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宗澤忠雄の福祉の世界に夢うつつ

宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

疲労が溜まりやすい福祉の現場。
皆さんは過度な疲労やストレスを溜めていませんか?
そんな日常のストレスを和らげる、チョットほっとする話を毎週お届けします。

プロフィール宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

大阪府生まれ。現在、埼玉大学教育学部にて教鞭をとる。
さいたま市障害者施策推進協議会会長等を務め、埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

小賀 久著『幸せつむぐ障がい者支援』

 小賀久さんの新刊書『幸せつむぐ障がい者支援-デンマークの生活支援に学ぶ』(法律文化社、2020年)の書評です。小賀さんが長年にわたって取り組んできたデンマークの障害者福祉にかかわる研究成果をまとめた労作です。

 小賀さんは北九州市立大学文学部教授で、私とは長年にわたる「薄~い友情」で通じてきた間柄です。そこでまずは、氏のデンマーク研究をめぐる舞台裏を知る立場から、その本気度について、現地通訳者の選定話の例から紹介しておきたいと思います。

 わが国では特定の支援領域の「先進国」に1年ほど留学しただけで、海外の取り組みを「熟知した研究」のように成果を報告する似非学者が山のようにいます。数週間や数カ月の滞在ですべて分かったような解説をする者までいます。

 とくに、福祉領域に関する研究は、家族と生活に係る現地の営みと文化に分け入る必要があるため、日本人の視点と枠組みを持ち込んで海外の暮らしを把握することには特別の困難があります。

 たとえば、日本人の研究者が北欧に行った場合、どのような素性の人に現地の案内や通訳の依頼しているのかによって、研究精度は大きく変わります。現地で通訳と案内をする人が日本と現地の福祉用語・福祉事情の違いについて熟知している人なのか、文化的背景を踏まえた通訳をしているのか等によって、外国研究の信用度は全く変わってくるのです。

 このような外国研究につきまとうバイアスの問題を考慮することを怠った「実質ガラクタの外国研究」が、日本ではこれまで溢れるように見受けられました。

 本書は、1年間の留学を皮切りに、この20年間足しげくデンマークへの短期留学を重ね、現地の福祉事情とテクニカルタームに詳しい通訳者の特定を含めた手続きを怠ることなく、デンマークの支援者や当事者との信頼関係を構築しながら障害者支援の実態を明らかにした研究成果であり、デンマークの実情に肉薄した内容に仕上がっています。

 本書の構成は次の通りです。

はじめに
序 章 不寛容な社会を克服する道筋
第1章 デンマークにおける施設“解体“の現実
第2章 障がいのある人の地域生活を支える3つの視点
第3章 生活施設における暮らしの充実と居住形態
第4章 デンマークを知る
第5章 障がい者団体の運動と活動
第6章 人権としての性と平等
第7章 デンマークに学ぶ障がいのある人の自立
終 章 幸福を創造する社会的条件

 本書は、デンマークの福祉支援のあり方を明らかにするとともに、その姿を鏡にしてわが国に巣食う多様な問題点を照らし出そうとしています。

 まず、デンマークについてよく語られるノーマライゼーションやソーシャル・インクルージョンとは、狭く福祉や教育の支援に係る考え方ではなく、障害のあるなしにかかわらず、すべての人の個人の尊厳と幸福追求権の保障を充実させていくための概念であることを明らかにしています。

 私と小賀さんが社会福祉について学びはじめた時代は、似非外国研究が氾濫する中で、「パイの論理」から「日本型福祉社会論」への移行期でした。「経済が発展してパイが全体として大きくなれば国民一人当たりの取り分も大きくなる」という「パイの論理」の大ウソがばれて、今や「日本型福祉社会論」にもとづく支援策もすでに破たんしたと結論づけていい。

 わが国では常に経済成長に従属する形で社会福祉と国民生活のあり方が抑圧されてきたのに対し、デンマークの国家と自治体の政策のあり方を規定する議論の出発点は、常に個人の尊厳と幸福追求権の保障に置かれています。

 簡単に言うと、経済成長の下で、日本の民衆は生涯を通じて、「何とか子育てをして、住まいを確保して、食べていくために」あくせく働き続け、年老いて最期を迎えるだけの暮らしと人生から一向に解放されることがありません。デンマークは、みんなが幸せになるための、みんなで支え合う営みの中に労働と生活があるようです。

 次に、生活支援において特に注視するところは、家族のあり方の違いです。デンマークの男女平等をベースとする家族のあり方の背景にはワークライフバランスの社会的保障があり、未だに家事育児を女性に負わせて残業だらけの男性がいる、わが国の「自助ベース」の家父長制的近代家族とは大違いです。

 三つ目は、デンマークにおける地域生活の構想とその制度的な実現方法の包括性には、目を見張るものがあります。

 「地域生活への移行の実現は、住居、通信、移動、年金、人的支援などに関する公的保障が政策的柱であると位置づけています」(24頁)と、地域生活の充実に資する包括的な支援が制度的に用意されているのです。

 グループホームの例証では、1ユニット6人で2ユニットが同じ敷地内に設置されており、1組の夫婦がいるため合計13人の住人のところが紹介されています。ここでは、13人の住人に対して16人の支援に係る職員が配置されています(主任支援員1人、支援員9人、支援員助手4人、調理士1人、清掃員1人)。(31頁)

 これを読むと、日本の「グループホーム」何て代物は、北欧のつまみ食いを通り越した「名称詐欺」といっていい。デンマークでは包括的な地域生活を実現する生活拠点としての内実が担保されています。

 最後に、国・自治体・当事者団体の政策形成におけるそれぞれの役割が討議にもとづく民主主義に立脚してちゃんと機能している点です。デンマークでは、国の「枠組み法」の下でどのように施策を具体化していくのかは、地方自治体の住民・議会・行政に委ねられています。(第4章)

 施策の具体化には特に地方議会の役割が重要です。ここでは、政策立案の責任は行政ではなく「議員にある」ことが明確で、住民から「質問されてまともに応えられない議員は次の選挙で落選する」そうです。(71頁)

 日中はフルタイムで自身の仕事に従事している地方議会議員は、地域の実情に精通して高い政策立案能力を持って、デンマークの議会を夜に開いています。職業的政治家でありながら、押し出しが強いだけで政策形成能力があるのかないのか分からないようなわが国の議員が、真昼間に開いている地方議会とは大違いです。

 とくに、議会活動や当事者団体のロビー活動のあり方は、「圧力をかける」「多数である力関係でことを押し切る」というようなパワーゲームではなく、自治と参画に立脚した民主主義的討議をあらゆるレベルで誠実に積み重ねて政策を形成していく点で、「討議と民主主義」の成熟度がまったく違います。

 本書は、デンマークの障害者支援のあり方を「つまみ食い」するためのものではありません。デンマークの支援の実態に照らし返されるわが国の現実を正視することによって、私たちがわが国の社会福祉によって実現すべき目標と手立てのあり方をどのように組み替えて創造していくのかを展望するための貴重な資料となるものです。

 ステイホームの年末年始に、デンマークに思いをはせる本書の一読を皆さんにおすすめします。

ヒヨドリ
ムクドリ

 さて、残り一つとなった柿の実をめぐって野鳥たちが争奪戦を繰り広げています。甘柿は冬の野鳥にとってこの上ないご馳走です。スズメやシジュウカラも何とかご相伴に預かりたいのですが、ヒヨドリやムクドリの図々しい客が陣取ってなかなか食べさせてもらえません。野鳥たちよ、君たちもデンマークの民衆に思いをはせるべし(笑)

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