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和田行男の婆さんとともに

和田 行男 (和田 行男)

「大逆転の痴呆ケア」でお馴染みの和田行男(大起エンゼルヘルプ)がけあサポに登場!
全国の人々と接する中で感じたこと、和田さんならではの語り口でお伝えします。

プロフィール和田 行男 (わだ ゆきお)

高知県生まれ。1987年、国鉄の電車修理工から福祉の世界へ大転身。
特別養護老人ホームなどを経験したのち99年、東京都で初めてとなる「グループホームこもれび」の施設長に。現在は株式会社大起エンゼルヘルプ地域密着・地域包括事業部 入居・通所事業部部長。介護福祉士。2003年に書き下ろした『大逆転の痴呆ケア』(中央法規)が大ブレイクした。

背に腹はかえられない


 介護報酬が改定された。まだじっくりと見ていないのでコメントできないが、僕のフィールドであるグループホームを考察すると「真っ当な事業者」にとって厳しい内容である。真っ当な事業者とは、もともと利用者・入居者にとって「利」となることに取り組んできた事業者ってことだ。

 例えば、職員を基準以上の過配置してきた事業者は、収益率が低いと考えられ、収益率が高いからと基本報酬を下げられたのでは、よりコスト削減をするか、プラスになった処遇改善加算分で削減分を賄うしか道がなく、結果的に処遇の改善にはつながらないことだろう。

 例えば、入居者が入院した場合で、全く退院の見込みがない場合を除いて、入居者側の意向やその人のことを汲んで「退院まで待つ」ことを実践してきた事業者は、その分収益率が低いと考えられ、収益率が高いからと基本報酬を下げられたのでは、よりコスト削減をするなどの対策に限界がくれば、利用者側の意向に添えなくなり、杓子定規に「契約内容に沿って1か月経ったので退居を」と涙をいっぱい浮かべて言わざるを得なくなるだろう。

 例えば、特養の「食費」とグループホームの「食材料費」の徴収科目の違いや他の費用徴収へのコンプライアンスを捉えて、グループホームは「実費相当徴収」として、徴収した分のほとんどを入居者に使ってきた事業者は、1日当たり1200円徴収して900円だけ使い、300円の収益を上げるようになってもおかしくない(金額は一例)。

 しかも、介護給付費分科会での議論は「収益率=全収入と全支出」で議論して「適正の可否判断」をしているのだからなおさらである。

 その他にも、建物や設備に要する費用を抑えなくてはならなくなり、入居者にとって生活環境が今までのようにはいかないことも起こってくるだろう。

 介護報酬の中でやりくりして、できるだけ入居費用の総額を抑えてきた事業者も、入居者から徴収するようにするしか手が打てなくなる。

 収益率だけで介護報酬を決めてきたツケは、収益率を上げることだけを考えて事業を展開してきた事業者だけでなく、むしろそういう事業者よりも、もともと利用者・入居者にとって真っ当なことをしてきた事業者を追い込みかねず、そうした事業者が変質せざるを得ない状況を生む結果を招きかねない。

 それこそが国民にとって最大の不幸である。

 そういう自分の頭も、その方向へスイッチが切り替わりかけている。

 残念なことだが、事業を継続していかねばならない僕らは、入居者にとって良いことばかりを追いかけられないのだ。言いたくもないことを口にしたくなるような今回の報酬改定のようである。

 背に腹はかえられない

 五臓六腑(ごぞうろっぷ)のおさまる腹は背と交換できないという意味だが、さし迫った苦痛を回避するためには、ほかのことを犠牲にしてもしかたないと思わされた今回の報酬改定だ。

写真

 こんな時代があったなんて信じられない!

 未来の連中にそう言われたくない、その一心で「今できること」を一生懸命取り組んできた。それが今を生きる専門職としての僕のプライドである。

 だから「人として生きる姿」を追いかけ、「人だから閉じ込めてはならない」「できることを奪ってはならない」「できないことを放置してはならない」と一生懸命取り組んできたつもりであるが、そういう一生懸命さは、いつまでたってもお金にはならないし、お金にならないものが世の中をひっくり返すほど広がるわけがない。

 大きな恐竜がこんな姿でウヨウヨ生きていた時代をひっくり返すほどの出来事は何だったのか…。

 そこに興味を魅かれるのは「今への僕の願い」があるからか。