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私はこうして合格しました!

国家試験を突破して精神保健福祉士の資格を取得した合格者の皆さんに、合格までの道のりをご紹介いただきます。効果的な勉強法や忙しいなかでの時間のつくり方、実際に資格を手にして思うことなど、受験者が参考にしたい話が満載です。

第50回 高原聡(たかはら・さとし)さん

見出しリスト

プロフィール

高原聡(たかはら・さとし)さん
平成26年度試験合格

マンガの得意な利用者さんに描いていただきました

 日本電信電話公社(現・日本電信電話株式会社、NTTグループの前身)大学部修了。岐阜県出身。会社内で精神疾患のある人々とたびたび出会い、そのなかでそれらの人々に対する社内での受け止め方に物足りなさを感じ、自身はというと、反対に何か惹かれるものを感じた。そして、西丸四方(日本の精神病理学を代表する一人)の『精神医学入門』(1949年)ほか文献を読み、人の心が異常をきたすということに興味を持った。電電公社は15年間勤め退職。地元の精神障害者グループホームの世話人の仕事を紹介され、作業所の業務にも携わった。平成8年、これまでとは違った作業所をつくりたいと「くるめパソコン作業所」を開設。その後、利用者の増加に伴い、移転やグループホームなど新しい施設も立ち上げ、平成18年に法人格を取得。「特定非営利活動法人武蔵野の里」(東京都東久留米市)として、現在は特定相談支援、就労継続B型、就労移行支援、グループホームの各事業を運営している。精神保健福祉士の資格は、精神保健福祉士養成課程の見直しにより、指定実習施設の実習指導者要件として精神保健福祉士の資格保有が必要となったため取得。2年間の通信教育課程で学び、国家試験は無事に1回でパス。趣味は卓球、山登り、クラシック音楽の鑑賞など。好きなものはネコ、きらいなものは嫉妬心。「今回の受験で勉強がとてもおもしろいなと思いまして、今は精神分析や文章の書き方などの勉強を始めているんです」。旺盛な知的好奇心でたゆまず歩み続ける55歳。

受験の動機

 精神保健福祉士の資格を取った直接の理由ということでいえば、プロフィールに紹介いただいているとおりです。精神保健福祉士の指定実習施設の要件として、実習指導者には相談援助業務の実務経験に加え、精神保健福祉士の資格と実習指導者講習会の課程修了が必要となったため、それに対応する目的で取得しました。また、これは残念なことですが、資格を持っていない人にはよい支援ができないと思っている方が世の中に少なからずおられることを知ったのも受験の原動力となりました。

 平成8年に作業所を立ち上げる前も含めると、精神障害をもった方とのかかわりは30年以上になります。このなかで、資格を持つことの必要性は特段感じてきませんでしたし、資格を持っている方と持っていない方といっしょに話をしていても、違いは見えませんでした。ただ、実際に資格を取るための勉強をしてみますと、日本の福祉制度がこう成り立っているとか、支援はパターナリズムに陥ってはいけないとか、ふだん利用者さんの支援で起こっていることの理論づけや全般的な知識の習得ができて、非常に有益であることに気づきました。

 精神障害の領域で仕事をしていきたいと思ったのは、電電公社にいたときに親しくなった統合失調症の友人との交流がきっかけでした。話を聞いていると、幻聴があったり妄想的な考え方があったりして、会社ですから困った人に対しては厳しい見方をするわけですが、私はむしろその方に惹かれました。

 グループホームと作業所の仕事を数年経験した後、自分の思いどおりにやってみたいと立ち上げたのが「くるめパソコン作業所」でした。当時、作業所というと、内職仕事や古紙回収といった体を使う仕事が主でしたが、通われてくる利用者さんは大学を出た方とか、事務系の仕事をされる可能性を持った方がおられたので、そういう方にあった仕事をつくりたいと思ったのが立ち上げの理由です。その後、規模の拡張や障害者自立支援法への移行など事業としての変遷も経て、現在は3カ所の拠点で4事業を運営しています。就労支援については、利用者さんの希望や適性にあわせて5つの班を設けています。よろしかったら、どうぞ見学にお越しください。

