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梶川義人の虐待相談の現場から

梶川 義人 (かじかわ よしと)

様々な要素が絡み合って発生する福祉現場での「虐待」。
長年の経験から得られた梶川さんの現場の言葉をお届けします。

プロフィール梶川 義人 (かじかわ よしと)

日本虐待防止研究・研修センター代表、桜美林大学・淑徳大学短期大学部兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。

虐待の塔

強いぞ!三角形

 人間は象徴物としての「塔」が大好きなようで、塔は国や教会にはつきものです。日本にも、東京スカイツリーや東京タワーなど沢山の塔があり、「塔博士」と呼ばれた内藤多仲氏という有名人もいます。氏は、名古屋テレビ塔、二代目の通天閣、さっぽろテレビ塔、そして東京タワーなど、実に多くの丈夫な塔を建てた傑物です。

 氏の設計の特徴は「三角形」にあるといいます。多角形だけで面を構成すると構造上とても弱いけれど、斜交いを入れて三角形で面を構成した途端、非常に丈夫になるのだそうです。テレビ番組からこれらのことを知った私は、虐待問題にもこの三角形のようなアイデアを見出せないだろうか、と思いました。

 そして、テレビ番組を見終わり、最近重宝しているロボット掃除機で掃除をしていたところ、その動きにはあるパターンがあることに気づきました。まずは部屋の輪郭を辿ってから、内面を左右横方向に移動し、次は上下縦方向に移動し、全体をくまなく掃除しているようです。

鍵は斜交い

 どうやらロボット掃除機はあるパターンを繰り返しているようです。そして私は、色鉛筆で絵を描くときに、まず輪郭を描いてから、輪郭の内面を縦方向と横方向で塗るようなものだと思った途端、「縦と横といえば、このブログでも度々触れてきたイメージだ。ならばそこに、内藤氏の塔のような斜交いを入れてみたら面白いのではないか」と考えました。

 そこで改めて、このブログで触れてきた縦と横のイメージについて振り返ってみると、「支援ネットの番人とその資質」では、「人が何を必要としているか」を網羅的に捉えるために、縦糸をライフステージ、横糸を分野横断的な支援に見立てていました。また、「ピア支援計画(3)」の、強みと弱みの分析は横方向の発想、5段階は縦方向の発想だとも言えます。

 ここにどうやって斜交いを入れるのかですが、虐待発生の仕組みを「物語」として説明することや、解決の機序を段階的に説明することは、斜交を入れることにならないか、と閃きました。なお、物語や機序の段階をさらに一般化するとそれは「因果連鎖」であり、ひとつは直線的因果連鎖、もうひとつは円環的因果連鎖となります。

 だとすれば、虐待のみならず人身安全関連事案はみな、直線的ないし円環的な因果連鎖という斜交いが入っているために、三角形で構成される塔が丈夫であるように、頑健で手強い問題だとみることができます。もっとも、三角形さえ壊してしまえば容易に解体できそうです。すなわち、発生の因果連鎖を壊すような因果連鎖を見出すことが、悪化や再発の防止も見据えた解決の機序を考えるキモだ、というわけです。

「虐待の塔、完成しました!」
「建てちゃだめでしょう…」

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多士済々