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福祉の現場で思いカタチ
~私が起業した理由わけ・トライした理由わけ

介護や福祉の現場で働く人たちはもちろん、異業種で働く人たちのなかにも、福祉の世界で自分の想いを形にしたいと思っている人は、実はたくさんいます。そして、今、それを実現できるのが福祉の世界です。超高齢社会を迎え、これからますます必要とされるこの世界では、さまざまな発想や理想のもとに起業していく先達が大勢いるのです。そんな先達たちは、気持ちだけでも、経営だけでも成り立たたないこの世界で、どんな思いで、どんな方法で起業・トライしてきたのか、一か月にわたって話を聞いていきます。行政への対応や資金集めなど、知られざる苦労にも耳を傾けながら、理想を形にしてきた彼らの姿を追います。


●インタビュー大募集
「このコーナーに出てみたい(自薦)、出してみたい(他薦)」と思われる方がいらっしゃったら、
terada@chuohoki.co.jp
までご連絡ください。折り返し、連絡させていただきます。

花げし舎ロゴ

花げし舎ホームページ:
http://hanagesisha.jimdo.com/

プロフィール久田恵の主宰する編集プロダクション「花げし舎」チームが、各地で取材を進めていきます。
久田 恵(ひさだ めぐみ)

北海道室蘭市生まれ。1990年『フイリッピーナを愛した男たち』(文藝春秋)で、第21回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。
著書に『ニッポン貧困最前線-ケースワーカーと呼ばれる人々』(文藝春秋・文庫)、『シクスティーズの日々』(朝日新聞社)など。現在、読売新聞「人生案内」の回答者、現在、産経新聞にてエッセイを連載中。

第49回④
Rock on The Beach 代表 濱ノ上輝さん
悩みを抱える人たちもここへ来て汗を流して!
突破口はきっと見つかる

Rock on The Beach 代表 濱ノ上輝さん
京都府生まれ。40歳を過ぎて看護師資格を取得。産科の看護師として働く。視覚障害のある息子がパラスポーツクライミングで世界大会に出場したことに刺激を受け、障害の有無を問わず誰でも気軽に楽しめるユニバーサルなスポーツクライミング施設「Rock on The Beach」を京都・京田辺市で開設。

 取材・文 石川未紀

―オープン後、さまざまな方との交流からアイデアが生まれてきたというお話を伺いました

―イベントなども開催しているとか。

 はい。息子をクライミングに誘ってくれたNPO法人モンキーマジックの小林さんは、全国都道府県でスポーツクライミングのイベントを開催されていますのですが、7月30日には「はんなりモンキー(京都)」のイベントを「Rock on The Beach」で開催しました。グループ分けをして、目隠しクライミングなども楽しみました。月一回くらいのペースで、こうしたイベントを続けていきたいと思っています。
 今後もさまざまなワークショップや、夏休みのキッズスクール、ストレッチ講座なども開催していこうと考えています。親子でいらしても子どもだけが楽しんでいる方もいらっしゃるんですね。でも、それではもったいない。垣根を低くして、まずはやってみてもらう。そんなきっかけ作りをしていきたいと思います。
 また、イベントではありませんが、皆さん、自由にいろいろなことにチャレンジしています。子どもが目隠しクライミングに挑戦しているのを見て、親も刺激を受けて始めたり、あるお子さんは、車いすユーザーの方が登っている間にその車いすに乗ってみたり。
子どもというのは「障害」という垣根なく、好奇心から体験していくんですね。わざわざ「車いす体験」などに行かなくても、勝手に体験しています(笑)。でも、そこからいろんなことを学んでいるのだと思います。そうした自然の交流から気づくことがたくさんあると思っています。
 75歳の視覚障害のある男性も来てくださり、「楽しかった」と言ってくださいました。本当にすばらしいです。

―どんどん進化しているようですね。

 はい。作ったら終わりではなく、誰もが来やすい施設にしたいと日々試行錯誤しています。多様な人たちが集まれる場所であるためには、待っているだけでなく、こちらからどんどん呼び掛けたり、イベントを企画していったりしなくてはいけないなと思っています。
 先日は車いすユーザーの方が福井から来ていただきました。どうやってここを知ったのか尋ねると、京都に住む車いすユーザーの方に聞いたと。障害のある方は、やってみたいがやれる場所がないと思っていらっしゃる方が全国にいるんだなと実感した一方で、横のつながりの強さも感じました。Instagramを見ていらした方もいるので、さまざまなツールで情報発信していけたらと思います。
 「街のとまり木」というNPOの団体にも、先日登録しました。「街のとまり木」はすべての子どもが豊かな子ども時代を過ごせる社会を目指している団体で、学校外で学ぶ子の育ちを支える活動をしています。私もここを作るときに、障害のあるなしだけでなく、さまざまな悩みを抱える人たちもここへ来てほしい、そんな人達が集える場所になってほしいという思いがありました。それで、うちのコンセプトと合うんじゃないかと思い参加することにしたんです。

―「街のとまり木」を知るきっかけは?

 息子が紹介してくれたんです。当初は冗談としてしか受け取ってくれなかった息子も、今ではとても協力的で、イベント企画の提案などをしてくれます。どんな団体と連携していったらいいかといった情報もくれますし、運営上の工夫も教えてくれます。

―働きながら、アスリートとして練習を積みながら、運営も手伝ってくださる。パワフルで頼りになる息子さんですね。

 クライミングは息子にスポーツの楽しさや仲間の大切さを教えてくれました。そして、自律もさせてくれたのです。息子がクライミングと出合わなければ、私たち親子でこんなに話すこともなかったでしょうし、もちろん、この「Rock on The Beach」もなかった。
 息子の成長を促してくれたというだけでなく、私自身にもたくさんの「気づき」をもたらしてくれました。
 息子は昨年のモスクワで開かれたパラクライミングW杯に続いて、この六月に開催されたオーストリア・インスブルックでもメダルを獲得することができました。それに満足することなく、努力をする姿は頼もしく感じますし、私自身を奮い立たせてもくれます。親として自律を望んでいたのに、いつのまにか支えられる存在になりました。
 だからこそ、この場所には、いろいろな悩みを抱えている人にも来てほしいのです。第二、第三の息子や娘たちが、ここに来て汗を流して声をかけあいながら、思い切り楽しむ。
 多様な人たちが出会うことで、たくさんの生き方があるということに気づく。そんな突破口がここでみつけられたらいいなと思っています。

―ありがとうございました。

イベント「はんなりモンキー」は大成功!

【取材を終えて】
 現在も夜勤をこなす現役のナースでありながら、精力的に企画・運営をこなす濱ノ上さんのパワーに脱帽です。とにかく、パワフルでポジティブ。その資質は息子さんにも受け継がれ、相乗効果を呼んでいるようです。ご自身も楽しみながら、やってみようという姿が多くの人たちを巻き込んで、笑顔の輪がひろがっています。
【久田恵の視点】
 そこに行けば、クライミングにもチャレンジができて、誰かに会えて・・・、楽しくなってしまう。そういうみんなが求めているものを作り出すことのできる人がいるって、素晴らしい。まさに濱ノ上さんは「思いを形に」していく実践者。そのように自分の人生も他者の人生も共に豊かにできる人は、かけがえがないと思います。