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障がい者福祉を知って高みを目指す!

松崎 匡 (まつざき ただし)

介護職として高みを目指すなら、高齢者福祉も障害者福祉も知っておきたいところ。この2つの現場を経験した松崎さんだからこそ言えるそれぞれの違い。それらを知り、介護職としてあらためて「福祉ケア」について考えていきましょう。

プロフィール松崎 匡 (まつざき ただし)

この4月より「合同会社M&Yファクトリー」代表社員。
元アルファ医療福祉専門学校教務主任。福祉関連事業所の開業、業務改善などのコンサルティング、研修講師、市民向けの介護講座などのほか、青少年の更生、フリーター、ニートの就職支援などを手掛ける新たな福祉への関わりを中心に活動中!

第10回 言う責任、言わない責任

 今回、冒頭から私の似顔絵画像を掲載しようと思います。


 これは、私が放課後等デイサービスをやっていたとき、利用する子ども達がスタッフのことを認識しやすいように、という願いを込めて、スタッフ全員分を作成して掲示していたものです(私の分は非公開でとっておいたものですが)。

 なにかと「気付き」が大切と言われる業界ですが、利用者に「気付いてもらえる」というアプローチがしたくて作ってみました。スタッフには、この似顔絵のように利用者の特徴を的確にとらえて関わって欲しいという裏メッセージを込めて作ってみました(自分ではあまり似ていないと思うのですが…)。

気付いたことをきちんと伝える

 でも、大切なのは「気付き」ではなく、利用者と関わるなかで、「気付いたことを利用者に代わって的確に伝える」ということなんじゃないかな。

 というわけで、今回は「言う責任、言わない責任」というテーマです。

 私が勤めていたのは、重度の障がいのある方が通所する授産施設でした。言語でのコミュニケーションが困難な方も多く、利用者が何を言いたいのか、何を求めているのか、ということを読み取ることがなかなかできず、毎日苦労していました。

 人間の感情表現、自己主張というのは多様で、それぞれ自由なものであるのに、自分の範疇に収まらない利用者の表現を、なかなか理解できずにいました。私が経験してきたものに分類されない行動や表現をする「目の前」の利用者の思いを受け止めるどころか、「何がしたいの? 何が言いたいの?私には全然わからないよ…」と自分の未熟さを棚に上げて、利用者に責任を擦り付けていたのかもしれません。

 そんなときに、この「言う責任、言わない責任」という言葉に出会ったのです。

 「松崎君。利用者が本当に言いたいことは何なのか。利用者が自分の言いたいことが言えないときに、我々に何を代弁してもらいたいと思っているのかを理解するために、徹底的に利用者と関わってみることが大切なんだよ。今の君は自分の中の『常識』という先入観で利用者と関わっているように私には見える。先入観や思い込みで接してくる人に人は決して心を開かないことは、あなたが一番わかっているはずでしょ?」

 この言葉で目が覚めました。

 当時、私はミュージシャンを目指していました。今では珍しくもないですが、当時はあまりいなかった「茶髪の兄ちゃん」だったのです。

 その髪型からか、非常に先入観をもって寄ってくる人が多く、必ずと言っていいほど「どうしてこの世界に就職したの?」と聞かれていたのです。あまりに聞かれるので面倒臭くなり、「僕みたいなのが福祉の仕事をしてるって言うと笑いが取れるんですよ」などと適当に答えていたこともありました。「どうせ言っても理解してくれないでしょ?」と心の中で毒づき、拒絶していたのかもしれません。

 先入観や自分の価値観でしか人を見ない人を一番拒絶していたはずの自分が、いつの間にか利用者に対して一番嫌だと思っていた接し方をしていることに気付いたのです。

 これでは利用者も私を信頼してくれるわけがありません。利用者から「私の思いをこの人ならきちんと伝えてくれる人」として信用されなければならないのだと私は思い直しました。そして、信頼されたのならば、その信頼に応えるべく利用者が「言いたいこと」を何よりも大切にして、誰に対しても「言う」ことが「言う責任」である。

 それが私の行動指針となったのです。

 確かに、さまざまなしがらみや立場などがあり、なかなか「言う責任」を果たすのは難しいとは思います。それでも、言う責任を果たさないままにするというのは、あってはならないことです。そして、ただやみくもに「言う」のではなく、相手に気付いてもらい、理解してもらえるように「言い方」にも的確な判断が求められます。

 また、利用者の信頼を得ながらも、自分の立場や責任やらを優先してか「言わない」ままにしていることも、必ず「言わない責任」というものがのしかかってくるものです。

 「せっかく」だから、言わない責任を背負うよりも「言う責任」を果たす介護職でありたいものですね。