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宗澤忠雄の福祉の世界に夢うつつ

宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

疲労が溜まりやすい福祉の現場。
皆さんは過度な疲労やストレスを溜めていませんか?
そんな日常のストレスを和らげる、チョットほっとする話を毎週お届けします。

プロフィール宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

大阪府生まれ。現在、日本障害者虐待防止研究研修センター代表。
長年、埼玉大学教育学部で教鞭を勤めた。さいたま市社会福祉審議会会長や障害者施策推進協議会会長等を務めた経験を持つ。埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)、『障害者虐待-その理解と防止のために』『地域共生ホーム』(いずれも中央法規)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

大田区虐待防止研修を終えて

 先週、今年度3回目の大田区障害者虐待防止研修を終えました。3回の内訳は、初級(障がい者支援事業所に従事して3年以内)、中級(同4年以上)および管理者(事業所の管理者)をそれぞれの受講者層としています。

大田区障害者虐待防止研修・管理者

 大田区では、福祉・介護関係職員の人材育成を図るため、計画的な研修事業に取り組んできました。その一環としての虐待防止研修は、経験年数と管理職かどうかによって受講者の階層を分け、それぞれの回に必ずグループワーク・セッションが組み込まれています。

 この主旨を受けて、階層による講義内容の違いを私もできるだけ意識して構成し、それぞれのグループワーク・セッションは受講者それぞれの現場での実体験をもとに進める形としました。

 グループワークはあっという間に時間が過ぎるような感じでミーティングが進み、各グループの発表と私のコメントを突き合わせながらとてもインテンシヴなセッションとなりました。

 そして、各階層の職員・管理者が虐待防止研修を修了すると、次の画像にあるようなステッカーを事業所で掲示することができるようになっています。

虐待防止研修修了のステッカー

 この10月で、障害者虐待防止法の施行から5年目に入ることになります。虐待防止の取り組みは、差別解消の取り組みとともに、事業所や自治体ごとの格差がますます拡大しているのではないかと懸念しています。

 大田区のように継続的な虐待防止研修に取り組んでいる自治体とそうでないところとの違いは、一体どこにあるのでしょう。あくまでも私個人の体験的な理解に過ぎませんが、少し整理してみましょう。

 まず、虐待防止研修に力を入れている自治体は、地域のネットワークを活かしながら虐待防止の取り組みを進めているところに共通点があります。

 次に、虐待防止のコア・メンバーや研修の企画・準備にあたる自治体職員が、虐待に関する間違いのない基礎理解があり、かつ、虐待についての地域の実情に通じているか地域の実態を把握しようと常に努力している点です。

 そして、研修については、内容と進め方を工夫改善することに余念がない点です。大田区からご依頼を受けた虐待防止研修は今回で3年目ですが、関係者のより良い研修に向けた努力の積み重ねを感じることができます。

 以上の3つをまとめて、「この自治体は虐待防止に熱心に取り組んでいる」ということになるのだと思います。そして、自治体職員のこのような取り組みの姿勢と内実は、地域の事業所職員による虐待防止の熱心さに必ず帰結していくのです。つまり、虐待防止の取り組みの要は、基礎自治体である市区町村であるということができます。

 これと正反対の自治体は、虐待防止の取り組み自体が進められることなく、虐待防止研修をするにも自治体職員が虐待のことをそもそも知らないのですから、適当な「有識者」をつかまえて実施した「虐待防止研修」をもって、取り組んでいることのアリバイとする程度になるところです。

 これでも、法律には違反していることにはならないのは不思議です。しかし、もっとひどいのは、何も取り組まないという徹底した不作為を重ねる自治体でしょう。いうなら、東京都歴代の中央卸売市場長のような木っ端役人だけが巣くうお役所です。

 この「木っ端役人」という公務員の存在様式は、先進国の中ではおそらく日本だけの特産品でしょう。今大きな騒動になっている豊洲市場の一件から、「過労死」「いじめ」「粗大ごみ(退職者男性)」と並ぶ国際語に「市場長」とか「木っ端役人」が登場するのではないでしょうか(笑)。

 私見によれば、木っ端役人の「無責任事なかれ主義」にもとづく不作為の責任は、地方議会議員とそれを選んだ住民にあるでしょう。

 たとえば、この20年余りの間に深刻化の一途をたどる虐待問題の改善に資する施策立案のために、地方議会議員の政務活動費が有効に活用された例がどこかにあるのでしょうか? 「飲むのが好きだから」とか「カラ出張でした」等の見苦しい言い訳だけが続いています。

 北欧の福祉サービスが進んでいるのは、政治と行政の実態が日本と北欧とでまったく異なるからだと言ってもいいくらいです。北欧の地方議会議員は地域の実情をつぶさに把握して事態を改善するための施策立案にいつも余念がなく、自治体職員は法と施策に従った執行に余念なく、不作為などということはあり得ないのです。

 障害者虐待防止法が施行されて丸4年が経過したにもかかわらず、地域ごとの虐待発生に関する実情を調べ、虐待防止に資する施策立案に余念のない地方の議員などまずもっていないのではありませんか。せいぜいのところで、議会で質問する直前に、地域の関係者をつかまえて「にわか勉強」をする程度でしょうか。

 これでは、自治体職員が不作為をしていても何の問題にもならないのは当然です。選挙を通じた民主主義が実質的に機能していないところでは、税金にパラサイトする自治体職員が増殖するのはあたりまえのことなのです。これが、日本型地方分権の実態でしょう。

 だからこそ、虐待防止に取り組む関係者は、大田区をはじめとする虐待防止に資する全国の取り組みの経験を交流し、それぞれの地域で活かす努力がますます重要です。