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山口晃弘の超幸齢社会の最幸介護術

山口 晃弘(やまぐち あきひろ)

超高齢社会を実り多き「幸齢社会」にするために、
介護職がすべきこととは?
元気がとりえの介護職・山口晃弘が紡ぐ最幸介護術。

プロフィール山口 晃弘 (やまぐち あきひろ)

介護福祉士、介護支援専門員。1971年、東京都生まれ。高校卒業後、設計士、身体障害者施設職員を経て、特別養護老人ホームに入職し、介護職・生活相談員を務め、その後グループホームの管理者となる。
現在、社会福祉法人敬心福祉会 千歳敬心苑にて人材育成担当。著書に『最強の介護職、最幸の介護術』(ワニブックス、2014年)がある。

著書

『最強の介護職、最幸の介護術』
『最強の介護職、最幸の介護術』

虐待報道に思う

 6月10日、山口県下関市の知的障害者施設で、職員が利用者への暴行容疑で逮捕されました。ニュースで大きく取り上げられたこの事件、みなさんはどう思いましたか?

 ニュースやネット上での意見のほとんどが「信じられない」「許せない」というものでした。しかし、中には「介護の仕事は本当にきつい」「ストレスがたまる」「職員配置上の問題」など、職員を擁護する意見もありました。

 私は今回の事件について、虐待をした職員に弁解の余地なし、と思っています。あれは行き過ぎです。暴力以外の何物でもありません。福祉サービスなどといいますが、福祉を利用する方というのは、社会的に弱い立場にあります。そういう人を強い立場から圧力をかけ、身体的、精神的に追い込むなど、言語道断。

 待遇面などで職員を擁護するとすれば、やられた側の気持ちはどうなるのか? 仕事が大変で疲れていた、ストレスが溜まっていたなどという理由で暴力を受け、身体も心も深い傷を負った人の気持ちは、どうなるのでしょうか。

 だからといって、「信じられない」「許せない」とだけ言っているだけでは、何も解決しません。対岸の火事ではないのです。


 国も現場も、両者が真剣に課題を精査しなければならない時期に来ています。国が定める配置基準。介護の質を維持、向上させるには、不十分すぎます。事業所が増えすぎて財源が足りないのなら、悪しき事業所をしっかり見極めるべき。

 現場にも課題はあります。経営者は福祉、介護を語れるか。リーダーに人を指導するスキルはあるか。人が育つ環境にあるか。

 私たちの福祉サービスを利用する方たちは、高齢になって身体や心にケアを必要とする人、身体や心に障害をもち、生活に何かしらの介入を要する人たちです。誤解を恐れず言うならば、それだけです。

 私たちだって、いつか年をとるし、事故などで身体に障害をもつ可能性は誰にでもあります。それだけで、人間としての尊厳を奪われる状態になるなんて、絶対にあってはならないことではありませんか。

 以前、入浴介助の際に、お婆ちゃんといつもどおり冗談を言い合いながら二人で大笑いしていると、お婆ちゃんが泣いていました。

「どうしたの?」と聞くと…

 「あたしね、身体が弱くなって、自分じゃ何もできないでしょ。こんな不幸な人生、本当に早く死んじゃいたい、と思ってたの。でも、お兄さんにいつも優しくしてもらって、本当にうれしいのよ…」

 と、言っていました。

 もらい泣きしそうだったけど、つい口から出たのは、「○○さんは、不幸な人生なんかじゃないよ!だって、俺に会えたんだから!」と、生意気な言葉でした。

 「あっはっは!本当だねえ!」と、お婆ちゃんも大笑いしてくれました。

 人間は、みんないろんな想いを背負って生きています。加齢や病気や事故によって、人の介入が必要になった人。誰だって、自分のことは自分でしたい。排泄や入浴なんてなおのこと。それを仕事にしたのが私たちです。

 「嫌だな…」「申し訳ないな…」そう思っている相手の心に、負担にならない言葉とは? 態度とは? そんなことを考えられる職員になってほしい。

 つらいことも苦しいこともたくさんあるだろうけど、そんなときでも相手のことを思いやれる、強くて優しい職員になってほしい。

 そう思える職場環境や、そういう職員を育てられる指導者でありたい。そう思います。


yamaguchi0610-1

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