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介護職に就いた私の理由(わけ)

さまざまな事情で介護の仕事に就いた方々の人生経緯と、介護の仕事で体験したエピソードを紹介していきます。「介護の仕事に就くことで、こんなふうに人生が変わった」といった視点からご紹介することで、さまざまな経験を経た介護職が現場には必要であること、そして、それが大変意味のあることだということを、あらためて考えていただく機会としたいと考えています。
たとえば、「介護の仕事をするしかないか・・」などと消極的な気持ちでいる方がいたとしても、この連載で紹介される「介護の仕事にこそ自分を活かす術があった・・」というさまざまな事例を通して、「介護の仕事をやってみよう!」などと積極的に受け止める人が増えることを願っています。そのような介護の仕事の大変さ、面白さ、社会的意義を多くの方に理解していただけるインタビュー連載に取り組んでいきます。


●インタビュー大募集
「このコーナーに出てみたい(自薦)、出してみたい(他薦)」と思われる方がいらっしゃったら、
kawase@chuohoki.co.jp
までご連絡ください。折り返し、連絡させていただきます。

花げし舎ロゴ

花げし舎ホームページ:
http://hanagesisha.jimdo.com/

プロフィール久田恵の主宰する編集プロダクション「花げし舎」チームが、各地で取材を進めていきます。
久田 恵(ひさだ めぐみ)

北海道室蘭市生まれ。1990年『フイリッピーナを愛した男たち』(文藝春秋)で、第21回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。
著書に『ニッポン貧困最前線-ケースワーカーと呼ばれる人々』(文藝春秋・文庫)、『シクスティーズの日々』(朝日新聞社)など。現在、読売新聞「人生案内」の回答者、現在、産経新聞にてエッセイを連載中。

第40回 野球少年から介護男子へ 
フルスイングで介護の世界を盛り上げたい

今野雅隆さん(30歳)
グリーンライフ湘南(神奈川・藤沢市)

取材:藤山フジコ

介護の仕事は、「大変は大変だけど、嫌な大変さではない」と感じた

 中学、高校と野球部で、野球漬けの毎日でした。高校卒業時に進路を決めるとき、頭に浮かんだのがスポーツトレーナー。担任の先生に相談したら「スポーツトレーナー向きじゃない。お前はそうじゃない」と言われて。「じゃ、なんですか?」と聞いたら「介護という仕事の時代は必ず来る。その道に進んだらどうだ」とアドバイスしてくれたんです。先生のことは信頼していたので、きっと自分に向いているのだろうなと思い、高校卒業後、福祉の専門学校で2年学びました。

 介護の仕事って辛いとか、大変とか、そんなイメージが強いと思うんですよ。僕も最初はそう思っていました。ただ、「やってみなければ分からない、やってから考えよう」と介護の世界に飛び込みました。専門学校の実習で現場へ行ってみると、思った以上に過酷で、正直、自分の世話もできないのに人の世話ができるのか・・と悩みました。でも、「とりあえず目の前のことをやるしかない!」と頑張っているうちに、大変は大変だけど、嫌な大変さではないと感じられたんです。

 新卒で、大きな介護施設に就職が決まりました。入社したとき3年間は続けようと決めていました。3年経ち、今度は自分が下の人たちを教える立場になり、それがとても自分の勉強になったんです。結局6年そこで働きました。当時働いていたところは、施設に入所されている方をお世話する部署だったのですが、利用者が通ってくるデイサービスに興味が移り、今の会社に転職しました。

 ここは特別養護老人ホームも併設している施設で、僕は定員60名のデイサービスを担当しています。施設に来られる方が日々違うので新鮮です。今年で5年目になりました。

自分次第で、いくらでも楽しさを見出せる

 介護職一筋で11年経ちましたが、この仕事を辞めたいと思ったことは一度もないです。なかには手のかかる利用者さんもいらっしゃいましたが、必ずその方の別の面もあるはずなので、嫌な部分ばかり見ないで、自分で工夫して、その方の良い面が引き出せたとき、介護の仕事の醍醐味だなと感じます。自分次第で、いくらでも楽しさを見出せるんじゃないかと思うんです。

 僕は利用者さんに、楽しんで帰宅してほしいという気持ちがあるんです。利用者さんが笑うと僕も嬉しい。言葉より視覚のほうが早く伝わるので、わざと目の前で転んでみたり、変顔してみたり。そこで笑ってもらえると、「笑ってくれてありがとう・・」という感じで、コミュニケーションできたという喜びが僕の励みになるんです。介護職の現場って悪いもんじゃない、楽しみの場なんだと思います。

