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宗澤忠雄の福祉の世界に夢うつつ

宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

疲労が溜まりやすい福祉の現場。
皆さんは過度な疲労やストレスを溜めていませんか?
そんな日常のストレスを和らげる、チョットほっとする話を毎週お届けします。

プロフィール宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

大阪府生まれ。現在、日本障害者虐待防止研究研修センター代表。
長年、埼玉大学教育学部で教鞭を勤めた。さいたま市社会福祉審議会会長や障害者施策推進協議会会長等を務めた経験を持つ。埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)、『障害者虐待-その理解と防止のために』『地域共生ホーム』(いずれも中央法規)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

障害者支援施設に巣食う差別・抑圧


 この9月5日に提出された神奈川県の「県立中井やまゆり園における利用者支援外部調査委員会調査結果報告書」(https://www.pref.kanagawa.jp/docs/dn6/prs/r8371072.html
に目を通しました。ここは「障害者支援施設」ではなく「伝馬町牢屋敷」と呼んだ方がいいかもしれません。

 外部委員による調査によって明らかにされたこの施設の実態は、まことに悲惨です。28名の利用者が虐待等の被害を受けています。「虐待の疑われる事案」25件、「不適切な支援等であり、速やかに支援方法等を見直すべき事案」12件、「事実の特定が困難な事案」17件などです。

 虐待者は、園や寮等を単位として職員全体が関与したとされる事案が12件、個別の職員が関与したとされる事案が29件、関与したとされる職員は全体で実人数76名でした。まさに、根太の腐った組織です。

 様々な事案の詳細な内容が明らかにされています(詳細は、先に示したURLから報告書にアクセスしてご覧ください)。「虐待の疑われる事案」のタイトルは次の通りです。

ア.早く食え、早くしろと利用者の隣で言い続ける等したとされる事案
イ.職員が利用者の両腕を後ろでクロスさせ、腕を押さえながら歩かせていたとされる事案
ウ.居室の天井が便まみれとなっている環境で生活をさせていた事案
エ.共用スペースであるデイルームで、利用者を全裸にしてボディチェックを行っていたとされる事案
オ.背中に不自然なあざがあったにも関わらず、園は調査をしなかったのではないかとされる事案
カ.利用者の顔を平手打ちし、こぶしで額を殴ったとされる事案
キ.利用者の足を蹴ったとされる事案
ク.職員が利用者を手のひらで小突いたとされる事案
ケ.脱衣場で服を脱がない利用者をふろ場に入れて、服を着たままシャワーをかけたとされる事案
コ.利用者が落とした食器を拾えと職員が大声を上げたとされる事案
サ.服薬用のコップの水等に、塩や砂糖が混ぜられていたとされる事案
シ.利用者の肛門内にナットが入っていた事案
ス.数百回に及ぶ回数のスクワット等の不適切な運動プログラムをさせたとされる事案
セ.利用者に洗濯カートをぶつけたとされる事案
ソ.水の入ったバケツを持って「お水をかけるよ。」と言って、トイレから出てもらったとされる事案
タ.食事中に利用者を突き飛ばして蹴りを入れようとしたとされる事案
チ.利用者が起きてから寝るまで、廊下を歩かせ続けたとされる事案
ツ.失禁で汚すという理由で利用者に寝具を提供しないとされる事案
テ.利用者にコーヒーの提供を交換条件として、課題遂行をさせていたとされる事案
ト.職員が殴打した、又は興奮した利用者を居室施錠したまま放っておいたことで、顔が腫れ上がったとされる事案
ナ.職員が怒り、殴ったことで利用者が頭を打ち、失神したとされる事案
ニ.4名の利用者に対し、食事の際に多量のオリゴ糖シロップをかけて食べさせていたとされる事案
ヌ.水やみそ汁を多量に飲ませていたとされる事案
ネ.利用者の頭に剃り込みをいれていることを職員が問題視していないとされる事案
ノ.複数の利用者に対して、顔をタオルで薄皮が剥けるほど洗っていたとされる事案

