援で手が回らない時などに「意外に得意と言ってくれた塗り絵」を利用してしまうことがないように気を付けなければならないと思います。

責任者Bから

 改めて「塗り絵」の件です。
 スタッフたちに確認したところ、やはり「自分から塗り絵を取りに行くし本人は好きでやっているのだと思う。」という意見でした。
 でも、気になったのでいつものように塗り絵を取り出してはじめようとしたときに「あれ、留蔵さん、そんな才能もあったんですね。塗り絵が好きなんですか」って声をかけてみたところ、「じっとしているのが好きじゃないんだよね!仕事が終わって(これ料理店のことでしょうね)今はとりあえず頼まれている仕事もないし、次の仕事頼まれるまでこれでもやってようかなって」って答えられました。

 留蔵さんは、最初は興味を持って取り組まれたかも知れません。でも、私たちが「好きでやっている」と思い込み、塗り絵で時間を潰させていました。プロ失格です。思い上がっていました。猛省しています。
 留蔵さんだけでなく、他の利用者に対しても同様に目線を変えて行かなければと思います。

和田から

 留蔵さんをいつまでも「利用者」にしておいてはねぇ。
 情けないですよ。

 僕らは常に情報(状況・状態)をキャッチして、自分たちを変幻自在に変化させることで「婆さんに応じて手立てを講じていく専門性」を持ち合わせないと、このふたつのお話のようなことが起こるってことでしょうね。

追伸

 書いていて思いましたが、「アルジャジーラ・テレビ(IS報道で有名なところでしょ?)」の取材を受けた日本人は珍しいんじゃないでしょうか。こりゃ、まずいなぁ! 大失敗やわ。

写真

 来春小1になるチビ(写真の子どもではありません)の「ランドセル分捕り騒動」は数か月前に終えましたが、近年のランドセルのまぁ華やかなこと。
 ランドセル多色選択OKという環境ができて、国民に応じた結果なんでしょうね。この写真を「額」にできますものね。

 でも、いいのかどうか、ちびっこの迷いは半端じゃなかったですね。生活保護を受けていた僕には考えられない「迷い」ですし、そもそも時代が「黒か赤」って時代でしたからね、異次元ですよ。
 でも「選択肢が広がる」っていうことは良いことです。大事にしないとね「選択権」を。