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宗澤忠雄の福祉の世界に夢うつつ

宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

疲労が溜まりやすい福祉の現場。
皆さんは過度な疲労やストレスを溜めていませんか?
そんな日常のストレスを和らげる、チョットほっとする話を毎週お届けします。

プロフィール宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

大阪府生まれ。現在、日本障害者虐待防止研究研修センター代表。
長年、埼玉大学教育学部で教鞭を勤めた。さいたま市社会福祉審議会会長や障害者施策推進協議会会長等を務めた経験を持つ。埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)、『障害者虐待-その理解と防止のために』『地域共生ホーム』(いずれも中央法規)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

障害者差別解消に係わる内閣府の研修会


 11月29日に内閣府主催の障害者差別解消支援地域協議会体制整備・強化ブロック研修会(関東甲信越地域)がオンラインで開かれ、さいたま市の一員として市職員とともに参加しました。

 今年の2月にも同様の研修会が開催されました(2022年2月21日ブログ参照)。ディスカッションのテーマはそれぞれに異なりますが、改めてとても有意義な研修会であることを実感しました。

 この研修に参加してくる自治体の関係者は、例外なく、差別解消の取り組みに係わる何らかの課題意識をもって臨んでいます。そのようなメンバーでディスカッションを進め、他の自治体の取り組みや悩みを共有すると、自分たちの自覚できていない視点や取り組み方、新たなヒントなどに気づく得難い機会になるのです。

 たとえば、私の参加したグループの中で紹介された事例がありました。視覚障害のある人が初めて臨む選挙の投票所に合理的配慮の提供ができていなかったことを教訓に、選挙権の行使に必要な合理的配慮を予め申し出るカードを作って活用するようにしているとのことでした。

 合理的配慮には高い個別具体性がありますから、選挙管理委員会が合理的配慮の基礎となる投票所の環境整備(ユニバーサルデザインの徹底)を図った上で、可能な限りの合理的配慮を提供する対話の仕組みを作ることは、とても大切な取り組みだと思います。

 ただ、今回の研修で内閣府から提供された地域協議会の設置状況をみると、いささか限界に近づいているのではないかと感じます。

 障害者差別解消支援地域協議会の設置状況は、都道府県・政令指定都市の100%、中核市の83%、一般市の69%、町村の46%と、小規模な自治体ほど設置の進んでいない状況にあることが分かります。

 地域協議会の組織形態は、都道府県・政令指定都市・中核市では単独の地域協議会がマジョリティですが、一般市と町村では障害者総合支援法等の協議会を兼ねた組織形態が多くなります。

 複数自治体での共同設置は、都道府県と政令市にはありませんが、中核市の4%、一般市の24%、町村の49%と、自治体の規模が小規模になるにつれて増加しています。

 複数自治体で設置する形態は、自立支援協議会にも見受けられます。ところが、さまざまな困難に直面して行き詰ってしまう協議会は珍しくありません。

 事務局をどの自治体に置くのか、異なる自治体のメンバーを招集する仕組みをどのようにするのかについての調整困難がある一方で、公正な選挙によって選出された首長と議会の意向によって自治体ごとの取り組みは左右されますから、「複数市町村」で設置した協議会は、都道府県が調整役をしたからといってうまく機能できる保障はないのです。

 地域社会の自治と協働の力によって障害者差別解消の取り組みを進めることに異論はまったくありません。それでも、地方部の小規模自治体にこれ以上地域協議会の設置を伸ばしていくことには、無理が大きいのではないでしょうか。

 実際、今回の研修でご一緒した一般市の方は、障害者関係の協議会(障害者基本法、障害者総合支援法、障害者虐待防止法のそれぞれの協議会など)は自治体にすでに複数あって、限られた人員でそれらを円滑に運営していくことの難しさを指摘していました。

 自治体の組織立てが、管轄する法制度によって分けられていくのは当然です。この組織的な原則を、差別解消法については障害のある個人に即して自治体の中での議論を進めていくという提案もありましたが、あまりリアリティがあるとは思えません。

 その上、地方部の町村の多くは、少子高齢化の進展と地域産業の衰退によって自治体と地域が存亡の危機に直面しています。限られた人員によって、この根本的な危機を打開する様々な取り組みに奮闘しなければならない厳しい現実があるのです。

 自治体の職員には差別解消に係わる職権は何もなく、差別相談の件数も多いわけでもなく、事態の改善の決め手は「主務大臣の指導権限」となると、小さな町村にとって、協議会を設置することにどれほどのリアリティがあるのか甚だ疑問です。

 主務大臣の指導権限を速やかに行使できるように、国の機関が差別相談の窓口を各地に設置して適切な対応を図るシステムを充実させる方が、障害のある人にとっても分かりやすいのではないかと、町村の職員は考えるのではないでしょうか。

 差別解消に資する地域社会の自治と協働の力を高めていくことは必要不可欠であるとしても、「地域社会が原野に戻ってしまう瀬戸際」にある臨界点で奮闘している小規模自治体のキャパシティに限界のあることは明白です。

 このような現実を踏まえた小規模自治体にふさわしい差別解消のための新たなスキームや国による制度的支援を考慮しない限り、これ以上地域協議会の設置率を高めることにはさほど意味があると思えません。形式的に地域協議会の設置をこれ以上進めても、「ここ数年間、開催していません」という協議会を増やす恐れが大きいと考えます。

 さて、Covid-19禍へのやむを得ない対応から始まったオンラインの研修や授業は、意味のある恩恵をもたらしています。地理的には遠く離れたところにいる関係者が、オンラインによってリアルタイムで顔を突き合わせ、必要なミーティングや情報交換を行うことが当たり前のようにできるようになりました。

 オンラインのディスカッションには通信費はかかるものの、出張に係わる交通費・宿泊代等はかからないし、はじめて訪れる会場への道案内にまごつくこともありません。これだけでも、中央省庁の所在する東京から遠方の自治体にとっては大きな負担の軽減です。

 従来の行政の取り組み方は、国からそれぞれの自治体への事務連絡が送られた後から話が始まります。しかし、国がオンラインの会議を主宰することによって、一挙に多くの自治体が情報を共有し、自治体間のディスカッションまでできるというのです。一昔前ならとても考えられなかった研修会です。

 このような自治体関係者のディスカッションを国の職員が真剣に傍聴するだけでも、地域の実情の様々を知り、それらを踏まえて現行の法制度をより活かすための方策や必要な改善策が見えてくるのではないでしょうか。

 国から自治体への一方通行を回避し、取り組みの最前線からフィードバックされる情報を制度改善につなげていくPDCAサイクルの一環として、このようなディスカッションのシステムを国・自治体の様々な政策領域で活用していただきたいと希望します。

えっ、冬のカマキリ

 この秋(9~11月)の平均気温は、史上最高の高さだったそうです。その事実を裏づけるように、産卵前のカマキリがまだ庭で生きているのです。広葉樹の落葉を箒で掃いていると、カマキリにいることに気づいてビックリ。思わず、カマキリと見つめ合ってしまいました(笑)