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ルポ・いのちの糧となる「食事」

下平貴子(出版プロデューサー・ライター)

食べること、好きですか? 食いしん坊な私は、食べることが辛く、苦しい場合があるなんて考えたことがありませんでした。けれどそれは自分や身近な人が病気になったり、老い衰えたりしたとき、誰にも、ふいに起こり得ることでした。そこで「介護食」と「終末期の食事」にまつわる取り組みをルポすることにしました。

プロフィール下平貴子(出版プロデューサー・ライター)

出版社勤務を経て、1994年より公衆衛生並びに健康・美容分野の書籍、雑誌の企画編集を行うチームSAMOA主宰。構成した近著は「疲れない身体の作り方」(小笠原清基著)、「精神科医が教える『うつ』を自分で治す本」(宮島賢也著)、ほか。書籍外では、企業広報誌、ウェブサイト等に健康情報連載。

第24回 在宅の「食べる」を支える
訪問リハチームのチャレンジ(前編)

はじめに

 今回から2回に亘り、医療法人社団緑友会らいおんハートクリニック(千葉県市川市)の摂食嚥下機能障害治療&リハビリテーションの取り組みをご紹介します。
 同クリニックでは、外来診察・リハビリテーションも行なっていますが、記事では主に在宅療養・介護への訪問リハビリテーションチームの活動について述べます。それは、食べることは365日×3度の問題で、入院中以外の機能評価やリハビリテーションは実際に食事をとる家庭で行なわれるのが適しているとうかがったためです。

 お話をうかがった同クリニック言語療法部門主任・言語聴覚士の山崎勇太さんは、「例えば食事をとるテーブルの高さによっても嚥下の状態は変わるので、クリニックのテーブルではなく、ご自宅で状態を診るのが望ましいのです。また普段、食事介助や口腔ケアをされるご家族とも十分なコミュニケーションが必要ですから、摂食嚥下機能障害の改善には『訪問でのケア』が重要です」と説明してくれました。
 今回は、現状「まったく食べられない人」に対する訪問リハビリテーションを中心にうかがった内容をまとめ、次回は「食べる機能の低下がみられる人」に対するケアについてまとめます。

「食べられない」ケースのケア
環境づくりと誤嚥による肺炎予防

 まったく食べられない人というのは、要介護度が高く(5または4)、人工的な栄養補給策(胃ろう、経鼻胃管)をとっている人で、摂食嚥下のリハビリテーションといっても「食べ物」を使わないケアを行なうケースです。
 こうした状態にある場合、食べられるようになるための環境づくりと誤嚥性肺炎の予防ケアがポイントになります。歯科医療とも連携し、お口の機能アップと口腔衛生の維持・改善に取り組み、家族など介護者への口腔ケア指導も併せて行ないます。

 誤嚥性肺炎は、胃ろうや経鼻胃管からの逆流、風邪をひいたときの嘔吐、また口内細菌を含む唾や痰の誤嚥などでも起こるので、食事をとっていなくてもお口の機能リハビリテーションと口腔ケアが必要なのです。
 また、感覚刺激がリハビリテーションによい影響を与え、お口の自浄機能を高めることや、不快感を緩和し、QOLを改善することも少なくありません。

「原因や状態が千差万別で、ああすればこうなるといったことではないので、一人ひとり最善と考えられるケアをします。状態が大きく改善し、食べられるようになる方もいらっしゃいますが、中には環境づくりがゴールになる方もいらっしゃいます。
 それでも、何かしら改善の可能性は等しくあるので、まったく食べられない場合も摂食嚥下のためのリハビリテーションは重要なのですが、残念ながら周知されていません。口腔ケアについては理解がある方も多いですが、相乗効果があることなので、両方必要と説明しています」(山崎さん)。

 本連載の他の取材でも感じたことですが、家族はもとより、医療や介護に携わる人の中にもまだ食べることの問題は正しく理解されていないことがあり、「胃ろうになったら、食べることのリハビリテーションは不要」などと誤解されていることがあります。
 そして医療・介護保険制度上、胃ろうをつくって退院した後(在宅)の、フォローのしくみは万全ではなく、地域においては摂食嚥下の専門性が高い人材(チーム)不足もあって、本人や家族が強く求めなければリハビリテーションにはつながりにくいようです。

「摂食嚥下機能障害では、しばらく時間が経った後にリハビリテーションを始めた場合でも、何らかの改善がみられるケースがあります。そうしたことを思うと、ご本人や家族、関わった医療・介護者が『もう食べられない』『必要ない』とあきらめてしまって、リハビリテーションにつながらないのはもったいなく思います」(山崎さん)。

