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宗澤忠雄の福祉の世界に夢うつつ

宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

疲労が溜まりやすい福祉の現場。
皆さんは過度な疲労やストレスを溜めていませんか?
そんな日常のストレスを和らげる、チョットほっとする話を毎週お届けします。

プロフィール宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

大阪府生まれ。現在、日本障害者虐待防止研究研修センター代表。
長年、埼玉大学教育学部で教鞭を勤めた。さいたま市社会福祉審議会会長や障害者施策推進協議会会長等を務めた経験を持つ。埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)、『障害者虐待-その理解と防止のために』『地域共生ホーム』(いずれも中央法規)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

カオスの拡大

 オリンピックの開催期間中に、埼玉県内のある障害者支援施設でCovid-19のクラスター感染が発生しました。

 7月26日に職員1人のPCR検査結果の陽性が確認され、7月31日に埼玉県コロナ対策チーム(COVMAT)の指導を受け、8月8日までの感染者累計は利用者33人、職員13人となりました。

 このクラスター感染について、私が知り得た得た情報の限りでは、施設と社会福祉法人の取り組みに問題があったわけではありません。

 ここで二つの疑問が残ります。一つは、職員1人のCovid-19感染が確認された時点でこの施設のすべての利用者と職員に対して、速やかなPCR検査を保健所が実施したのかどうかです。もう一つは、このクラスター感染が発生する前に、施設の利用者と職員のワクチン接種がどうして実施されていなかったのかという点です。

 令和2年8月14日厚労省事務連絡「障害者支援施設等における新型コロナウイルス感染者発生時の検査体制について」(健康局結核感染症課、社会・援護局障害保健福祉部障害福祉課)は、次のように述べています。

 「施設関係者に感染者が発生した場合には、適切な感染管理が可能となるよう、感染が疑われる者への速やかな検査を実施することが重要となる。」(2頁)

 「また、高齢者や基礎疾患を有する者は重症化しやすい者が多く、クラスターが発生した場合の影響が極めて大きくなることから、これらの割合が高い障害者支援施設等において感染が1例でも出た場合などにおいても当該行政検査を実施できる。」(3頁)

 知的障害と精神障害は、本年2月に、重症化リスクの高い基礎疾患に指定されましたから、職員1人にCovid-19感染が確認された時点で、すべての施設利用者と職員にPCR検査を速やかに実施することが筋です。その上で、このようなクラスター感染の広がりを防止できなかったのかについて疑問が残るのです。

 もう一つの、ワクチン接種に関する疑問についてです。

 埼玉県第6期障害者支援計画では、障害者支援施設はワクチン接種を優先して実施することになっていたはずです。若い人たちを含む大規模接種会場でのワクチン接種が進んできた7月末の時点で、もし重症化リスクの高い障害のある人たちへのワクチン接種が実施できていないとすれば、行政対応に問題があったとしか考えることができません。

 これら2点については、県当局による説明が必要です。

 オリンピックの開催期間中に、埼玉県では急激な感染拡大が起きていますから、医療崩壊の前に「保健所崩壊」が発生してはいなかったのか。大規模接種会場や職域接種の開始などワクチン接種チャンネルの多元化によるワクチン供給の混乱が、障害者支援施設でのワクチン接種の遅れをもたらす妨げになった問題はなかったのか。

 このような障害者支援施設におけるクラスター感染が発生している最中に、「重症化リスクの低い中等症患者」を「自宅療養」にするというニュースが流れ、紆余曲折を経て撤回される事態がありました。

 これら全体を鳥瞰して総括すると、感染症法にもとづくわが国の対応システムは、オリンピック開催期間中に根底から崩壊する事態に陥ったとみるのが妥当です。

 感染症法は、第2類に指定された疾患について「入院隔離」を原則としています。それが、感染拡大が続いて患者の数が多くなると「宿泊療養施設」を突然持ち出し、さらにオリンピック開催期間中に感染拡大が進むと「自宅療養」を原則とするかのように運用を恣意的に変更しようとしたのです。