 「調査結果の考察」(報告書20頁)の冒頭で、職員には「人権意識の大きな欠如」があり、虐待の多くが職員のやり場のない不安・不満を利用者にぶつける形で生じている点については、「あまりに幼稚である」と指摘しています。

 県の本庁による監査は機能しておらず、施設の管理者はこれらの実態を「知らなかった」としますから、虐待防止の取り組みへの職員の方向づけもまったくありません。「寝た子を起こさない」、「見ざる聞かざる言わざる」の官僚文化が蔓延する下で、声の大きな一部の職員が幅を利かせ、職員間の対立や風通しの悪さがあり、職場の人間関係が悪かったことを明らかにしています。

 この報告書の中で私が特に注目した点があります。「不適切な対応を受けた利用者の多くは、民間の施設での支援・対応が困難という理由で、県立施設で受け入れてきた背景がある」ため、県立施設に「受け入れたという事実だけから、困難の解決をすでに相当程度終えているという誤った意識があったと思われる」(報告書20-21頁)という指摘です。

 平たく言うと、他の施設がバンザイしてしまうほど処遇困難度の高い人を最後に受けとめていることだけが「支援」であり、ここから先の行き場はないのだから「受け入れてもらっていること以外のことでは、四の五の言うな」という「誤っ た意識」が組織に充満していたのでしょう。

 もし、施設の現状の改善に志のある職員が移動や採用で入職したとしても、根太の腐った組織の中で、職場の人間関係が最悪とくれば、「次の異動でこの職場から足を洗いたい」の一心に収斂するのが「公務員の心の運び」です。

 ただ、このような誤った意識は、神奈川県立中井やまゆり園に限ったものではありません。ある県の障害者支援施設の業界団体の会長が、大勢の利用者の家族を前にした講演の中で、「拘束したくらいで虐待だと文句を言うなら、施設を利用するなと言いたい」と放言した事実もあります。

 障害の重度化や2次障害の拡大が加齢とともに進み、もはや年老いた親が養護することができなくなったから、障害者支援施設が「最後に受け止めてやっている」のであって、「受けとめることだけで支援」なのだから「こちらのやり方に文句言うなら、施設から出て行けばいい、これより先の行き場はないでしょ」という態度です。

 さらに、施設従事者等の虐待を担当する複数の自治体の職員から、私は次のような質問を受けた経験があります。

 「虐待の通報を受けて施設に事実確認の調査に入ると、『難しい人たちを相手に普段から頑張っているのに、こんなことで虐待って言われちゃうのですか?』と施設の職員から質問を受けるのです。この質問は、どう理解すればいいのですか?」と。

 自治体職員の率直な疑問は、「普段から頑張っている」ことと「虐待の事実」とは無関係であるのに、どうしてこれらを絡めた理解しがたい質問を施設職員は投げてくるのかという点にあります。

 このような質問をする職員の意識はこうでしょう。世間ではなかなか受け止めてもらえないような難しさのある人たちを、日常的に「受け止める」ことで頑張っているのに、多少の「行き違い」や「勇み足」があるからと言って「虐待だと言うのか、四の五の言われる筋合いはないでしょう」と。

 社会福祉法人の施設職員だとこのような意識に「大した待遇でもないのにものすごく頑張ってきたのです」という気持ちが加わるでしょう。

 このようにみてくると、運営主体が社会福祉法人、社会福祉事業団および自治体のいずれかに関わらず、「広範囲の障害者支援施設に共通する人権意識の欠如」があるといっていい。それは、単純に「人権意識がない」というのではなく、障害福祉サービスの支援にビルトインされた差別・抑圧の文化的土壌です。

 わが国の障害のある人は、今なお「わが国に生まれたることの不幸」(呉秀三)を余儀なくされるのでしょうか。

長芋のムカゴ

 庭のコンポストに入れた長芋の皮から芽が出てツルを伸ばし、毎年秋になるとたくさんのムカゴをつけます。長芋のツルにできる実(肉芽)で、長芋と同じような栄養分だそうです。これまで庭に生ったムカゴをタダで食べてきたところ、先日スーパーにでていた「商品としてのムカゴ」をみてビックリです。300gで700~800円?!これだったら、長芋本体を買った方がリーゾナブルなんじゃないかな~。