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宗澤忠雄の福祉の世界に夢うつつ

宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

疲労が溜まりやすい福祉の現場。
皆さんは過度な疲労やストレスを溜めていませんか?
そんな日常のストレスを和らげる、チョットほっとする話を毎週お届けします。

プロフィール宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

大阪府生まれ。現在、埼玉大学教育学部にて教鞭をとる。
さいたま市障害者施策推進協議会会長等を務め、埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

何もかも釈然としない

 新型コロナウイルス対策を盛り込んだ政府の第2次補正予算が成立し、医師・看護師や高齢者・障害者福祉施設職員に「慰労金5万円」が支給されることになりました。

 ところが、保育士を含む児童福祉施設職員は、慰労金支給の対象外となっており、全国社会福祉協議会は児童福祉施設の職員にも慰労金の支給を求める緊急の要望書を厚生労働大臣あてに提出しています(https://www.shakyo.or.jp/coronavirus/0601seisakuetc.pdf)。

 障害者支援施設等について詳しく説明すると、感染者の発生していない施設の職員には「慰労金5万円」が、感染者の発生した施設の職員には「慰労金20万円」が、それぞれ支給されることになっています。

 このような「慰労金」について、現場関係者のご苦労を考えると分かるような気がする一方で、どうしても釈然としない気持ちも残ります。どこかで本筋を外れてしまっている大問題があるように思うのです。

 まず、保育士を含む児童福祉施設職員を支給対象から外した問題についてです。学校の突然の休校措置にも対応して、学童保育や児童福祉施設の職員の血の滲むような努力を考えると、児童福祉施設の職員だけを外すというのは、とても容認することができません。

 先に示した全社協の緊急要望書が指摘している通り、「3密」を避けることのできない仕事の現実の下で、働く親や地域社会の機能を支える社会基盤を維持する観点から、児童福祉施設職員の皆さんは不断の努力を続けてきました。

 だから、まずは児童福祉施設職員にも慰労金を支給するのは当たり前です。

 しかし、待てよ…。北九州市の小学校では児童生徒にクラスター感染がすでに発生しているし、これから第2波が来ること(すでに来ている?)も想定すると、「3密を避けることのできない」小中学校や特別支援学校の教職員にも慰労金の支給を検討する必要が出てくるのではないか。

 子どもたちの支援に係る公共的な仕事のすべてを対象とすると、支給対象はあまりにも多くなって、財政出動が…、モニョモニョ…。で、特定の心配の種をなくしておくために児童福祉施設職員は支給対象から外されたのではないでしょうか。

 障害者支援施設の場合、感染者が発生した施設関係者のご苦労には大変なものがあるでしょうから、職員に「慰労金20万円」はまず「そんなところかな」と思います。

 しかし、待てよ…。感染者を1人も出さないように、施設全体で、職員と利用者の皆さんが一丸となって努力を重ねてきて、感染者の発生を食い止めてきた障害者施設の職員には「5万円」であるのに、感染防止の取り組みに問題があったために感染者が発生してしまった施設の職員に「20万円」というのは、間尺が合いません。

 新型コロナウイルスの患者対応に入院病床をもって対応している医療機関の従事者とそうでない医療関係者を支給金額で区別することには、あるいは一片の合理性があるかも知れません。しかし、福祉・介護支援の施設・事業所でこのような区別を設けることにどのような意味があるのでしょうか。

 学校が再開して、仮に、感染者の出ていない学校の教職員には「慰労金5万円」を、感染者の発生した学校の教職員には「慰労金20万円」をそれぞれ支給するとすれば、異論反論の続出は明白です。

 実際、私がよく知っている障害者支援施設の取り組みは、新型コロナの問題が浮上する以前からずっと、感染症予防の対策にしっかり取り組んできています。その上で、さらに消毒とバイタルチェックの徹底、面会の制限、すべての職員の私生活を含めた健康管理・感染防止の取り組みに細心の注意を払ってきて、感染者を発生させていないのです。

 それに対して、利用者全員に毎日の検温すらしてこなかった施設で、大規模なクラスター感染が発生しました。一部の報道によると、この施設の関係者は「知的障害のある人たちすべてに毎日検温するのは難しい」と発言しています。

 この施設の言い分はデタラメで大嘘です。障害者支援施設の多くは、非接触型検温器を普段から使用していることを知らないとでもいうのでしょうか。また、取り組み方に工夫を重ねていけば、通常の体温計でも、強度行動障害の人を含めて毎日検温を実施できるという「まともな施設の実践の事実」は、以前から多くの施設が共有しています。

 「知的障害」のあることを理由にして「毎日の検温を実施しない」という説明は、障害を理由とする直接差別の正当化です。

 そこで、感染防止対策の取り組みを常日頃から努力してきた施設の人たちは、「逆じゃないのか」と言うのです。つまり、感染者を出さない努力をしてきた施設の職員に「慰労金20万円」を、感染者を出してしまった施設を「5万円」とするのが筋ではないのかと。

 いや、待てよ…。この「慰労金」というのは何なのか? 新型コロナをめぐる「苦労をねぎらう」ことに目的があるとすれば、支給するところとそうでないところの区別があるのはおかしいし、「報奨金」ではないのだから感染者の発生の有無で差別化することは間違っているのではないのか?

 福祉・介護の現場で働く人たちは、普段から、さまざまな感染症のリスクに留意した取り組みに努力することで、利用者・家族と地域社会の「健康で文化的な生活」の実現に資する基盤的で社会的な共同支援サービスを維持しています。

 すると、この社会的責任の大きさにふさわしい待遇が、普段から保障されてしかるべきです。ここに、新型コロナウイルスの負荷がさらに加わったとき、一定の要件をもって制度的な公平性を担保した上で、「危険手当」を仕事の対価として支給するのが筋でしょう。

 それが、支給する側の「さじ加減」や「胸三寸」によって、「慰労金」といういささかあやふやな情緒的性格を付与されて支給するというのは釈然としません。はっきり言うと、儒教思想である「厚生」にふさわしい慈恵性の臭気を感じます。

 普段の待遇が低いために、新型コロナの問題を機に辞められると困るから、「今ここでごまかすためのインセンティヴ」として出されてきたものではないのでしょうか。

これも東京の「夜の街」-竹橋から神田方面

 都知事選が終わりましたから、最後に気兼ねなく、釈然としない怒りを一つ。新型コロナウイルスの感染者数の発表に登場する「夜の街」とは何のことですか? 「3密リスク」が高いのは、ホストクラブやキャバクラだけですか?

 「夜の街」という用語が最初に登場したとき、東京都は「新宿区と協力して」歌舞伎町周辺の「夜の街」関係者にPCRの集団検査を実施した結果、多くの感染者数が表に出てきたようなことを言いました。

 「夜の街」に働く人たちが、日中は他の市民と変わらない市中での生活行動をしているとすれば、「夜の街」を区別する意味があるのでしょうか。百歩譲って区別することに意味があるとしても、「東京の夜の街」はそこかしこにあるでしょう。

 渋谷、池袋、中野、赤坂、六本木、五反田、吉祥寺、立川、上野、鶯谷、錦糸町、八王子から福生周辺…。「夜の街」を市中一般と区別するために用いるのであれば、これらすべての「夜の街」感染情報を詳らかにする社会的責任が東京都にありはしませんか。

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