 同クリニックの訪問リハビリテーションチームは、摂食嚥下評価・訓練の啓発等で全国を飛び回る歯科医の戸原玄先生(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科老化制御学系口腔老化制御学講座高齢者歯科学分野准教授)ほか、摂食嚥下を専門とする歯科医とも連携して訪問リハビリテーションを行なっているとのことですが、戸原先生との出会いは、「3年後には食べられるようになりたい」という強い希望から、自ら戸原先生に往診を頼んだ患者家族が結んだ縁だったそうです。

「患者さんのおかげで実現した戸原先生との出会いは、僕ら訪問リハビリテーションチームのその後を変えるものでした。
 クリニックの『一人ひとりのご要望に添ったあきらめない治療を行なう』という診療方針に基づき、チームの日下智子代表ほかスタッフ一同で『患者さんにとことん関わり、責任をもつ訪問リハビリテーションチームをつくろう』と努力していますが、その大きな目標に向かって1歩ずつでも進めているのは、戸原先生ほか在宅医療・リハビリテーション専門医から貴重な学びを得ているおかげです。

 摂食嚥下について、歯科医療の評価やケアと、脳外科医療の中で学んだ言語聴覚士の評価やケアには相違点もあります。とくに口や喉の構造から機能障害の改善を診たてる歯科の診療技術に、学ぶことが大きいと感じています。
 他の患者さんも含め、定期的に往診していただけ、訪問リハビリテーションの指示や相談に対応してもらえることで、患者さんにとって実効のあるリハビリテーションに取り組め、チームのケア技術を高めることができ、感謝しています」(山崎さん)。

 介護保険制度のしくみでは、医師、歯科医師の指示に基づく在宅ケアを行なうのが訪問リハビリテーションを担当する言語聴覚士の仕事なので、在宅でのリハビリテーションに明るく、熱心な医師、歯科医師との連携は不可欠です。
 もしも主治医やかかりつけの歯科医が「胃ろうだから、食べることのリハビリテーションは不要では!?」などと無理解な場合、リハビリテーションにはつながりません。医師から改善の可能性が説明されることもないため、家族も無理解なまま、地域のケアマネジャーや病院のソーシャルワーカーに問題が伝わる機会もないでしょう。
 摂食嚥下機能障害やリハビリテーションについては昨今、マスコミで報道される機会が増えてきたので、報道から知識を得て、自発的にリハビリテーションを求める患者家族が増えているとしても、今はまだケアの網からこぼれている人がいるのではないでしょうか。

 団塊の世代が後期高齢者となる2025年から90歳となる2040年、病院や施設が受け止めきれないということもあって「地域包括ケア(在宅療養・介護)」の整備が行なわれています。医療介護総合確保推進法が成立し、国主導ではなく各都道府県で地域医療の見直しが始まることになりました。
 摂食嚥下機能障害のケアに限ったことでなく、既に先駆的な好事例は多数生あります。しかし「高齢者のケアとキュア」や「老年医学」について今以上に知識を深め、しくみをつくる必要がある地域もあり、そうした場合しくみを機能させ、行き渡らせるのは人なので、地域の医療・介護関係者も、また一般の生活者も急ぎ学ぶ必要があるでしょう。
 一般の生活者が知識を深める必要があるのは、今後は今以上に自立した健康づくりが必要とされていて、そのためのサービスは「摂食嚥下で困っている」「改善したい」などと自ら具体的にサポートを求める声をあげなければ受けられないからです。

「口から食べる、食べないということだけでなく、在宅でのよりよい療養・介護のために摂食嚥下リハビリテーションの継続を大事に考えていただきたいと思います。そして、結果的に一口でも好物が召し上がれたら、患者さんの体力アップと、ご家族の喜びや思い出につながります」(山崎さん)。

 同クリニックの訪問リハビリテーションチームは摂食嚥下の専門職として、地域医療の中での「理解の底上げ対策」の一環で、「訪問リハビリテーションの重要性と取り組み内容」を地域のケアマネジャー向けに紹介する機会を設けるなどして、ケアの網からこぼれる人を減らす努力をしています。
 また、同院が介護予防などのテーマで一般向けに定期開催しているセミナーでも、今後、テーマに摂食嚥下機能リハビリテーションも含めた「口腔ケア」を取り上げる予定です。

 次回も引き続き、「食べる機能の低下がみられる人」に対するケアについてご紹介します。

医療法人社団緑友会らいおんハートクリニック
千葉県市川市行徳駅前2-16-1 アルファボックスビル2F(東京メトロ東西線行徳駅前)
整形外科、リハビリテーション科、内科、代替療法