福祉の現場で思いをカタチに
~私が起業した理由 ・トライした理由 ~
志をもってチャレンジを続ける方々を、毎月全4回にわたって紹介します!
【毎週木曜日更新】
第8回② 川内 潤 となりのかいご代表理事
高齢者虐待を防ぎたい、そして、介護する人も「自分の人生」を歩んでほしい
その思いを講演会で伝えていったら……
となりのかいご代表理事
川内 潤
1980年生まれ
上智大学社会福祉学科卒。老人ホーム紹介事業、外資系コンサル会社、在宅・施設介護職員を経て、2008年に市民団体「となりのかいご」設立。2014年に「となりのかいご」をNPO法人化、代表理事に就任。ミッションは「家族を大切に思い一生懸命介護するからこそ虐待してしまうプロセスを断ち切る」こと。誰もが自然に家族の介護に向かうことができる社会の実現を目指し日々奮闘中。
取材・文:石川未紀
前回は、介護の現場で家族による虐待の実態を知り、市民団体「となりのかいご」を立ち上げた経緯までを語っていただきました。
今回は、活動を具体的にどのように発展させていったのかを伺います。
──虐待をしている家族を責めても解決にはならないと感じたのでしょうか?
介護している家族は、精神的にも肉体的にも追い込まれているんです。介護離職して、生活が困窮している人もいますし、一生懸命やりすぎて慢性的な睡眠不足でまともな判断ができなくなっている人もいます。特に息子の虐待率は高いのですが、息子というのは母親の老いをどこか認めたくないという面があります。認知症で会話がうまく成り立たず、いら立って手をあげてしまったり、放置してしまうこともあります。家族だからこそ、やりきれない思いも深くなってしまうのです。
そして、もし自分がその立場になったらそうするかもしれない、と思いました。
そんな社会は悲しすぎますよね。
手をあげずにすむのなら、その仕組みを作らなくてはいけない。この状態を放置するなら、自分は介護の世界にいる意味がないと思いました。
──使命を感じたのですね。
はい。ですから、そうならないためにどうしたらよいかを考えました。
現場で見たことと、これまで大学で学んだことを、自分なりに考え、試行錯誤を重ねて、虐待をしない、させない仕組みを考えました。
さて、情報発信をどうしたらいいか。助成金を申請しようか、寄付を募ろうか、いろいろ思案しました。継続できなければ、成果は期待できません。そのころ、ある大手企業の非営利団体向けの公開講座に出席し、そこの講師の方から「あなたの介護の話が面白そうだからウチの社員にしてほしい」と言われたんです。そこで、働いている人も介護に困っていることを知りました。働いている社員さんに介護情報の発信が必要と考え、はじめは無料でセミナーを繰り返しました。
この講演は好評で、その後、いつかの企業から有料でもよいので、講演をしてほしい、個別に相談に乗ってほしいという話をいただくようになりました。今は、企業と顧問契約して、講演、個別相談、人事・総務部などへのアドバイス、定例会などを行い、顧問料をいただく形で活動しています。法人と契約するにあたって、市民団体ではマズイと考えNPO法人化しました。
その後もいくつかの企業から声がかかり、今のところ、助成金や、寄付に頼ることはないですね。コンサルティング会社での経験と、介護業界での経験が掛け合わされて、この仕事を事業化するのに役に立ちました。
実はこのころはすでに父親の会社は退職していましたが、とある社会福祉法人 の社員でした。そこではデイサービスの立ち上げや広報の活動も行っていました。二足の草鞋ですね。そこの上司にはとてもお世話になっていたので、こちらの仕事が忙しいから、やめさせてくれとは言えませんでした。ところがその上司から、「あなた が本当にやりたいことをしっかりと頑張るべきなんじゃないの。このままじゃ体を壊れちゃうよ」と言われたんですね。それで、感謝の気持ちを抱きつつ、この道一本でやっていこうと決心したんです。今から、一年半前のことです。
●インタビュー大募集
「このコーナーに出てみたい(自薦)、出してみたい(他薦)」と思われる方がいらっしゃいましたら、terada@chuohoki.co.jp までご連絡ください。折り返し連絡させていただきます。
「ファンタスティック・プロデューサー」で、ノンフィクション作家の久田恵が立ち上げた企画・編集グループが、全国で取材を進めていきます
本サイト : 介護職に就いた私の理由(わけ)が一冊の本になりました。
花げし舎編著「人生100年時代の新しい介護哲学:介護を仕事にした100人の理由」現代書館