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山口晃弘の超幸齢社会の最幸介護術

山口 晃弘(やまぐち あきひろ)

超高齢社会を実り多き「幸齢社会」にするために、
介護職がすべきこととは?
元気がとりえの介護職・山口晃弘が紡ぐ最幸介護術。

プロフィール山口 晃弘 (やまぐち あきひろ)

介護福祉士、介護支援専門員。1971年、東京都生まれ。高校卒業後、設計士、身体障害者施設職員を経て、特別養護老人ホームに入職し、介護職・生活相談員を務め、その後グループホームの管理者となる。
現在、社会福祉法人敬心福祉会 千歳敬心苑の施設長。著書に『最強の介護職、最幸の介護術』(ワニブックス、2014年)、『介護リーダー必読! 元気な職場をつくる、みんなを笑顔にする リーダシップの極意』(中央法規出版、2021年)がある。

孤独死を救え

 社会問題になっている高齢者の孤独死。
 内閣府の高齢社会白書によると、全国の一人暮らしの高齢者の数は2000年に比べ、2015年は約600万人に倍増しているとのことです。

 誰にも気付かれずに自宅でひっそりと息を引き取る孤独死。想像するだけで辛く、哀しい気持ちになります。

 90代の女性Mさんは、自宅で一人暮らしをされていました。近い親戚はおらず、ご近所の方との付き合いもまったくない。彼女の自宅はいわゆるゴミ屋敷でした。行政が介入することになった時には、自宅に行くと雨漏りがひどくて畳も腐り、歩くと抜け落ちてしまう状態。冷蔵庫の物も消費期限が過ぎてしまっているものばかり。今日の命すら危ない状態でした。当法人のケアマネが担当することになり、まずは家の片づけとご本人をお風呂に入れるため、デイサービスにお連れしました。車の窓を全開にしても、失礼ながら耐えられないほどのにおいだったと言います。

 その後、Mさんはデイサービスに通うようになり、ショートステイをご利用になりながら生活しておりましたが、自宅で暮らすのは限界がきて、特養入居に至りました。
 やせ細り、体重も30㎏切ってしまったMさん。入居のタイミングで医師から既に看取り期である・・・とお話がありました。
 老衰・・・医療的にはそのように判断するのは分かっています。Mさんは既にほとんど食べない。飲まない。それでも食べてもらいたい。少しでも長生きしてもらいたい。そんな風に思うのが職員です。
 毎日申し送りを聞いていると、「アイスのピノを2個」「お刺身大トロを2切れ」「抹茶ラテを150cc」いやいや、それって施設の献立じゃないよね?と苦笑いしてしまうような物ばかり。「誰が買ってきてるの?」職員にそう聞いても、「いや、私が食べようと思って買ってきた物をおすそ分けしただけです」という返事しかかえってきません。
 褒められたことではありませんが、その優しい気持ちは上司として嬉しく思います。

 Mさんの一口一口に一喜一憂する職員達。一口食べる度に歓声をあげる職員に笑顔で応えるMさん。「この食事、全部食べたら100万円だって!」という職員に、びっくりして大笑いするMさん。
 以前の一人暮らしのままだったら、今頃Mさんはどうなっていたのでしょう。
 間違いなく言えることは、こんな人の温かさや笑い声の中で生きることはなかったということです。
 社会福祉施設として、Mさんのような状況にある人を救いたい。
 哀しすぎる高齢者の孤独死を一人でも救いたい。
 そう思います。