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梶川義人の虐待相談の現場から

梶川 義人 (かじかわ よしと)

様々な要素が絡み合って発生する福祉現場での「虐待」。
長年の経験から得られた梶川さんの現場の言葉をお届けします。

プロフィール梶川 義人 (かじかわ よしと)

日本虐待防止研究・研修センター代表、桜美林大学・淑徳大学短期大学部兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。

一次予防という名の攻撃

 私は、介護保険制について、導入された当時から、ある疑問を抱いてきました。それは、「保険」という仕組みの根本的な性質からすると、制度の持続は容易ではなかろう、というものです。

 保険が最も安定して持続可能な状態は、「なるべく多くの加入者と、なるべく少ない保険事故」ですが、介護保険は、このいずれにも疑問符がついたからです。

 「なるべく多くの加入者」については、保険者は市町村ですし、「なるべく少ない保険事故」については、要支援者や自立度の高い二次予防の対象者にまで拡がっています。

 しかも、近い将来、団塊世代が高齢者となり、保険事後数、つまりは要介護者数もグンと増えそうなのですから、いくら半分は公費だといっても、安定した運営は望めないというわけです。

 だからこそ、特養入所をより重度な者に限定したり、予防給付(訪問介護・通所介護)を地域支援事業に移行し、市町村に託したりするのかもしれません。先日成立した「医療・介護総合推進法」をみると、他にもいろいろ盛り込まれています。

 しかし、私には、さらに予防を重視した政策転換が必要だと思えてなりません。

 認知症についてみても、「認知症施策推進5か年計画(オレンジプラン)」(平成25年度から29年度まで)には、「早期診断・早期対応」として、二次予防対策が盛り込まれていますが、一次予防や三次予防を狙う対策は見当たりません。

 もちろん、認知症発症の仕組みは、充分に解明されていないので、止むを得ないところはあります。

 しかし、NHKスペシャル「認知症をくい止めろ~ここまで来た!世界の最前線~」では、英国が、ここ20年で、認知症になる確率を下げたことが紹介されています。

 認知症は生活習慣病だと捉え、医師が、生活習慣病の予防に力を注ぎやすい医療報酬にし、食物ごとに基準を設けて、含有塩分量を下げるようにした成果だそうです。

 英国は、2013年、G8の議長国として「認知症」サミットを開き、認知症に対する国際的な取組みの牽引役をアピールしたいでしょうから、話は半分として受け止めた方が良いのかもしれませんが。

 それでもなお、国をあげて一次予防に取り組む姿勢は、評価できると思います。

 私も、「おお、うす味もいけるなあぁ、って結局おかわり」とか、「美味しいものは脂肪と糖でできている…」など、自嘲気味にではありますが、コマーシャルを見て笑っている場合ではないのでしょう。

 一次予防は、「発生する前に防ぐ」ため、効果は見えにくいのですが、経済面を考えただけでも、効果は絶大です。

 私たちにとって、介護問題が「敵」だとすれば、私たちは昨今、防戦一方の感があります。しかし、「攻撃こそ最大の防御なり」の言葉どおり、一次予防という名の攻撃に転じてこそ、はじめて勝機を見いだせるのかもしれません。

攻撃は最大の防御なり。
でも、武士は食わねど高楊枝は少々きつい。