 仕事をしながらの受験ですから、十分に勉強ができたとはとても言えませんが、限られた日数で効果を上げた実体験としては聴いていただけるかもしれません。純粋に勉強の期間でいうと、1カ月くらいです。

レポートが提出できず退学を考えた

 専門学校は、2年制の通信教育課程に入学しました。実習指導者の要件のことは頭にはありましたが、仕事を理由に後回しにしていたら、気がついたときは多くの学校が願書の受付を締め切っていました。どこかないかと探して見つけたのが東京の豊島区にある東京豊島IT医療福祉専門学校でした。職場からそう遠くなく、国家試験の合格率も高かったので、ここに決めました。

 入学後は仕事に追われて、まったく勉強はできませんでした。スクーリングは修了しましたが、課題のレポート提出は、最初の数回は間に合ったものの、途中から手が付かなくなりました。2年間で8回くらい締め切りがあり、1回当たり数教科分を提出するのですが、期限内に提出できなくなり、またそれが重なっていき、もう退学するしかないと思いました。ところが、時間が過ぎていき、あきらめようと思っていたところ、学校から受験の意向を問う文書が送られてきて、まだ可能性があるのかと思い直しました。とにかくがんばろうと溜まったレポートを作成し、それを出し終わったのが秋でした。

 専門学校に入学した後、2年目の秋まではこの状況ということですから、つまり、この時点まで受験勉強らしいものは何もしていません。試験のための勉強を始めたのは12月に入ってからです。専門学校の先生から励ましのお言葉をいただいたこともありがたかったです。

順々に習得していては間に合わない

 まず、試しに過去の試験問題を解いてみたところ、得意だと思っていた精神医学で半分、苦手な共通科目はまったく解けませんでした。これはまずいと、いろいろな人に受験することを宣伝しました。人に話すことで、背水の陣といいますか、自分自身にプレッシャーをかけるためです。次に、試験勉強用の参考書や問題集を購入しました。ジュンク堂書店の受験対策書のコーナーに行き、どれがいいかと自分に合っていそうな本を選びました。役に立ってくれればとの思いから、同じような本もけっこう買いました。

 はじめは、ワークブックを使って1科目ずつ重要項目を読んで、問題を解くということをしていきました。ワークブック形式の参考書はいくつかありましたが、中央法規さんの受験ワークブックを中心に使いました。

 ただ、この方法は1科目を全部読んで理解するのに2日も3日もかかってしまい、これでは間に合わないと思い、勉強の方法を改めることにしました。すでに年末の休みに入ろうとする頃で、この時期に至っても全科目の内容にすら目を通せていないのはさすがによろしくないと思いました。こちらのコーナーの体験記も読んだりしまして、なかには1カ月で勉強して合格した方もいらっしゃいました。せっかく受験資格も手にしたことだし、もうあきらめずに最後までいくしかないと気を取り直しました。

解説文を読む、とことん読む

 取り組んだのは、過去問の問題集の一本に絞って、この解説をよく読むことでした。問題を解いた後、○の理由だけでなく、×の理由もしっかり読んで理解するという作業です。これは学校の先生のアドバイスでした。教材は、試験問題が3年分入っている中央法規さんの本がいちばんわかりやすく解説されていたので、これを使いました。

 解説をよく読むと、そこに書かれていることがだんだんわかるようになって、問題を解く感覚がつかめるようになりました。問題を解いたときの正答率は、解きやすい科目で6割くらい、苦手に感じている科目だと3割か2割程度だったと思います。全問を解いてから答え合わせをするのではなく、1科目を解いては答え合わせをして、解説を熟読するという進め方です。最初にいちばん新しい年度の問題を解き、次にその前の年、そして前の年と解いていき、昨年度の問題だけ2回解きました。時間を計って全問続けて解いたり、同じ問題を間違えなくなるまで解いたりできれば、もっとよかったのかもしれませんが、そこまでする時間はありませんでした。

