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宗澤忠雄の福祉の世界に夢うつつ

宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

疲労が溜まりやすい福祉の現場。
皆さんは過度な疲労やストレスを溜めていませんか?
そんな日常のストレスを和らげる、チョットほっとする話を毎週お届けします。

プロフィール宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

大阪府生まれ。現在、日本障害者虐待防止研究研修センター代表。
長年、埼玉大学教育学部で教鞭を勤めた。さいたま市社会福祉審議会会長や障害者施策推進協議会会長等を務めた経験を持つ。埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)、『障害者虐待-その理解と防止のために』『地域共生ホーム』(いずれも中央法規)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

平成25年度障害者虐待対応状況調査結果から(3)

 今回は、障害者虐待対応状況調査結果についての考察の最終回です。養護者による虐待と施設従事者等による虐待を比較しながら考察を進めます。まず、被虐待者の状況から考えてみましょう。

◇被虐待者の性別・年齢別状況
〈性 別〉                            ( )内は構成割合%
 
養護者による虐待672人
(37.1)
1,139
(62.9)
1,811
(100.0)
施設従事者等による虐待283
(62.2)
172
(37.8)
455
(100.0)

〈年齢別〉                            ( )内は構成割合%
 養護者による虐待施設従事者等による虐待
~19歳143人
(7.9)
35人
(7.7)
20~29351
(19.4)
115
(25.3)
30~39317
(17.5)
95
(20.9)
40~49353
(19.5)
98
(21.5)
50~59378
(20.9)
53
(11.6)
60~64216
(11.9)
21
(4.6)
65~53
( 2.9)
18
(4.0)
不明20
(4.4)
合計1,811
(100.0)
455
(100.0)

 被虐待者を性別にみると、養護者による虐待は6割強を女性が、施設従事者等による虐待は6割強を男性がそれぞれ占めていることが分かります。養護者による虐待で、被虐待者のおよそ2/3が女性であるという事実は、さいたま市で行った私の実態調査結果においても、平成24年度障害者虐待対応状況調査結果においても一貫して確認されている点です。

 京都府の条例に盛り込まれた複合差別の一つとして、障害のあることと女性であることが錯綜し、虐待という暮らしの中の人権侵害が発生していると考えることができます。ただし、この問題の虐待防止に資する詳細な解明は、今後に期待しなければなりません。障害のある女性の被る虐待問題についての、研究調査と事例研究が求められる課題です。

 また、施設従事者等による虐待は6割強を男性が占め、しかも20歳台の最も多い点は、昨年度の調査結果から引き続いて確認される傾向です。この点における虐待防止に資する知見の解明も今後の課題です。

 さて、もっとも悩ましい問題点は、虐待者の状況です。

◇虐待者の性別・年齢別状況
〈性 別〉                            ( )内は構成割合%
 不 明
養護者による虐待1,305人
(65.6)
679
(34.1)
6
(0.3)
1,990
(100.0)
施設従事者等による虐待217
(66.8)
108
(33.2)
325
(100.0)

〈年齢別〉                            ( )内は構成割合%
 養護者による虐待施設従事者等による虐待
~17歳11人
(0.6)
49人
(15.1)
18~29166
(8.3)
30~39242
(12.2)
42
(12.9)
40~49396
(19.9)
68
(20.9)
50~59449
(22.6)
62
(19.1)
60~655
(32.9)
57
(17.5)
不 明71
(3.6)
47
(14.5)
合 計1,990
(100.0)
455
(100.0)

 養護者による虐待と施設従事者等による虐待の双方に共通して、虐待者の約2/3は男性であるとともに、40歳以降の年代に虐待者の占める割合が高いということが分かります。施設従事者等による虐待については、前回指摘した通り、経験年数が人権感覚を磨くことにつながってはいないことと管理職層が多いという事実を裏打ちする結果です。

 使用者による虐待については、この11月に明らかにされた虐待対応状況調査結果(厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部障害福祉課地域生活支援推進室)とは別に、今年の7月に厚生労働省大臣官房地方課労働紛争処理業務室を照会先として公表されています。

 障害者虐待防止法は一つの法律ですが、虐待の分類によって省内の所轄部局が異なっているようです。使用者による虐待に関連する法律が労働関係法令となることから、福祉関係の部局との棲み分けがあるのでしょう。この点について異論を差し挟むことはしませんが、少なくとも、虐待防止法の定める3つの虐待に関する対応状況結果としての同質性や共有性を担保できる形でのデータの公表をお考えいただきたいと願っています。

 使用者による虐待の対応状況結果は、虐待者・被虐待者の職場における地位や性別・年齢等が全く明らかにされないため、虐待防止につながる知見をここから得ることはほとんど不可能ではないでしょうか。ぜひ、今回の養護者・施設従事者による虐待と同じフォーマットでデータを明らかにしていただきたいのです。

 全体として、今回明らかにされた都道府県・市町村の障害者虐待対応状況の調査結果は、障害のある人の虐待実態の一部に過ぎないものと考えます。虐待防止法が施行されて3年目に当たる今日、虐待対応の精度と迅速性を高めることは自治体の急務であり法的責任です。

 しかし、虐待として明らかに確認された多くの事実から、虐待の発生をもとから防止できる知見を明らかにして活かしていくことは、虐待防止法の主旨に即してもっと重要な課題です。この点において、虐待防止の前線に働く自治体職員と支援者のすべてが協働できる地域の取り組みが求められています。