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和田行男の婆さんとともに

和田 行男 (和田 行男)

「大逆転の痴呆ケア」でお馴染みの和田行男(大起エンゼルヘルプ)がけあサポに登場!
全国の人々と接する中で感じたこと、和田さんならではの語り口でお伝えします。

プロフィール和田 行男 (わだ ゆきお)

高知県生まれ。1987年、国鉄の電車修理工から福祉の世界へ大転身。
特別養護老人ホームなどを経験したのち99年、東京都で初めてとなる「グループホームこもれび」の施設長に。現在は株式会社大起エンゼルヘルプ地域密着・地域包括事業部 入居・通所事業部部長。介護福祉士。2003年に書き下ろした『大逆転の痴呆ケア』(中央法規)が大ブレイクした。

お金もってないのに注文はできない

 20年以上前、グループホームで就労し始めたあるとき、入居者と一緒に蕎麦屋に食べに行きました。
 すぐさまお店の方がメニューを持ってきてくださったのですが、皆さん手にしません。

 「何にされるか決めませんか」

 と促すと、皆さん口々に「そうォ…」と言われ、何となく言われたから手にされメニューを見始めるのですが、肝心の「これにします」の声が出てきません。

 「トメさん(仮名)、何にされますか」
 「ガンさんは?」
 って声をかけるのですが、それでも「どうしようかしら」って感じです。

 「なんでかな」
 「何を気にしているのかな」
 と思ってじっと見ていると、トメさんが口火をきって「わたし、お財布もってこなかったから」と。

 なるほど!
 自分がお財布(お金)を持っていないのに、食べ物屋さんに入って「どれにしますか」って言われても、お金がなくては頼めないですよね。

 その当たり前のことを僕らが見過ごしてしまうと、こうなりかねませんが、もうひとつ大事なことがわかりました。
 その当時の「キツネそば500円」は、そのはるか前を生きてきた入居者世代の人にとっては高価な食べ物で、入居者が現役バリバリの頃とは貨幣価値・収入が違いますから、おいそれとキツネそばを頼みようがないことも頭に入れておかねばならないことに気づきました。

 というのも、メニューに目をやっているのですが、メニュー表に指をさしているところは金額で、「高いね」の言葉を互いに掛け合っていたのです。

 これと同様の話をつい最近、あるグループホームの管理者から耳にして盛り上がってしまいました。

 入居者の心模様を見て取れた僕は、皆さんに支援の言葉がけをしました。

「今日は、ちょっぴりお金が入ったので僕が御馳走させていただきますから、お好きなものを食べてくださいね」

 すると「あらぁ、悪いわねェ。いいの」とほくそ笑み、「天ぷらそば」「キツネそば」とそれぞれ思い思いのそばを注文し始めてくれました。

 僕のことが誰だか明確にわからなくても、僕が信頼のおける者であればこそ「悪いわねェ」の言葉から察するに、僕の支援の言葉=「御馳走しますから」を受け入れてくださったのでしょうし、関係性だけではなく、相手の心模様を読み取って振るまうことの必要性を肌で感じた瞬間でしたね。

写真

 宮古島に行くと、他では見ない看板に出くわします。
 宮古島の海が美しいと言われ、川がないのに人が生きていける宮古島特有の理由と関係しているのが「地下ダム」です。
 調べると、宮古島は石灰岩が隆起してできた島だそうで、 降り注いだ雨が地下にしみ込んで石灰岩を通り抜け、粘土質の層に突き当たり、岩の間を通りぬけて海に注がれるそうで(下記写真)、宮古島周囲は海水と真水が混じった特有の状態になるそうです。

 そのしみ込んだ雨が、島内地下で自然に貯まる場所に住民の皆さんは水を汲みに通っていたそうで、それを「ガー(井)」と言い、今でも見ることができますが、水の組みだし作業は洞窟に入って水を汲んでくるのですから、とても大変な作業だったようです。
 そこで、しみ込んだ雨水を効率よく貯めて活用するために生まれたのが「地下ダム」で、地下にコンクリートの壁(防水壁)を埋め込んで海に放出される雨水をせき止め、地下に貯水するようにしたものです。
 要するに、他では地上で雨水を貯めるところを地下で貯めているってことですね。
 宮古島の海の美しさを知るためにも、資料館がありますので、ガーの見学ともども是非!

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