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宗澤忠雄の福祉の世界に夢うつつ

宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

疲労が溜まりやすい福祉の現場。
皆さんは過度な疲労やストレスを溜めていませんか?
そんな日常のストレスを和らげる、チョットほっとする話を毎週お届けします。

プロフィール宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

大阪府生まれ。現在、日本障害者虐待防止研究研修センター代表。
長年、埼玉大学教育学部で教鞭を勤めた。さいたま市社会福祉審議会会長や障害者施策推進協議会会長等を務めた経験を持つ。埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)、『障害者虐待-その理解と防止のために』『地域共生ホーム』(いずれも中央法規)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

ケアのロジックと意思決定支援

 アネマリー・モルの『ケアのロジック』を前回のブログ(5月30日)で紹介しました。ただ、ケアを論じる土俵はヨーロッパとわが国ではかなり違うことに留意しておく必要があります。

 福祉・介護サービスについて、わが国は国民の側に福祉サービス請求権がないのに対し、ヨーロッパの国々の多くは福祉サービス契約法の下でサービスの請求権を保障しています。

 わが国の利用者は、消費者契約法の対象としてサービス利用契約の「消費者」にとどまり、行政に対する請求権を持つ「市民」になり切れていません。サービス利用の入口にサービス提供事業者の「応諾義務」はあるものの、支援を求める人にもれなくサービスが行き届く仕組みになってはいないのです。

 このようなヨーロッパ各国とわが国にあるサービス利用契約をめぐる相違は、意思決定支援のあり方の違いに直結しています。

 『イギリス2005年意思能力法・行動指針』(新井誠監訳、2009年、民事法研究会)は、福祉・介護サービスの利用に係わる意思決定支援の行動指針(取り組みの65事例、この法律は条文だけでなくこの事例を含めて法規範性を持つ)を詳細に記しています。

 ここでは、自閉症スペクトラムや脳性マヒのような子ども期からの障害だけでなく、高齢期の疾患・要介護状態のある人も含めての行動指針が示されています。

 イギリスの行動指針を読むと、意思決定支援は障害のある人(子ども期を含む)と高齢者の支援領域のすべてにおいて追求されていることがよく分かります。

 それに対してわが国では、障害者の権利条約が代行意思決定を禁止し、意思決定支援が必要不可欠であることの自覚があるのかどうかさえ必ずしも明確ではありません。障害者と高齢者に係わる支援現場において、取り組みが進んでいるとは言えません。

 さらに、代理権を持たない身内がサービス利用契約を結ぶことが未だにまかり通り、家族依存型の福祉・介護が助長され続けているのです。そこで、契約をめぐる利用者本人への意思決定支援は事実上スルーされてしまう構造ができ上っているのです。

 平たく言えば、家族の養護・介護負担が限界に達したとき(あるいは、早晩限界に達すると予想されるとき)にはじめて、サービス利用につなげるのですから、「家族都合のサービス」という性格が強く、本人の意思は「二の次」であるか「家族にこれ以上迷惑をかけないためのサービス利用」になりがちです。

 だから、個別支援計画の作成・決定にかかわる意思決定支援も不十分なまま、家族の同意と捺印で済ませてしまうセレモニーが横行します。これは、障害者権利条約に明白に反しています。

 成年後見制度の活用と意思決定支援の拡充を架け橋する取り組みが発展しつつあるのは事実です。しかし、そんなことに構ってはいられない家族と支援現場の現実が、岩盤のように存在することも直視しなければなりません。

 このような利用者本人への社会的抑圧の下で、「消費者」に留まるサービス利用契約の仕組みがあります。すると、わが国の意思決定支援は、モルの言う「市場版選択のロジック」に囲い込まれる問題をはらんでいるということになります。

 モルは、支援を必要とする利用者は、まず「選択の主体」として表れるのではなく、自らの生活をより良くしようとしている「活動の主体」であり、「ケアチームの重要な一員」であると言います。すると、ケアのロジックと選択をめぐる意思決定支援の関係は次のようになります。

 利用者は「生活の活動主体」として支援のプロセスに参画するケアのロジックの下で、たとえば「誰とどこに住むのか」や「自室の家具調度をどうするか」のような選択に係わる意思決定支援が進められるということになります。

 つまり、ケアチームの重要な一員である利用者を真ん中に据えて、生活の質を高めるためにみんなで知恵を出し合い、話し合うことを基本とする意思決定支援のプロセスになるはずです。実際、先に示したイギリス意思能力法の行動指針は、この論理を貫いた事例を示しています。

 だから、利用者が支援のプロセスのすべてに参画するケアのロジックが担保されていない意思決定支援は偽物です。「市場版選択のロジックに囲い込む」意思決定支援は、本質的に間違っています。

