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宗澤忠雄の福祉の世界に夢うつつ

宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

疲労が溜まりやすい福祉の現場。
皆さんは過度な疲労やストレスを溜めていませんか?
そんな日常のストレスを和らげる、チョットほっとする話を毎週お届けします。

プロフィール宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

大阪府生まれ。現在、埼玉大学教育学部にて教鞭をとる。
さいたま市障害者施策推進協議会会長等を務め、埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

障害者虐待防止法施行から丸8年

 先週、東京都立北療育医療センターの虐待防止研修に講師として参加しました。「最重度」と言われる人たちが手厚い支援を受けているフィールドの光景を眼にすると、私は何はさておき「ここに希望がある」と感じます。

東京都立北療育医療センター

 このセンターの研修は、これまでの虐待防止の取り組みと職員アンケートの集計結果から現状の問題点をあらかじめ提示した上でのご依頼でした。研修依頼は本来こうあるべきです。研修内容で重点化すべきところを絞ることができるからです。

 北療育医療センターは、都立府中療育センターと共に、重度心身障害のある子どもたち・成年について、医療・福祉・教育の総合的で高度な支援を切り拓いてきた社会資源です。このセンターでは重症化した虐待の発生はなく、「不適切なケア」の解消に課題の焦点が据えられていました。

 施設従事者等による虐待は、重度心身障害のある人よりも発語と行動に活発さのある障害のある人の方が発生しやすいことが分かっています。それでも「不適切なケア」の克服が大切だと自覚しているところに、このセンターの取り組みの熱心さが表れています。

 重度心身障害のある人のほとんどは、日常的で密度の高い医療的ケアが必要不可欠ですから、生活の質を上げる面には様々な制約を伴います。すると、いつのまにか医療的管理を優先して生活の質の向上を等閑視することにつながりかねない。

 生活の質を上げるための取り組みは、意思決定支援を起点にした個別支援となります。医療ケアにつきまとう医療スタッフへの従属性から解き放たれて、エンパワメントしつつ生活の主人公になれなければならない。

 でも、重症心身障害ではここが難しい。自発的な活動そのものに弱さがあるためです。

 しかし、この難しさを一歩でも乗りこえて「不適切なケア」を解消していく課題の重要性と、そのためには職場のみんなが職種・職階を越えてフランクに意見を言い合えることの大切さを共有し深める研修になったのではないかと思っています。

 この10月で障害者虐待防止法の施行から丸8年が経ち、自治体、社会福祉法人、NPO法人、民間企業、施設・事業所それぞれの虐待防止の取り組みの実態は、天地の開きが出たままだと受け止めています。

 8年間もの歳月が流れると、虐待防止のために必要な新たな条件整備の課題はおのずと明らかになっていると考えています。その中でも切実なものをいくつか指摘すると次のようです。

 虐待対応に必要な分離保護のシェルターを、ショートステイ、グループホーム、ビジネスホテルの借り上げなどではなく、成年(障害者・高齢者その他)の虐待・DV事案で共通に24時間使える専用シェルターをぜひとも整備して欲しい。

 虐待のために保護分離した時点に求められる支援は、通常のショートステイとは異なります。子ども虐待では一時保護に必要な当たり前の支援内容と支援施設が制度化されているのに、成年の領域では実質的に放置されているのは根本的な問題です。

 「居室の確保」ができていないから分離保護に進めず、いつのまにか分離保護は「よほどのことがない限りしない」ことが原則となっている市町村が山のようにあるからです。虐待防止法が有名無実になっているのですから、この課題の重要性を直視するべきです。

 民間に頼ってきたDVのシェルターにしても、人手とお金の問題から多くが暗礁に乗り上げています。法制度に基づく虐待・DV対応のためのシェルターの公的整備が必要不可欠です。

 次に、この8年間、耳にタコができるほど聞き飽きた問題です。「行動障害」問題への対応です。直近のところでも、茨城県那珂市の障害者施設の60歳代の職員が行動障害のある人に暴力(https://digital.asahi.com/articles/ASN7776S5N76UJHB014.html)をふるって逮捕されています。

 この問題は障害者支援施設だけではなく、あらゆるサービスの事業所に共通しています。施設利用者のグループホームへの移行を進めるだけでは問題をより深刻化するだけだということも指摘しておきます。

 支援者の現状は、知的障害と発達障害に係る支援の専門性が根本的に不足しているのです。それでも、「強度行動障害支援者養成研修」を受けてきた施設職員が、突然こんどは、自分が研修講師になって「強度行動障害支援者養成研修」を実施している茶番が平気で横行しています。

 ここでは、「強度行動障害支援者養成研修」の内容を「発達障害」にかかわる専門性だと誤解している施設職員、とくに業界団体幹部が跋扈しています。つまり行動障害を発生させない支援の専門性を問う視点が欠如しています。

 安易な研修の横行は目に余ります。虐待防止研修もそうですが、国の研修を受けてきたら、地域に戻って研修講師をやっている。こんな研修がまともなわけはありません。せいぜい付け焼刃は安物のメッキ程度の内容です。研修を実施していますという胡散臭いアリバイ以外の何物でもありません。

 虐待防止に資する最も重要な課題は、「行動障害」の発生を防止するための、子ども期から成年期まで切れ目のない支援プログラムを、地域に構築することにあります。

 ここで疑問が湧くのです。施設従事者等による虐待の深刻さがさまざまに指摘されてきた8年間だったのですから、虐待防止に必要な条件改善について、支援現場の職員、有資格者団体や業界団体が提案をまとめてしかるべきです。

 ところが、自分が研修講師になりたがるだけで、客観条件の改善策について建設的な提案をする業界団体の幹部の意見を聞いたことがありません。このような姿勢にこそ、虐待防止の取り組みが進んでこなかった真実の根っこが反映されているのではないでしょうか。

カナヘビの日向ぼっこ

 この秋は足早に冬に近づいている印象を持ちます。お天気のいい日は、木の幹に陽の当たる時間帯になると、冬眠前のカナヘビが必ず日向ぼっこをしています。こんなにのんびりしていると、例年なら、人里にやってきて縄張りをつくるモズの餌になったりハヤニエにされてしまいます。モズの高鳴きがないのは、カナヘビ君の安心を生んでいるようです。