 世代だと思うんですが、特に女性の利用者さんは男性の職員に対して遠慮があるというか、気をつかわれるんですね。例えば、靴を履くお手伝いをすると、「いい、いい、そんなことしなくていいから」と、大体断られます。「男性にやってもらうなんて・・」とか。それが慣れてくると「ありがとう」に変わるんですよ。距離が縮まったと嬉しくなる一瞬です。

 休日に、中学で同じ野球部だった地元の友人と草野球をしていますが、チームワークと連携は介護の仕事にもつながります。この仕事は何より連携が大切だと思います。職員間で意思疎通ができていないと、利用者さんが「この時間、こうしたかった」ということが伝わらず不満を持たれ、小さなことも重なると信頼を失ってしまいます。連携をスムーズにするためにも、まずは人間関係だと。人間関係が良くなければ介助にも影響が出てきたりします。利用者さんにとっても職員にとっても、楽しいと思える環境は大事だと思うんですよね。

 僕自身は素というか、ありのままの自分を出すことを心がけています。カッコつけたり、自分を変に偽っても利用者さんや職員には見抜かれてしまうし、どこかでボロが出てしまう。だったら、初めからボロのダメな自分をさらけ出して、「こんな人間なんです!」って皆に知ってもらおうと。そうすると自分も楽だし、安心して信頼してくれる人も出てきます。今日も1日楽しもうと、前向きに仕事に取り組めます。

 先月、レクリエーションの担当で僕が考案した野球ゲームを皆さんと楽しみました。球技ってルールがわかりやすいので、入りやすいんですね。後ろのスペースにホームランコーナーも設けると、利用者さんも燃えて盛り上がりました。今後も、バスケットなどの球技のレクリエーションを増やしていきたいです。

介護男子スタディーズプロジェクトに参加

 施設を通じて、「介護男子スタディーズプロジェクト」に参加させてもらいました。この企画は、2015年9月に、介護の現場で働く「介護男子」に焦点を当て、介護男子の日常を切り撮った写真とさまざまな視点からの論考を載せ、介護の現状を明らかにした『介護男子スタディーズ』という書籍の出版プロジェクトです。参加しようと思ったきっかけは、この業界は圧倒的に女性が多いので、男子にもどんどん入ってきてほしい、若い人が職業の選択をするときに「介護職っていいな」と言ってもらえるように、業界を盛り上げていけたらと思ったからです。今の自分には社会を変える力はありませんが、僕にやれることで貢献したいと思っています。今後は、利用者さんの楽しみにされていることはもちろん、悲しみや辛さも職員と共有できる場をつくっていきたいと思っています。

利用者と談笑する今野さん

介護男子スタディーズプロジェクト

「介護男子スタディーズ」は、介護の仕事の本当の姿を社会に発信するため、全国20の社会福祉法人が共同して立ち上げたプロジェクトです。

写真と論考――書籍『介護男子スタディーズ』
介護男子スタディーズプロジェクト 刊
2,160円(税込み)
http://www.kaigodanshi.jp/


インタビュー感想

 コミュニケーション能力抜群な「イケメン介護男子」の今野さんは、「利用者さんと話をするのが本当に楽しい、しかもいろいろ教えてもらえてとてもためになる」と、おっしゃっていました。ロビーで写真撮影したとき、今野さんが登場すると、場の空気が一気に明るく、爽やかになりました。『介護男子スタディーズ』の写真集に登場され、注目も浴びましたが、決して浮(うわ)つかずに日々の仕事に邁進される姿は、ずっと続けてきた野球のおかげかもしれません。10年後、20年後の今野さんの活躍が楽しみです。
※4月からグリーンケア善行に異動されました。

【久田恵の眼】
 高校の担任の先生は、彼のどんな資質を「介護」の仕事に向いていると考えられたのでしょうか? 「自分のありのままをさらし、『こんな人間です!』と知ってもらうことでこそ相手の信頼を得られる」、そう考えている彼の「素直さ」「他者への受容性」それが、最も活かせるのがこの介護という現場ではないかと思われます。まさに生身の人と人が、ありのままに触れ合うことで成立する世界。マニュアル化され尽くした今の時代では、ここは稀有な職場です。これほどリアルで、個々の人としての資質が問われる世界は、ほかにありません。そこに魅力を感じ、楽しさを見出し、勝負をかけていこうとする若者たち、彼らが「介護男子」と呼ばれるようになった今、この現場が、いよいよ大きな変化のときを迎えていることを実感させます。