メニュー(閉じる)
閉じる

ここから本文です

宗澤忠雄の福祉の世界に夢うつつ

宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

疲労が溜まりやすい福祉の現場。
皆さんは過度な疲労やストレスを溜めていませんか?
そんな日常のストレスを和らげる、チョットほっとする話を毎週お届けします。

プロフィール宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

大阪府生まれ。現在、日本障害者虐待防止研究研修センター代表。
長年、埼玉大学教育学部で教鞭を勤めた。さいたま市社会福祉審議会会長や障害者施策推進協議会会長等を務めた経験を持つ。埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)、『障害者虐待-その理解と防止のために』『地域共生ホーム』(いずれも中央法規)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

平成という時代

 85歳の誕生日をお迎えになられた平成天皇は、在位中最後の記者会見に臨まれました。
「支え続けてくれた多くの国民に衷心より感謝する」と語られた陛下のお言葉に、一国民としての深い感銘を憶えます。

 平成天皇ほど、日本国憲法の下での象徴天皇のあるべき姿に心を砕かれた方はいないのではないでしょうか。国民主権、基本的人権の尊重、および平和主義という日本国憲法の三大原則に則った象徴天皇のお姿を追求されてきました。

 戦争を体験した天皇として、多大な犠牲を強いられた沖縄や海外の激戦地に、そして災害のあった地域に対しては必ず足を運ばれ、国民の犠牲を悼み、慰労と激励を重ねてこられました。

 最後の記者会見に表されたお言葉と表情の一つ一つに、象徴天皇にふさわしい品性と、思いを尽くし、心を砕いて職責を果たされてきたご苦労と重みがにじみ出ていたと感じます。一国民として、本当に頭が下がります。

 平成天皇は日本国憲法の光背(こうはい)とともに、在位中のお勤めを全うされようとしています。このような平成天皇の記者会見を前後して、平成の時代を象徴するような報道が二つほど私の眼に留まりました。

 一つは、カルロス・ゴーン容疑者と日産自動車をめぐる報道です。バブルの時代からグローバリゼーションに進展していった平成の時代に、巨額の報酬を独り占めする者と日々の暮らしさえ覚束ない民衆との格差が途方もなく拡大してきたことは紛れもない事実です。これこそ、平成における「カルロス・ゴーンなるもの」です。

 このような貧富の格差をあるべき社会の支配的秩序として容認し、積極的に助長・拡大するための法制度が着々と構築されてきた時代が平成ではなかったでしょうか。格差社会を不断に正当化し、再生産するための支障となる「最後の安全網」をズタズタに引き裂いていった時代です。

 生活保護制度を縮減し、年金支給開始年齢をより高齢側に引き伸ばし、残業を増やすための「働き方改革」を行い、3年雇用ルールを骨抜きにする派遣切りが横行し、保育所等の子育て支援策はギリギリまであと後回しにする。

 このように民衆のセーフティネットが引き裂かれた下で、子ども虐待対応件数は平成2年から29年の間で122倍もの増加を見せています。

 もう一つの平成を象徴する記事は、企業型保育所や有料老人ホームをめぐる不正や虐待事案です。創業者に高額報酬が支払われて入居一時金が消失している、どんどん介護スタッフや保育スタッフが辞めていって、最低限度のサービスを維持することさえできない支援現場が生まれています。

 自治体が虐待認定を行った某有料老人ホームの施設長らの記者会見をみました。彼らには、他者の健康と文化的な生活を実現する支援者としての、品性と責任の所在は共に欠如しているとしか言いようがありません。

 生命と生活の基本を維持するための「古典的生活水準」さえ担保できない「有料サービス」が出来しているのです。さらに、社会福祉法人、NPO法人、そして営利セクターの異業種から福祉事業に参入した施設・事業所においても、不適切な支援や虐待の事案が後を絶ちません。

 要するに、平成の中期に実行された社会福祉基礎構造改革によって、ビジネス・モデルの経営ベースによる福祉システムへの移行は、品のある「健康で文化的な最低限度の生活」を脅かしかねないサービスとシステムの劣化を招いた一面のあることは間違いありません。

 利用契約制の下で、福祉の「多元化」を進めることが「福祉サービスの質を上げる」という改革の理念は破綻し、もはや現状と大きく乖離しています。

 「健康で文化的な最低限度の生活」を支え、障害者権利条約の掲げる権利を実質化するための地域支援システムが、多様な立ち位置の国民や事業所から構成されるようになるためには、介護報酬や事業者報酬を毎年度頻繁にこねくり回すこととはまったく別の、現実を正視した抜本的な制度改善に着手する以外に手立てはありません。

 平成は、日本国憲法の真価がギリギリのところで問われ続けた時代だったと思います。

シジュウカラ

 さて、クリスマス限定の野鳥へのプレゼントであるヒマワリの種を庭に置いてやりました。すると、さっそくシジュウカラやってきて、せっせと食べています。「空の鳥を見るがよい」(マタイ6:26)。

 メリークリスマス! みなさん良いお年を。