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梶川義人の虐待相談の現場から

梶川 義人 (かじかわ よしと)

様々な要素が絡み合って発生する福祉現場での「虐待」。
長年の経験から得られた梶川さんの現場の言葉をお届けします。

プロフィール梶川 義人 (かじかわ よしと)

日本虐待防止研究・研修センター代表、桜美林大学・淑徳大学短期大学部兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。

Go to ケアラー?

 このブログ「サンタさん、「養護者支援法」が欲しいです。」で養護者へのフォーマルな支援策の必要性に言及しました。7年前のことです。虐待問題は、単に虐待者と被虐待者の問題にはとどまらず、社会問題のアンテナショップのようなところがあり、気になったので言及しました。

 これに関連して、「ほら、言ったとおりでしょう」と言いたくなる報道がありました。それは「ヤングケアラー問題」です。「ヤングケアラー」とは、家族の介護などを担う18歳未満の子どもを指します。病気や障害などで要介護状態にある家族の介護や家事を担うことで、学習はむろん就職にも支障が出てしまいます。

 この問題について、埼玉県様が全国初の大規模調査を行いました。その結果、高校生のおよそ25人に1人がヤングケアラーであることが分かりました。県内のすべての高校2年生約5万5,000人を対象に調査を行い、およそ90%から回答を得たそうですから、まずは、回答率の高さにびっくりです。

 昭和の時代なら行政が行う調査の回答率80%超えは珍しくありませんでしたが、年々回答率は下がり、現在は国の調査でさえ30%そこそこでも御の字だからです。ですから埼玉県様の調査は、それなりに実態を反映した数字ではないかと思います。

 そして、全体の約4.1%に相当するヤングケアラーの介護回数は「毎日」が35%にのぼり、生活への影響について「孤独を感じる」が19%、「ストレスを感じる」が17%、「勉強時間が十分に取れない」が10%など、すでに健康や学習に影響が出ています。

 しかし、虐待の問題同様に、そもそも家庭内のことは実態の把握が難しい、子どもは自分をヤングケアラーだと認識していない、どこに助けを求めて良いか分からず子どもが声をあげにくいなど、発見には少なからず困難を伴います。

 もっとも、突発的な出来事だとするには数が余りにも多過ぎます。厚生労働省も12月から、教育現場での実態を把握するための全国規模の調査を行う予定であり、その結果を踏まえて速やかに支援展開したいものです。

 むろん、老子の言葉とされる「人に魚を与えれば一日で食べてしまうが、釣りを教えれば一生食べていける」の教えに背かぬ支援となることを期待します。ただし、コロナ禍での飲食店への営業自粛要請のあり方に疑問を覚えるため、心許ありません。

 「協力したら金を支給する」スタイルでは、生産や流通も含め事業者の人びとは、貰える魚が全く足らないうえに、釣り方(移転や転業や転職などを含む生きていく術)も分からないのですから、飲食由来の感染リスクを低減できる道理がありません。

 先行きを見通せず悲しくすらなってきますが、ヤングケアラー問題への取り組みでも悲しい思いをするのは願い下げです。しっかりと一次予防、二次予防、三次予防の支援体制を整えたいものです。スピード感をもってこれを成し遂げないと、大人の役目を果たせた、と胸を張れません。

「かわいい子にはGo to ケア!」
「なんだかなぁ…」