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スタッフの定着・成長を支える
リーダーシップとマネジメント

 今、介護をはじめとする福祉の職場では、新人スタッフの定着と成長が課題となっています。例えば介護職員などは、入職後4割が半年で辞めるという統計もあり、高い離職率が問題となっています。また、離職の背景として、給料や休みなどの労働条件の他に、職場の理念や運営方針、将来の見通しがたたない、人間関係などが指摘されています。
 この連載では、コミュニケーション論、人間関係論、集団・組織論がご専門の諏訪茂樹先生に、これらの問題をわかりやすく説明していただき、さらには具体的な解決策についても触れていただきます。福祉の現場でのリーダーシップやマネジメントの基本を学んで、あなたの職場のスタッフの定着と成長を支えていきましょう!

けあサポ編集部

諏訪茂樹(すわしげき)
著者:諏訪茂樹(すわしげき)

人と人研究会代表、東京女子医科大学統合教育学修センター准教授、立教大学コミュニティー福祉学部兼任講師。著書として『対人援助のためのコーチング 利用者の自己決定とやる気をサポート』『対人援助とコミュニケーション 第2版 主体的に学び、感性を磨く』(いずれも中央法規)、『コミュニケーション・トレーニング 改訂新版 人と組織を育てる』(経団連出版)、他多数。


第9回 専門家のための逆ピラミッド組織

スタッフは末端ではなく先端

 店員がコップに氷を入れてジュースを注ぐという、マニュアル通りの作業を始めようとしたら、目の前の客が「氷なしでお願いします」と言いました。その時、店員がいちいち管理職に報告、連絡、相談をしていては、客は店から出ていってしまうでしょう。20世紀の終わりにサービス業中心の社会となり、利用者一人ひとりに合った質の高いサービスが求められるようになると、指示がないと動かず、指示されたことしかしない「指示待ちスタッフ」が非難されるようになったのです1)。そこで、20世紀の終わりに登場したのが、カール・アルブレヒトが提唱した逆ピラミッド組織です2)。そこでは、一番上に位置づけられた利用者に対して、スタッフはニーズを聞き取りながらアセスメントし、目標を立てて計画し、サービスを提供して評価します。スタッフは末端ではなく、先端(フロント)に位置づけられるのです。単なる筋肉役ではなく頭脳役も果たしながら、目標管理を通して主体的に働くことになり、こうして「最善を尽くすための動機がもたらされる」3)のです(図1)。


管理職の役割は後方支援

 逆ピラミッド組織の管理職は、スタッフを上から押さえつける存在ではありません。サービスを担当するスタッフに対して、管理職は可能な限り権限移譲することになります。「権限委譲」はピラミッド組織において権限を任せるだけですが、「権限移譲」は権限を移すことになります。また、「可能な限り」というのは、移譲するには早すぎる未成熟なスタッフもいるからです。権限移譲したうえで、一人ひとりの利用者にあった最善のサービスを提供できるように、先端のスタッフを管理職は見守りながら、必要に応じて後方支援することになります。ピラミッド組織で行っていたような上からの指示・命令では、後方支援にはなりません。そこで、後方支援する具体的な方法として、後ほど詳しく紹介するコーチングを、ジョン・ウィットモアが提唱したのです4)

つまみ食いをせずにセットで導入する

 管理職がスタッフに権限移譲しなければ、スタッフは目標管理をしながら働くことができません。そして、目標管理をしながら働くスタッフを管理職が後方支援するうえで、コーチングは欠かせないのです。このように、権限移譲と目標管理とコーチングはいずれも、逆ピラミッド組織という一つのシステムを構成する要素であり、すべてをセットで導入しなければうまくいきません。まるでつまみ食いをするかのように、流行りの手法を単体で取り入れる傾向があります。しかし、古いシステムの中に新しいシステムの一要素を取り入れても、機能不全を起こすだけです。権限移譲、目標管理、コーチング、そして逆ピラミッド組織を、調和する一つのまとまりとして体系的に学び、取り入れなければならないのです。

利用者中心のチームワークの実現

 逆ピラミッド組織は、目標管理を労働様式とする専門家集団にとっても、ふさわしい組織だと言えます。21世紀に入ると、さまざまな専門家集団の職場において、逆ピラミッド組織を取り入れる動きがみられるようになりました。各専門家集団が逆ピラミッド組織を実現し、先端の多様なスタッフが連携しながら働くことにより、利用者中心のチームワークが実現することになります5)(図2)。こうして「高い視点と広い視野がもたらされる」3)のです。逆ピラミッド組織を非常識な発想だと思う読者は、「福祉 逆ピラミッド」「組織図 逆ピラミッド」等のキーワードを使い、インターネットで検索してみてください。多くの逆ピラミッド組織が見つかります。職場の組織論を体系的に学ばずに、現行のピラミッド組織を常識としていては、「井の中の蛙」といわれても仕方がありません。真の専門家集団の職場を目指して、組織改革に取り組むことをお勧めします。

文献:
  • 1)カールソン J.(堤猶二訳)『真実の瞬間』ダイヤモンド社、1990
  • 2)アルブレヒト K.(鳥居直隆監訳)『逆さまのピラミッド』日本能率協会マネジメントセンター、1990
  • 3) ドラッカー P.F.(伊藤雅俊訳)『現代の経営 上』ダイヤモンド社、2006、p.179
  • 4)ウィットモア J.(清川幸美訳)『はじめのコーチング』ソフトバンクパブリッシング、2003
  • 5)諏訪茂樹『看護にいかすリーダーシップ 第3版 ティーチングとコーチング、チームワークの体験学習』医学書院、2021、p.50

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