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梶川義人の虐待相談の現場から

梶川 義人 (かじかわ よしと)

様々な要素が絡み合って発生する福祉現場での「虐待」。
長年の経験から得られた梶川さんの現場の言葉をお届けします。

プロフィール梶川 義人 (かじかわ よしと)

日本虐待防止研究・研修センター代表、桜美林大学・淑徳大学短期大学部兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。

遊んでこそ研修

 「名画チャレンジ」という遊びが世界中で流行っています。オランダ人の女性が、「#tussenkunstenquarantaine」というハッシュタグをインスタグラム(オランダ語で「アートと隔離のあいだ」という意味だそうです)で呼びかけたのが始まりです。ユーザーたちは自宅にある物を使って名画を模倣しては写真を撮り投稿しています。

 化粧や仮装は当たり前、ペットも食べ物もトイレットペーパーも総動員。ユーモアに富んだ創意工夫たるやまさに「お見事!」の一言です。「どうせなら外出自粛を楽しんじゃえ」という発想らしいのですが、これなら楽しみながら巣ごもりできそうです。

 一方わが国だって負けてはいません。たとえば、子ども向けの防災教育プログラムなどでは、ゲーム感覚で学べるような工夫が多く見られるようになってきました。災害ボランティアへの参加経験のある大学生たちの活躍が大きいようですが、楽しみながら学べるなんて素晴らしい。

 虐待のような社会問題に対しては、「襟を正して取り組まないといけない」という気持ちが働くせいか、研修などは堅苦しく建前的になりがちです。ですから、研修効果を高めるために、難しい本を読んでも眠くならなくするに等しいほどの工夫が必要になります。

 私も日頃、楽しく過ごすことが即ち学びになるような方法はないか、探しています。そのため、名画チャレンジや子ども向けの防災教育プログラムなど、成功事例には興味津々なのですが、最近では、鍵は「節度のある遊び」にあるのではないか、と思うようになりました。

 遊びは、知能の高い動物が、生きるうえで役立つか否かではなく、充実感や高揚感を得たり、安寧を感じたりストレスの解消になったり、心を満足させるために行います。しかも人間は、実に多種多様な遊び方をします。

 そして、この点こそが人間と他の動物や生物との違いだ、という考え方もありますし、自分の能力やエネルギーを無駄遣いしてこそ人間だ、という考え方もあります。考えてみれば、私たちの文化とは実は、こうした無駄遣いの産物なのかもしれません。

 そこで私は、「虐待防止の文化を生むためには、大人も子どもも、競争して一喜一憂し、偶然に賭けて熱狂し、模倣して大はしゃぎし、眩暈を起こして大興奮するのが、最も近道ではないか」と考えるようになった、というわけです。

 ただし、遊びは、参加しない人に対してどう作用するか問われませんから、注意が必要です。たとえ悪意のある行動であろうと、当人が遊びだと思っているなら「遊び」になってしまう危険性があるからです。

 当然、他者からは容認されませんから、これを線引きすることこそが「節度」なのだと思います。名画チャレンジや子ども向けの防災教育プログラムと、迷惑動画投稿の類とのあいだに引かれている、まさに「一線」です。

「研修の後遺症で…」
「効果あり過ぎ!?」