 大事に考えたのは、くり返し解いて間違えなくなることを目指すのではなく、解くのは1回でも、どこがどう間違っているのかをしっかり理解することでした。過去問の解説だけではよくわからないところが出てきたときは、ワークブックなどを見て、理解できるまで調べるようにしました。

作問者の意図が見えてきた

 この勉強方法に切り替えて大きかったのは、問題を出している人の意図がなんとなくわかるようになったことです。この人はこういう意図で出題しているのだ、たぶんこれを正解にしたいのだと、感覚的にわかってきました。知らない人名やよくわからない事業の話が出てきても、この人はこういうことを訊こうとしているので、この選択肢は違うだろうと。一問をていねいに解いて、解説を一つひとつ読み込んでいったからそう感じられるようになったのだとしたら、なかなか有効な方法かもしれません。

休日に集中して取り組む

 勉強する時間は、基本的に休みの日でした。試験まで1カ月を切っていましたから、平日も仕事をしているとき以外は勉強する気持ちでいましたが、だいたい夜8時過ぎか、遅い日は10時過ぎまで仕事になることもあります。家を出るときに問題集をカバンに入れ、日中一度も開くことなく持ち帰り、就寝時間の午前1時まで1~2時間もできた日はやれたほうだったと思います。

 そのぶん、休日の土曜日曜は、朝起きてから夜寝るまでぶっ続けで勉強していました。やろうと思ったら、食事を除いても一日に13、14時間くらいは捻出できます。好きなクラシック音楽を聴きながら勉強すると、眠くならず集中できました。土日でも、立場的に急な仕事が入ったり、理事会の準備があったりするので、つくることのできた時間はできるだけ勉強に充てるようにしていました。

レポート作成、試験勉強に使った参考書や問題集。
「仕事にもなかなか便利」と事業所に保管している

試験はやさしかった

 国家試験はどんな問題が出るかわかりませんし、十分に勉強したわけでもなかったので、合格できる手応えのようなものはありませんでしたが、試験を受けてみてまず思ったのは「やさしかったな」でした。

 実際のところ、今年(平成26年度)の試験はやさしかったと思います。専門科目、共通科目の両方です。共通科目の試験では、何度もトイレに出て行かれる方やずいぶん早い時間に終了して退室される方もいました。試験が終わった直後は、やさしいだけに平均点もものすごく高いのではないかとそちらの心配をしたくらいです。

 解答速報で答え合わせをすると、100点を超えていました。唯一不安を残していた0点科目もないことがわかり、合格を確信しました。3月に合格発表を見たときは、資格を取得した実感が湧いてきてうれしかったです。

精神分析を学んでいきたい

 今回、精神保健福祉士の受験をしてみて、非常に勉強がおもしろいと思いました。社会福祉士もがんばれば取れるかもしれないと思い、一度はチャレンジする気になりました。ただ、ちょっと考えてみて、勉強するならば、より自分自身の関心に応じたところにその気持ちを向けてみようと思いました。精神分析の医学、心理学を学んでいく方向です。セミナーなどにも参加していきたいと思っています。もともと、人の精神病理を学ぶことはこの領域で仕事をしていきたいと思った一つの理由でした。

 精神保健福祉士の資格を取得したことで、この仕事をしていくときの知識や技術の総体を学べたことは有意義でした。今まで自分がしてきたことの理論的な裏付けが持てたのもよかったです。実習指導者やグループホームの世話人など資格要件としても重要度を増しています。日本精神保健福祉士協会の研修などにもアクセスしやすくなるでしょう。

 この仕事は、自分自身を自己覚知して受容できていることが大事であると日々感じています。皆様が今後、福祉の仕事のなかでそれらを培っていき、それぞれの道を邁進していかれることをお祈りします。

 勉強は今から間に合います。どうぞ、合格に向けてがんばってください。

先ごろ一般就労したメンバーが作業所を訪れた。仕事はどう? と応対に笑みがこぼれる高原さんと金丸恵子さん