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梶川義人の虐待相談の現場から

梶川 義人 (かじかわ よしと)

様々な要素が絡み合って発生する福祉現場での「虐待」。
長年の経験から得られた梶川さんの現場の言葉をお届けします。

プロフィール梶川 義人 (かじかわ よしと)

日本虐待防止研究・研修センター代表、桜美林大学・淑徳大学短期大学部兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。

養護者による高齢者虐待のタイポロジー(その3)

 前回に続き、養護者による高齢者虐待事例のタイポロジー(類型論)を述べます。第三は、全虐待事例の17%前後を占める「娘→母・父」です。

依存 娘は息子と似ています。親の養育態度により主体性が未発達で自立できず、成人後も心理的、経済的に老親に依存する点、心身の障害がこれを助長する点、結果的に、就職や結婚による他出ができない場合と、他出しても失敗して出戻る場合に分かれる点も同じだからです。

 しかし、母は干渉(支配)的、父は干渉(溺愛)的なことが多いように思います。自分のした苦労は同性の子に美化して伝えたいのか、親は同性の子どもには厳しくなるのかもしれません。

養介護破綻と不正 年齢による母娘の力の逆転は、娘に、母の支配への仕返ししたい憎悪と依存したい愛情、相反する感情(アンビバレンス)を産みやすくなります。母への暴言・暴力やネグレクトを棚にあげ、介護サービスには細かいクレームをつける例は少なくありませんが、このアンビバレンスを解消しようとしているのだと思います。

 一方、父に対しては、気持ちとは裏腹に養介護の役割を果たせず、結果的にネグレクトになったり、配偶者や恋人の意向に影響され易かったりする特徴があるように思います。いずれも主体性の弱さゆえだと言えますが、支援については、息子と同じなので、「養護者による高齢者虐待のタイポロジー(その1)」をご参照ください。

 以下、パーセンテージ一桁台の続柄を見ていきます。割合としては僅かですが、全ての事例を解釈することで、養護者による高齢者虐待の「家族病理的な実態」が見えてくると考えるからです。

 なお、虐待者は被虐待者に依存し、養介護は破綻しやすく、経済的搾取と性的搾取という不正の危険性が、オプションのようにつきまとう点は同じなので、説明を省きます。また、支援性と阻害性は、多く家族・親族関係により左右されやすく、支援は、娘同様に、息子に準じます。

 さて、第四は、「息子の妻→義母・義父」です。

依存 夫である(老親の)息子との関係で、「息子に依存する」と「息子を支配する」に分かれます。前者は、息子に同調した虐待となり、後者は、過去にあった嫁と姑舅の葛藤の恨みから、力の逆転を期にリベンジの挙に出たりします。また、少数派ですが、夫の所業を告発する妻もいます。

 第五は、「妻→夫」です。妻が「虐待を受け容れる夫に依存している」とみられるのは、「夫→妻」と同じですあり、DV既往なしなら、依存と養介護破綻ないし不正と子ども非同調が特徴だと思います。養介護破綻の様相は、男性よりはネグレクトに傾きやすそうですが、暴言・暴力にでることもあり、その場合、かつて夫による干渉(支配)型か葛藤型の夫婦関係にあったことが多いように思います。

 いずれにせよ、子どもが夫婦のどちらに味方するかで事態は変わりますが、今後件数が増えていくタイプだと思います。男女平等参画社会の進展に伴い、家族病理においても従来の男役割を女性が担うようなるからです。

 最後に、付言したいのは、老親やその子が夭逝したとき、子の同胞同士、祖父母と孫、子の同胞と甥姪などが、擬似的な親子関係を形成する場合がある点です。同居なら、息子や娘のような虐待スタイルに、別居なら、経済的搾取やネグレクトになりやすい印象があります。

娘「将来、虐待してやるわヨ!」
母「高齢者虐待防止法があるのヨ!!」