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ルポ・いのちの糧となる「食事」

下平貴子(出版プロデューサー・ライター)

食べること、好きですか? 食いしん坊な私は、食べることが辛く、苦しい場合があるなんて考えたことがありませんでした。けれどそれは自分や身近な人が病気になったり、老い衰えたりしたとき、誰にも、ふいに起こり得ることでした。そこで「介護食」と「終末期の食事」にまつわる取り組みをルポすることにしました。

プロフィール下平貴子(出版プロデューサー・ライター)

出版社勤務を経て、1994年より公衆衛生並びに健康・美容分野の書籍、雑誌の企画編集を行うチームSAMOA主宰。構成した近著は「疲れない身体の作り方」(小笠原清基著)、「精神科医が教える『うつ』を自分で治す本」(宮島賢也著)、ほか。書籍外では、企業広報誌、ウェブサイト等に健康情報連載。

第104回 書籍紹介
「これからの医療と介護のカタチ ~超高齢社会を明るい未来にする10の提言~」


はじめに

 今回ご紹介する書籍は、医師の佐々木淳先生(医療法人社団悠翔会理事長・診療部長)が2016年12月に上梓した「これからの医療と介護のカタチ ~超高齢社会を明るい未来にする10の提言~」(日本医療企画刊)です。
 佐々木先生は首都圏で機能強化型在宅療養支援診療所を運営、日々、在宅療養する患者を訪問診療する傍ら、在宅医療に関わる多職種が共に学び、考え、よりよい地域連携・地域包括ケアを実現するための学びの場として「在宅医療カレッジ」を開講し、この勉強会に直接参加できない人に向けてもFacebookを通じて講義・対話の内容を公開しています。
 本書は、未来の社会に希望を見出すべく、ロールモデルとなる在宅医療のシステムづくりに自らも奔走する著者が、法人設立10年の節目に「今、何をすべきか」、24人のオピニオンリーダーと語り合った対談を収録したものです。

正しい現状認識と
羅針盤を持つために

 本書には、医療介護も含め多ジャンルの専門家24人と著者が今、医療介護が抱える問題、課題は何か、また超高齢社会で今後、求められるあり方はどのようなものか、その理想を実現するには何をなさなければならないか、それらを語り合った内容と、対話から著者が導き出した10の提言がまとめられています。

 急速に高齢化率が上がり、社会福祉財源は不足し、医療介護関連法制度の見直しが重ねられる中、地域丸ごとケアの体制づくりや多職種連携を実践し、在宅で療養・亡くなる高齢者を地域で受け止めていかなければなりません。2025年を見据え、介護関連の事業所経営や介護の仕事に携わる方々は焦燥にかられていないでしょうか。
 どのように地域丸ごとケアに貢献したらいいのか。いかに業務を見直し、専門性を発揮したらいいのか。ケアの担い手を育てる教育は十分か。そもそも地域とはどこも同じなのか。高齢者をひとくくりに見ていていいのか。どうやって我が地域とつながったらいいのか。それは誰がつなげるのか?
 課題意識をもち、情報を集め、学んでいる人は、地域も高齢者も多様で、今後は一層、自前の地域デザインやサービスの創造が必要だと認識し、行動しているかもしれません。
 いずれにしても2025年問題は対岸の火事ではなく、みなの問題です。

 本書は、日々の業務に忙しく、余裕が見出せないまま焦燥感を増している人にも、また、荒野に一人立つ覚悟で地域にはたらきかけを始めた人にも、仲間と共に地域づくりの渦中にある人にも、信頼性のある現状認識を与え、未来への羅針盤となる書です。
 著者は、本書の冒頭で以下のように述べています。

『私たちを駆り立ててきたのは使命感というよりは焦燥感と危機感。目の前に山積する課題、そして予想可能な未来。何とかしなければならないという強い思いで、今日まで試行錯誤を続けてきました。
 2016年、未来はさらにはっきりと見えてきています。(中略)しかし在宅医療を含む地域医療とケアの体制は、この超高齢化に適応する準備ができていません。(中略)
 重要なのは「何ができるか」ではなく「何をすべきか」。そのための具体的なビジョンを見つけ出すことです。これまでの延長線上に、あるいは専門性という殻のなかに、解を見つけることはできないだろうと感じました。しかし、立ち止まっている時間的余裕はありません。
 私たちは未来のために自ら行動する24人のオピニオンリーダーたちにそのヒントを求めました』。

 著者が試行錯誤と、人や新たな価値観との出会いから見出した「解」は、未来の医療介護を担う誰にも必要なもの。また専門職でなくとも、誰もが人生の最終段階には病や障害を得て、亡くなる必定から考えれば、自分を生き切るためにみなに必要な「解」でしょう。
 医療介護の課題は地域住民も含めみんなのもの。“課題の確認”で思考停止、足踏みしている場合ではない今、ぜひ専門職ではない友人にもすすめたい1冊です。

 掲載されている13本の対談は、どこから読んでも具体的示唆が得られます。
 また、最終章の「在宅医療に取り組んだ医療法人悠翔会10年の軌跡」も、大変読み応えがある一文です。それは著者が10年の間にどのような意図と希望をもってさまざまなチャレンジを行ってきたのか、どのような展望を抱き、理想を掲げているかが明かされているためです。
 節目の年に上梓された著書の特典。この行間にも大いなるヒントが埋め込まれていることに気づくと、それらを発掘しながら読むのが楽しく、明日の活力を生むひとときになることでしょう。