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和田行男の婆さんとともに

和田 行男 (和田 行男)

「大逆転の痴呆ケア」でお馴染みの和田行男(大起エンゼルヘルプ)がけあサポに登場!
全国の人々と接する中で感じたこと、和田さんならではの語り口でお伝えします。

プロフィール和田 行男 (わだ ゆきお)

高知県生まれ。1987年、国鉄の電車修理工から福祉の世界へ大転身。
特別養護老人ホームなどを経験したのち99年、東京都で初めてとなる「グループホームこもれび」の施設長に。現在は株式会社大起エンゼルヘルプ地域密着・地域包括事業部 入居・通所事業部部長。介護福祉士。2003年に書き下ろした『大逆転の痴呆ケア』(中央法規)が大ブレイクした。

働き続けられる介護現場へ制度設計を!


 厚生労働省は、労働者に年5日の有給休暇を取らせるよう使用者に義務付ける労働基準法改正案を今国会に提出すると報道されている。(中日新聞2月5日付け)
 有給休暇取得率向上への一策なのであろうが、このやり方の是非はともかく、有休休暇は「完全取得」「労働者の意思に基づく時期取得」が大原則であり、権力による取得率向上を目指すというのなら、こっちの話も聞いてもらいたいものだ。

 介護事業を制度設計するにあたって、雇用する労働者の「正規・非正規の割合」は公表されていない。そもそも、そんなものがあるかどうかさえわからないのだが、少なくともお上が法人に公務を委ねるに当たり、設定する「条件」があるはずである。

 例えば特養100名の入所定員なら、入所者3:職員1の原則から34人の看護・介護職員が必要。これを基準としたとする。

 よって、それを成すための具体的見積もりとしては

  • 50%が正規雇用で残り50%を非正規雇用で設定
  • 年間休日数は1か月単位の変形労働時間制108日で設定
  • 平均勤続年数は定着率への希望も含めて最大10年で設定
  • 年次有給休暇取得平均12日で設定
  • 年間研修一人当たり2日で設定
  • 産前産後休暇取得者年間平均2名で設定
  • 育児休暇・育児時間取得者年間平均2名で設定
  • 忌引き休暇年間平均一人当たり2日で設定

 といったようにである。

 そうしないと「経営」なんてできない。
 それは国の経営も同じで、国会議員でも公務員でもそうだが、こうした人手にかかる大枠の支出の積み上げをして収入の規模・つまり税額を決めているのだから、当たり前のこと。

 だとしたら、厚生省と労働省が一緒になって厚生労働省なのだから、介護現場でも労働省管轄の、産前産後休暇、育児休業、育児時間、年次有給休暇、休憩時間など労働基準法で定められたもろもろの労働者保護規定の類が完全に履行できる仕組みとなるようにしてもらいたいものだ。

 というのも何度も書いているかと思うが、片方で職員の定着率を求め、研修の機会を求め、質を求め、働き続けられる職場を求め、労働基準法の遵守を求め、利用者の尊厳の保持を求め・安全を求めておいて、片方でそれを担保できる仕組みを業者任せにしてお上にチェックだけされたのではたまったものではない。

 具体的に言えば、職員が結婚、そのうち妊娠して悪阻がひどくなり職務遂行に支障がくると「代替え職員」を求めたくなるのは、本人はもとより、他の職員だって、利用者の家族だってそう思う方が自然である。

 そのためには何事もない平時から基準を上回る人員を配置して、事故や病気やこうした事態に対して備えておかなければ、そうなったからといって臨時に人を雇って補完することは、有期契約でもあり、確保の面から難しい。

 しかも質も問われるわけだから、一定の質を確保するのに二年くらいかかる仕事ゆえに、人数的に補完できたとしても、質の補完とはならないのだ。

 やはり有事に備えて基準を上回る正規職員もしくは常勤職員を配置しておきたいのだが、現在の介護報酬が、そこまで勘案しているとは、とうてい思えないし、介護報酬をバッサリ切り落とした今回の改正で、より困難になったのではないか。

 ただでさえ介護職員の全国平均の有効求人倍率は2.5倍、僕のフィールドである東京や名古屋は4倍の状況にある。
 おいそれと補完職員が手配できるはずもなく、おのずと妊婦に無理をさせて、最悪の結果を招かせてしまいかねないのだ。

 制度設計時点で「余裕の持てる介護現場」を描いているとはとうてい思えないし、僕は「最悪の結果も仕組みによる悲劇」であり、介護人材を不足させる悪循環の一因だと思っている。

 27年前、ある特養に実習に行かせてもらったとき、勤務表の一番下に3名ほどの枠があり「この枠は何ですか」と質問したら、要するに、妊婦でもできる仕事を準備して、そもそも本来業務の枠の外に妊婦の枠を設けて、みんなが結婚・妊娠しても働き続けられるようにしている知恵の枠だったのだ。

 そのため計画出産しているという話を聞いて「ぞっとした」が、それも「あり」な話であり、全額公費の措置の時代、公務に就く「公務員に準ずる社福特養職員」には、できた話でもある。

 介護保険による事業は「公務」である。
 公務による「事」は、安定的に国民に供給する使命があり、その使命を担うは時の政府にあることを忘れてもらいたくないものだ。
 ぜひ、あれこれバラバラに議論するのではなく整えるのではなく、整合性をとって形にしてもらいたいものである。

 でなければせっかく労働者にとって良くしたいと思っての有休休取得率向上策も、「人手を増やす有効な策も見いだせないのに、有給休暇取得率向上策だなんて何をか言わんである」と、お上と介護業界との距離は広まるばかりである。

写真

 空を見上げていると、思いもしない光景に出くわしますが、我が家辺りの上空は、航路にあたっているようで、4・5本の飛行機雲に出くわすことがあります。
 この日はシャッターチャンスを逃したので、こんな写真になってしまいましたが、何とも言えない「自然と人工物の織り成す美しさ」を感じます。
 僕にとって空を見上げることはやめられない至福の時間なのです。特に夕焼け空はたまらないですね。

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