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介護職に就いた私の理由(わけ)

さまざまな事情で介護の仕事に就いた方々の人生経緯と、介護の仕事で体験したエピソードを紹介していきます。「介護の仕事に就くことで、こんなふうに人生が変わった」といった視点からご紹介することで、さまざまな経験を経た介護職が現場には必要であること、そして、それが大変意味のあることだということを、あらためて考えていただく機会としたいと考えています。
たとえば、「介護の仕事をするしかないか・・」などと消極的な気持ちでいる方がいたとしても、この連載で紹介される「介護の仕事にこそ自分を活かす術があった・・」というさまざまな事例を通して、「介護の仕事をやってみよう!」などと積極的に受け止める人が増えることを願っています。そのような介護の仕事の大変さ、面白さ、社会的意義を多くの方に理解していただけるインタビュー連載に取り組んでいきます。


花げし舎ロゴ

花げし舎ホームページ:
http://hanagesisha.jimdo.com/

プロフィール久田恵の主宰する編集プロダクション「花げし舎」チームが、各地で取材を進めていきます。
久田 恵(ひさだ めぐみ)

北海道室蘭市生まれ。1990年『フイリッピーナを愛した男たち』(文藝春秋)で、第21回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。
著書に『ニッポン貧困最前線-ケースワーカーと呼ばれる人々』(文藝春秋・文庫)、『シクスティーズの日々』(朝日新聞社)など。現在、読売新聞「人生案内」の回答者、現在、産経新聞にてエッセイを連載中。

第78回 大手機械メーカーを退職後、地域のサラリーマンOBたちと起業 
男たちが創った男のためのデイサービス

髙岡隆一さん(83歳)
特定非営利活動法人 生きがいの会
高齢者在宅サービスセンター 松渓ふれあいの家
(東京・杉並)

取材・文:藤山フジコ

「男の料理教室」の仲間とデイサービスをオープン

 定年後に、杉並区が主催した「男の料理教室」で出会った仲間と高齢者施設でうどん・そば打ちのボランティアを始めました。そこでは男性が隅っこの方にいて、レクレーションの歌だとかお手玉など全く楽しそうじゃなかったんですね。男女比も圧倒的に女性が多い。ちょうどその頃2000年に介護保険制度がスタート。男性が楽しめるデイサービスをつくろうとサラリーマンOB5人が集まり、2001年に、この「松渓ふれあいの家」がオープンしました。今年で17年目になります。

62歳で退職後に、第二の人生をスタート!

 大学卒業後、大手機械メーカーで営業をしておりました。当時は高度成長期の頃だったので猛烈に働いて、日本全国を飛び回る日々。55歳から関連会社のトップマネージメントを務めました。62歳のとき、あと2年勤めることができたのですが、元気なうちに第二の人生をスタートしようと会社を退職しました。故郷である愛媛で余生を送ろうと思っていたのですが、妻に「帰るんだったら一人で帰ってください。私は田舎にはとても住めません」と言われてしまい断念。第二の故郷である荻窪にソフトランディングして根をおろすにはどうすればいいか考え、シニアライフアドバイザー(シニアルネサンス財団)や、地域コミュニティーリーダー(長寿社会文化協会)の資格も取得し、地域に溶け込んでいきました。そこで出会ったサラリーマンOBたちと自主グループをつくり、活動を開始。その一環が高齢者施設でのうどん・そば打ちのボランティアだったのです。

自分たちが通いたくなるデイサービス設立へ

 その頃、杉並区が新たに学校の空き教室を利用した高齢者向けのデイサービスをコンペ形式で募集するということで、いずれ自分たちも施設の世話になるわけだと思い、自分たちが通いたくなるようなデイサービスを作りたいと手を挙げました。それでNPO法人「生きがいの会」を立ち上げたわけです。ヘルパー2級(現・介護職員初任者研修)も各自取得しました。

 公募によって、全く経験歴もなく、素人集団のわれわれグループが当選し「松渓ふれあいの家」の運営を委託されたのは、「男性が楽しめるデイサービスだと主張」したことが決めてとなったのだと思います。

プログラムの目玉は、マージャン、パソコン、ワインの日!