 社会福祉施設で感染者が出た場合の「施設内療養」に至っては、法的根拠のまったくない、ご都合主義的対応であるとともに、障害を理由とする宿泊療養施設からの排除であり差別に該当する疑いさえあります。この点については、福祉業界関係者は筋の通った抗議をすべきです。

 このように、オリンピック開催期間中には、国民の「健康で文化的な最低限度の生活」に係わる重大な危機が「今ここに」ありました。しかし、この現実を前にして、わが国のマスコミは一方でオリンピックを祀り上げ、他方では感染拡大を報じるという「二枚舌」を続けたのです。

 第二次世界大戦中の報道を私は彷彿と想い起こします。一方では、「勝った~、勝った~」(メダルを獲った~)と「日の丸」を持ち上げ、他方では「国民生活の窮状を報じる」という「二枚舌報道」です。

 冒頭で取り上げた障害者支援施設のクラスター感染の問題を掘り下げて報じたマスコミはどこにも見当たりません。

 例えば、この期間中の朝日新聞朝刊の埼玉のページでは、紙面の8割ほどをオリンピックと高校野球を祀り上げる記事が占めていた日がある一方で、デジタル配信はさまざまな識者を引っ張り出してはオリンピック開催をめぐる問題点についての記事を掲載しています。

 朝日新聞デジタル7月24日版は、「『最も厚顔でお金目当て』批判相次ぐ五輪、世界の目線」と題する記事を配信しました。

 ここでは、「ワシントン・ポストの元コラムニストのマイク・ワイズ氏は7月11日、同紙への寄稿で『現代スポーツ史上、最も厚顔で、人類より傲慢(ごうまん)さを重視した、お金目当て』の大会が始まろうとしていると批判。『金銭欲の金メダルはIOC、銀メダルはNBCユニバーサル、銅メダルは日本の大会組織関係者だ』と揶揄(やゆ)した」とあります。

 「他人のふんどし」を借りないと、問題の本質を突いて報じることができないのです。要するに、「金銭欲と傲慢さ」の「銅メダル」に続く「4位入賞は日本のマスコミ関係者」が輝き、今回のオリンピックの幕は閉じたのです。

 「新聞読者を確保する」、「オフィシャル・スポーンサーになっている」、「放映権料の元を取り返す」等の営業戦略がCovid-19禍で「弱み」に転じ、「背に腹はかえられない」事態と捉えて「二枚舌報道」を正当化したとすれば、わが国のマスコミは民主主義の発展に資する言論ではなく、急激な感染拡大に加担した「共同正犯」に過ぎません。戦前に「戦局の拡大に加担した禍根」があるのと同様の構図です。

 今回のオリンピックは、開会式も閉会式も競技も、私は一切観ることはありませんでした。そんな気分にはとてもなれなかったのです。関心は皆無ですから、メダル獲得の結果も全く知りません。パラリンピックについても今回はパスします。

ピアノの調律を終えた直後

 昨日、わが家のピアノを調律してもらいました。オンラインの仕事が増え、「おわコン」の地上デジタル放送はまったく観ることもない(NHKが一番くだらない放送内容なので、受信料を返して欲しい!! )ので、ピアノで遊ぶ時間が増えました。

 調律師によると、Covid-19感染の拡大によって、合唱コンクールの中止に伴ってピアノ調律の仕事がなくなり、保育所や学校のピアノ調律も今年はパスするところが多いそうです。調律の依頼予約が入ったとしても、ご都合主義的で猫の目のようにくるくる回って出てくる「まん延防止措置」と「緊急事態宣言」の発令によって、突然予約がキャンセルされて振り回され減収が続いているそうです。もちろん何の補償もありません。

 オリンピックの開催期間中にカオスの拡大が進む中で、民衆に亀裂と格差が増大したことは間違いありません。