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スタッフの定着・成長を支える
リーダーシップとマネジメント

 今、介護をはじめとする福祉の職場では、新人スタッフの定着と成長が課題となっています。例えば介護職員などは、入職後4割が半年で辞めるという統計もあり、高い離職率が問題となっています。また、離職の背景として、給料や休みなどの労働条件の他に、職場の理念や運営方針、将来の見通しがたたない、人間関係などが指摘されています。
 この連載では、コミュニケーション論、人間関係論、集団・組織論がご専門の諏訪茂樹先生に、これらの問題をわかりやすく説明していただき、さらには具体的な解決策についても触れていただきます。福祉の現場でのリーダーシップやマネジメントの基本を学んで、あなたの職場のスタッフの定着と成長を支えていきましょう!

けあサポ編集部

諏訪茂樹(すわしげき)
著者:諏訪茂樹(すわしげき)

人と人研究会代表、日本保健医療行動科学会会長、東京女子医科大学統合教育学修センター准教授、立教大学コミュニティー福祉学部兼任講師。著書として『対人援助のためのコーチング 利用者の自己決定とやる気をサポート』『対人援助とコミュニケーション 第2版 主体的に学び、感性を磨く』(いずれも中央法規)、『コミュニケーション・トレーニング 改訂新版 人と組織を育てる』(経団連出版)、他多数。


第4回 リーダーをなくしたらスタッフが辞めなくなった

統率・けんいん型の古いリーダー像

 福祉職のリーダー研修会では、開始時に「リーダーとは何をする人ですか?」「リーダーシップとは何ですか?」と、参加者に尋ねるようにしています。そうすると、「集団を束ねて引っ張っていく人(こと)」という答えが、異口同音に返ってきます。確かに、20世紀に出版された古い書籍には、そのような記述もめずらしくありませんでした。20世紀は製造業中心の時代であり、しかもベルトコンベアによる大量規格生産が広がった時代でした。そこで、大規模工場で単純労働者を指示通り、マニュアル通りに働かせるために、集団を束ねて引っ張っていく統率・けんいん型リーダーが求められたのです。ところが、いうまでもなく福祉の仕事は製造業ではなくサービス業であり、規格化された標準的なサービスだけではなく、一人ひとりに合った個別のサービスも目指します。そこで、統率・けんいん型のリーダーシップを発揮しても、スタッフはついて来ないどころか、リーダーから離れて行ってしまうことにもなるのです。

リーダーシップ・スタイルは多様

 特定の時代に特定の産業で求められたリーダーシップではなく、そもそもリーダーシップとは何かを、まずは学ばなければなりません。リーダーシップはこれまで、おもに経営学や社会心理学など、社会科学の領域で研究されてきました。社会科学の領域では、リーダーシップの定義はリーダーシップ研究の数だけあると言われています。ただし、さまざまな定義から共通点を見つけることも可能です。その共通点をハーシー等は、「目標を達成するために、個人や集団に影響を及ぼす過程」とまとめています1)。このような定義から、リーダーシップは集団の中で発揮されるだけではなく、一対一の関係でも発揮されることがわかります。また、統率・けんいんは影響の及ぼし方の一つに過ぎず、その他にも、縁の下の力持ちとなってサポートしたり、権限移譲して見守ったりと、さまざまな方法があることもわかります。

スタッフもリーダーでありマネージャー

 前回にも述べた通り、職場の目的である理念を実現するために、目標を設定することになります。そして、その目標を達成するために、個人や集団に影響を及ぼすのが、職場におけるリーダーシップとなるのです。ここでついでに、マネジメントも定義しておきましょう。マネジメントでは人だけではなく、物、お金、時間、情報などのさなざまな資源を扱い、やりくりすることになります。それはやはり目標を達成するためであり、目標達成を通して職場の目的である理念を実現するためです。そうすると面白いことに、リーダーシップやマネジメントが必要になるのは、経営者や管理職だけではないことがわかります。スタッフも利用者の尊厳を守るために、物、お金、時間、情報などをやりくりしながら、利用者やご家族、あるいは同職種や他職種に影響を与えるのであり、つまり、リーダーシップやマネジメントはすべての職員に求められるものなのです。

20世紀型リーダーの廃止

 ある事業所の経営者から、「職場でリーダーをなくしたら、スタッフが辞めなくなった」という、とても興味深い話を聞きました。ただし、この言葉にはいくつかの補足が必要であり、補足を無視してリーダーをなくしても、うまくいかないでしょう。まず大切なことは、指示通り、マニュアル通りの単純労働をスタッフに求めるような、20世紀型のリーダーを廃止したということです。そのうえで、経営者や管理職だけではなく、スタッフも理念を実現するために目標を設定し、さまざまな資源をマネジメントしながら、リーダーシップを発揮できるようにしていかないと、実際の職場は回っていきません。特定のリーダー役がいなくても、スタッフの一人ひとりがリーダーシップを発揮する職場とは、どのようなものなのでしょうか。それは残念ながら一言で表現できるほど単純なものではなく、一夜にして出来上がるものでもありません。今後、回を重ねるごとに、その全体像を徐々に明らかにしていきます。

文献:
1)ハーシー P. ブランチャード K.H. ジョンソン D.E.(山本成二、山本あづさ訳)『行動科学の展開 新版』生産性出版、2000、p.88-89.