メニュー(閉じる)
閉じる

ここから本文です

辻川泰史の介護事業経営に必要な考え方

辻川 泰史 (つじかわ やすし)

一期一会の出会いを大切にし、介護のプロとしてサービスを提供する辻川泰史さんによる、これからの事業所運営の指南ブログ。

プロフィール辻川 泰史 (つじかわ やすし)

1978年東京都生まれ。98年、日本福祉教育専門学校卒業。
老人ホーム、在宅介護会社勤務を経 て2002年、(有)はっぴーライフを設立(05年に株式会社化)。08年、(株)エイチエルを設立。現在、コンサルティ ング、講演、セミナーなどでも活躍中。
著書に『福祉の仕事を人生に活かす!』(中央法規、2009年)がある。
はっぴーライフHP
http://www.hl-tokyo.com/
対談ムービー http://www.youtube.com/user/2g66

介護の仕事について想うこと

 私自身、介護の仕事を始めて18年が経ちます。

 私が新卒で介護業界に入った1998(平成10)年は、措置の時代でした。利用者様の年齢層も明治生まれ、大正生まれの方がほとんどで、昭和生まれの方は少なかったです。戦争を経験され、日本の高度成長期を支えてこられた方と接することができたのは幸運でした。

 私が初めて100歳を超える年齢の方と接したときも、この頃です。私が20歳で、その利用者様は104歳。1998(平成10)年のことなので、今、ご存命であれば122歳です。122年前というと、明治27年、西暦1894年生まれです。日清戦争があった年です。終戦の1945(昭和20)年は51歳です。

 その方のお父様が43歳か45歳のときの、後妻の子どもという話だったと記憶してます。計算すると、お父様は大体1854年生まれになります。ペリー来航の年です。私も歴史で勉強したので、その時代に生きた方と直接、話をしたということを伺ったときは興奮しました。

 歴史として学んだ出来事を、実際に経験された方のお子様からお話を伺うことは臨場感がありました。歴史という言葉にすると、何か自分とは関係が薄い、教科書のなかのこと、というような感覚になってしまうこともあるかもしれません

 受験勉強やテストで出るから覚える、暗記するという義務の記憶という感覚になってしまっている場合も少なからずあるようにも感じます。それは、テストや受験のために覚える単語であって歴史という物事ではありません。

 その他の方も、実際に戦地での経験や空襲に遭われた方ばかりでした。焼夷弾が落ちる音、夜空がオレンジ色になり、綺麗だが気味の悪い夜を過ごしたこと……。終戦後に商店を経営していて、駐留している米軍で素行の悪い兵隊に商店の商品を持っていかれたこと、夜に米を買いに行ったこと……など、経験された方の話を伺いました。

 そういった苦難の時代を乗り越えて来た方の老後のケアをさせていただくこと、そういった時代を生きた方の経験を直に伺うことができるということが私が介護の仕事に感じる魅力の一つです。利用者様の経験や体験や考えを伺えるということは財産でもあります。

 しかし、実際に今の介護業界はどうでしょうか? どうして不人気職種になり、人材が不足し続けているのでしょうか? いつも自問自答します。私が新卒で就職先を探すとき、社会福祉法人の特養などの施設は応募したくても職員が足りているとか、すでに実習生で新卒の枠が埋まっているなど、就職できないような状況でした。介護専門学校の生徒には人気があったという事実があります。

 今はどうでしょうか? 誰でもいいから採用という状況も少なくありません。労働人口の減少? 制度の問題? 給与の問題? 職場環境の問題?

 要因や原因は多種多様です。一つ言えるのは、魅力が伝わっていないということ。やりがいが見出せていないということ。もしかしたら魅力があっても継続できないのかもしれません。それは介護業界の制度の複雑化、職員のカラー、利用者様の層の違いもあるのかもしれません。

 当社だけでなく、私のクライアント様の事業所や友人の事業所でも同様で、今入社してくるスタッフへ、介護のやりがいということに関して話しても、そこまで責任をもてない、そこまで考えることが負担だ、という返答も珍しくないような状況です。働き方の変化なのかもしれません。寂しく感じることもあります。

 かといって、何もしないことは、経営していくうえでの意味の希薄さも感じます。単に、労働としての介護を行っていくことが、介護スタッフ自身の成長になるとも思えません。やりがいを感じ、目標と目的を考え、介護という仕事に向き合い、介護という仕事を通して、社会を見て自己の立場と使命を考えていくということを意識していけるような気づきを得てもらえるようにするのが、経営者や管理者の役割だとも感じます。

 しかし、そういった視点を求めることが、時に離職につながってしまうこともあります。介護を、単に高齢者と話す、ケアするという意識でいる人も少なからずいます。そういった人に気づきをもってもらい、行動変容を促し成長につなげることは難しいです。

 どういった教育をしていくべきなのか? 利用者様に接するように、スタッフも一人一人性格が違い、観点が違います。介護は人材がすべてです。その人材にこだわりをもたなくなることは、事業の衰退を招きます。仕組みでどうこうなる仕事ではありません。利用者様と向き合う、その前にスタッフ個々と向き合うことをあきらめないこと。スタッフ個々の想いを尊重すること、同じ志や想いの介護スタッフに自社の存在を知ってもらうこと。まずは、近くに居るスタッフ(同僚)と介護の魅力を再確認する機会をもつことそういった想いを行動にし、積極的に行っていくことを大切にしたいと思います。