メニュー(閉じる)
閉じる

ここから本文です

ルポ・いのちの糧となる「食事」

下平貴子(出版プロデューサー・ライター)

食べること、好きですか? 食いしん坊な私は、食べることが辛く、苦しい場合があるなんて考えたことがありませんでした。けれどそれは自分や身近な人が病気になったり、老い衰えたりしたとき、誰にも、ふいに起こり得ることでした。そこで「介護食」と「終末期の食事」にまつわる取り組みをルポすることにしました。

プロフィール下平貴子(出版プロデューサー・ライター)

出版社勤務を経て、1994年より公衆衛生並びに健康・美容分野の書籍、雑誌の企画編集を行うチームSAMOA主宰。構成した近著は「疲れない身体の作り方」(小笠原清基著)、「精神科医が教える『うつ』を自分で治す本」(宮島賢也著)、ほか。書籍外では、企業広報誌、ウェブサイト等に健康情報連載。

第133回 「40代から老嚥予防」を伝えよう! 
シンポジウム「いいご近所づくり大会議2018」に参加して

はじめに

 先に一般社団法人グッドネイバーズカンパニー(以下GNC)が主催するシンポジウム「いいご近所づくり大会議2018 ~“食べる”と“笑う”を支える摂食嚥下の専門家に学ぶ1 日~」に参加しました(2018年4月22日開催)。
 リハ栄養の第一人者である若林秀隆先生、歯科における摂食嚥下リハ分野を牽引する戸原玄先生、男性介護者支援と地域食支援連携構築を進める河瀬聡一朗先生をゲストに迎えたシンポジウムは、「誰の、何のための食支援か?」と原点回帰を促し、確かな成果を出すために必要なアセスメントと連携について語り合う、学び多き機会でした。
 今回は、その1日で最も胸に迫った言葉から、雑感を述べます。

20年、30年後の食生活がかかっている!
アラフィフの実感、「老嚥」他人事でなし

 シンポジウムでの講話や対話は、主として「アセスメントの重要性の再認識」と「適切な評価・支援のための連携」を中心に進み、参集した食支援の実践に携わる専門職の方々は、食べられない問題を抱え、困っている人の生活の質を上げるためにどのような関わり方が可能か、具体的な学びを得たようでした。

 一方、私は最初の登壇者であった若林秀隆先生の一語に改めてショックを受け、納得すると共に、この重要な言葉をもっと一般に普及させる必要を感じて、当日以来ずっと考え続けています。
 そのひと言とは、「老嚥は40歳頃から始まる」というものです。

 老嚥(Presbyphagia)とは、加齢による嚥下機能低下のこと。嚥下障害には至っていないので、食形態を調整していない普通の食事が食べられるものの、舌など嚥下筋が衰え(サルコペニア)、飲食をする際にむせやすく、飲み込みがわるくて、喉に食べ物が残りやすい状態です。
 若林先生のお話では、歯や義歯など口の問題も同時に起きていることが多いため、口腔機能と嚥下機能、両方のケアが必要だということでした。
 さらに、舌の萎縮なども含め全身のサルコペニアの背景には概ね「低栄養」があり、低栄養から嚥下障害を招くと言えるので、老嚥から嚥下障害へ重症化するのを防ぐには「リハ栄養」、つまり「筋肉をはたらかせる+栄養維持・管理」が欠かせないということでした

 なるほど、老嚥あるある。食事中、むせ込まないまでも、咳払いを連発する人が多い50代です。そろそろ固いものは避けるという人もちらほら。そんなとき仕事柄、「オーラルフレイル」という言葉を思い浮かべていましたが、「老嚥」はよりインパクトが強い。ショックですが、このショックこそ大事だと感じます。
 健康づくりやケアによって20、30年後に「要食支援」となることを防ぐというのは、「生活習慣病予防」と同様、20、30年をどのように食べ続けていくかということ。ハートにぐさりと突き刺さる「老嚥」で、危機意識をもつ人を増やしたい。
 ふと以前、「日本でいちばん歯周治療にうるさい糖尿病専門医」を自称されている西田亙先生(にしだわたる糖尿病内科、愛媛県松山市)のご講演で、「プラークやペリオと言うと実感もなく、危機感をももちにくい。今日から『歯糞』『歯腐れ病』と呼びましょう」とうかがって、なるほどと膝を打ったことも思い出しました。

「老嚥」。サクセスフルエイジング志向の中高年には耳を塞ぎたいこの響きが、ことの重大さを感じさせます。あの日から頭を離れない老嚥予防。咳払いの友人には「人生100年時代の備えは老嚥予防。好きなものが食べられなくなったら、つまらんよ」などと話します。アラフィフ世代ともなれば、多少実感があるので、「ひとまず歯医者に行こう」とか、「運動しなきゃ」という反応です。
 若林先生の著作に「高齢者の摂食嚥下サポート ~老嚥・オーラルフレイル・サルコペニア・認知症~」(新興医学出版社刊)もありますので、ぜひ老嚥を理解し、予防を広めましょう!

 なお、シンポジウム全体の概要やゲストトーク・ダイジェストは「結果を出す食支援の理論編」「食支援を広げるヒント編」の2回に分け、次のアドレスで執筆させていただいています。すべての登壇者の講話が、直ちに食支援実践の支えになる貴重なお話でしたので、ぜひこちらも併せてお読みください。

  • いいご近所づくり大会議2018 ~“食べる”と“笑う”を支える摂食嚥下の専門家に学ぶ1日~
    レポート