 参画と意見表面の権利については、子どもの権利条約が障害者権利条約に先んじて明確に位置づけてきました。

 大人の圧倒的な力の優位性の下で、子どもの参画と意見表明の権利をどのように具体化していくのかについては、ロジャー・ハート著『子どもの参画-コミュニティづくりと身近な環境ケアへの参画のための理論と実際』(萌文社、2000年)が詳しく論じています。

 この日本語版の「刊行に当たって」で、監修者の一員である木下勇さんは、次のように指摘しています(同書ⅳ頁)。

 「今日のグローバル化、競争主義という全世界を覆う経済の流れに対して、ハート氏はそうした流れがコミュニティを破壊し、ゆくゆくは民主主義、地球の環境をも脅かすことになるのではないかと強い懸念を抱いている。」

 「それに対して資源管理の権限を地方へ分散し、コミュニティベースの持続可能な開発モデルを示しながら、そこで果たす子どもの参画による積極的な役割に着目し、それによって未来の地平を切り拓いて行こうと提言している。」

 すなわち、市場原理をベースに、競争による人間の序列化(=線引き)と地域破壊が進行していく現実に抗して、環境ケアと地域づくりのプロセスへの子どもたちの参画(=生活の活動主体としての参画)を図ることが持続可能な未来を切り拓くということです。

 ロジャー・ハートは、「お前たちはまだ子ども、一人前のような口をきくな」という大人中心の社会のあり方を排します。子どもには「子どもなりの見る目がある」「大人の目が届かないことをさまざまに発見するすばらしさがある」という事実に立脚して、「小さな市民」である子どもの「参画と意見表明の権利」の具体化を提示しています。

 子どもの権利条約では、ケアのロジックの柱に成長と発達の社会的支援が据わり、地域社会づくりに係わる参画と意見表明の実現が描かれています。

 障害者や高齢者を「弱者」扱いするか、一般就労を柱に地域生活の自立に追い立てる「地域生活移行」はケアのロジックとは相反する仕組みです。

 このような社会のあり方を排し、障害のある人たちや高齢者の地域生活をゆたかにする社会的支援の保障を柱に据えて、各人にふさわしい地域づくりへの参画と意見表明を実現する構想を豊かにしていくことが必要です。このプロセスの中でこそ、意思決定支援の取り組みは真の輝きを放ちます。

鶏の丸焼き

 何かの記念日やお祝い事に、私は鶏の丸焼きをよく作ります。丸焼きには、モモやムネに切り分けて売っている肉の調理では味わえない旨みがあり、贅沢感が溢れます。それでいて、和牛200~300g程度の値段で、国産の丸鶏を調達できますから、お財布にも優しい。クリスマスの日などに市販されるものよりも格段に美味しい鶏の丸焼きができあがります。

 ネット上で調理法をみると千差万別です。インターネットにはさまざまな料理のレシピが氾濫していますが、私の経験では、最終的には自分の調理経験を積んで仕上げていくのがベストです。

 私の鶏の丸焼きレシピは、次のとおりです。ご参考までに。

  • ・腹の中を水洗いして、水分をキッチンペーパーでよくふき取る(内臓の名残をとるため)
  • ・多い目の塩を外側と腹の中に振ってローズマリーやタイム、セージなどのスパイスを腹の内にまんべんなく擦り込む(スパイスは乾燥もので十分です)
  • ・足を糸で縛る必要はない(足周りの皮がくっついて焼き目がうまく入らないから)
  • ・腹には詰め物をしない(詰め物に鶏の肉汁がしみ込むということは、肉の旨みが汁ごと外に出てしまっているということです。肉汁を外に出さない焼き方にこそ美味しさの秘訣があります)
  • ・ここまで下準備をしたらラップをかけずに一晩冷蔵庫の中で寝かせる(塩を全体になじませ、皮の水分を飛ばして皮をパリッと焼き上げるため)
  • ・翌日、フライパンにオリーブオイルを入れ、丸鶏の肉のついていない骨の側(画像の反対側)と、手羽側(丸鶏の側面)の皮に焼き目をつける(肉に火を入れる目的ではなく、オーブン調理で焼き目のつかない部分に焼き目を入れておく工程です)
  • ・次に、110℃で105分オーブンする(丸鶏の重量で、1.5kgなら90分、2.0kgなら120分、今回は1.75kgだったので105分です。この温度で焼くと、旨みが肉に留まって、モモとムネがともにジューシーに仕上がります。「200℃で60分」という高温レシピは、肉汁が外に出てしまい、ムネ肉辺りは固くなります)
  • ・ここでオーブンから一度取り出して、丸鶏全体にバターかオリーブオイルを塗る
  • ・最後に焼き目を入れる仕上げに、250℃で15分オーブンして完成
  • ・オーブンの調理過程で出た鶏の油と汁を活用して野菜の付け合わせか鶏肉につけるソースを作る。今回は、ニンニク、マッシュルーム、イタリアンパセリを使ったソースに仕上げました。

 もう最高、旨っ!