「松渓ふれあいの家」のスタートは中学校の空き理科教室。できるだけ男性に来てもらおうと、多彩なプログラム(マージャン、囲碁、将棋、パソコン、ガーデニング、書道、音楽、絵画等々)を目玉にすると、多くの男性が集まりました。人気のマージャンは世間では不健康なイメージがありますが、ここでは頭や指先を使うことでリハビリにもなり健康的だと強調。個人差もあるので組み合わせには気をつかい、楽しくプレイすることに色々と工夫と配慮をしています。

 毎月5の付く日は「ワインの日」。昼食時にワインが飲めます。コーヒー、紅茶も手で淹れることにこだわり、利用者さんに現役の頃と同じ気分を味わってほしいとの思いがあります。

 男性は、やらされることが苦手なんですね。他の施設で“やらされる„ことを嫌ってデイサービスに行きたがらなかった男性高齢者が、ここに来ることは楽しみにしてくれる。ここでは利用者さんのやりたい気持ちを尊重し、午後からの時間は自由に過ごしてもらっています。オープン時から男女比は7:3のままずっと変わりなく今も続いています。

定年後の20年をどう生きるのか

 16年経った今は、中学校が耐震の建て替えで、全館新築しましたが、「松渓ふれあいの家」はそのまま分離し残存しました。中学校の敷地内にあるので中学校の生徒とも文化祭、ボランティア活動など交流は変わりなく続いています。

 デイサービスや福祉の仕事はボランティアが必要で非常に戦力になる。定年後の人生は20年もありますからね。地域社会にボランティアとして参加していくことは健康にもなりますし、生き甲斐にもなります。私も80歳になったとき、理事長を引退し、現在ボランティアスタッフになり、今は木曜、土曜日に遊びにきています。「NPO法人生きがいの会」、「松渓ふれあいの家」を立ち上げから参加した仲間も今はボランティアとして参加しています。ここに来ることが生き甲斐ですし、利用者さんが楽しんで笑顔で帰っていく姿を見ると気持ちが満足感で満ちてきます。利用者さんも満足感を持って帰ってもらいたい。

今後の在宅ベースの介護は元気なうちからのネットワークつくりが大切

 これからは在宅をベースにした介護が増えていくと思います。その為には地域のネットワークつくりが大切です。NPO「生きがいの会」は、元気な高齢者のための社会参加支援として、交流の場「ゆうゆう西田館」と「ゆうゆう荻窪館」の2館を杉並区から受託し運営しています。

 これから超高齢社会が進むにともない、「地域社会の居場所」も大きくクローズアップされます。高齢者の居場所づくりに貢献することも大切との思いで事業活動を展開しています。

 設立20周年は、ちょうど東京オリンピックを迎えます。それまでは元気で頑張りたいと思っています。「介護認定を受けるようになったら、ここへ通うので定員30名の席をひとつ空けておいて」とスタッフに話しています(笑)。福祉は人が財産。私共が築いていたものを、次の世代にバトンを繋いでいきたいと思っています。

 松渓ふれあいの家では、介護スタッフ、調理スタッフ、送迎スタッフを募集しています。お問い合わせは npo-ikigai@bronze.ocn.ne.jp または TEL:03-5347-1178までご連絡下さい。

先便で利用者さんが帰られた後、
後便待ちの利用者さんと一局打つのが楽しみ

【久田恵の視点】
 2015年、総務省から、日本の総人口に占める65歳以上の高齢者の割合が過去最高の26.7%となったこと、そして、80歳以上の高齢者の人口が1千万人を超えたことが発表されました。日本は、ついに超高齢社会に達したのです。若い世代が高齢者を支える時代から、元気な高齢者が要介護の高齢者を共に支える時代になったのです。その先陣を切って活躍をしてきた「松渓ふれあいの家」の先見の明には、脱帽です。