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梶川義人の虐待相談の現場から

梶川 義人 (かじかわ よしと)

様々な要素が絡み合って発生する福祉現場での「虐待」。
長年の経験から得られた梶川さんの現場の言葉をお届けします。

プロフィール梶川 義人 (かじかわ よしと)

日本虐待防止研究・研修センター代表、桜美林大学・淑徳大学短期大学部兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。

連ドラ視聴でイメージ・トレーニング

 私は、ゴールデンウィーク中、連続ドラマの初回から最終回までを「一挙に一気見」できる番組を沢山視聴して過ごしましたが、ドラマのシナリオ構成から、虐待の事例対応に必要な何かを学べないかと考えました。

 これまでも、事例を「物語」として把握することや(「物語を思い浮かべるご利益」)、対応計画を、映画やドラマのシナリオのように立案することに触れてきましたが(「心のコップと支援のシナリオ」「特別な配慮と職人芸」「人形劇を侮るなかれ」)、あらためて調べてみると、「勉強になる」感はより強まりました。

 世界的には、米国のハリウッド式「3幕構成」が有名で、多くの作品はこの構成になっているようです。第1幕の「状況設定」で、ドラマの前提や登場人物の紹介や人間関係が提示され、第2幕の「葛藤」では、主人公が目的を果たすうえで乗り越えねばならない障害に直面する様が描写され、第3幕の「解決」において、主人公は「どうなったか」やストーリーの顛末が描かれます。

 そして、ポピュラーな配分は、第1幕と第3幕は4分の1、第2幕は2分1程度らしいのですが、適宜「プロットポイント」という次の展開へのきっかけとなる出来事が散りばめられます。

 一方、わが国では、世阿弥の「序破急」が有名であり、「三幕構成」と同じような流れになっています。分かりやすいので「起承転結」に照らしてみると、「起承」にあたる「序」は、バラエティ豊かな内容が淡々と展開し、「転」にあたる「破」で、序の様相は一変します。そして、「結」にあたる「急」において、一変した様相は最高潮に達し、その後、落としどころに向かって一直線に進む展開になります。

 虐待の発見を「第2幕」や「破」にあたるとすると、まるで発生から解決までの流れをみるようです。

 ドラマは、人生のいろいろな場面を「スライス」してつなぎ合わせたダイジェスト版だ、という考え方として「スライス・オブ・ライフ」という言葉があります。 たとえば、「母親と息子の関係のあり方」という視点からあれこれ場面をスライスし、「母親の視点」や「息子の視点」からつなぎ合わせる、などです。

 名作や人気のドラマは、視点やスライスした場面のつなぎ方が優れているというわけですが、私たちも、同じようなことをしています。

 事前評価(アセスメント)では、「被虐待者と虐待者の関係」をよく表している場面をつなぎあわせ、虐待発生にいたるまでのストーリーを見出しています。つまり、「第1幕の状況設定」や「序」にまで及ぶ情報を圧縮していますし、計画立案は、「第3幕の解決」や「急」への布石となるプロットポイントの場面を入れるようなものです。

 もっとも、誰かに肩入れすることなく中立的な立場からみるのが基本ですから、当事者それぞれの視点でストーリーを描いてみるため、いわば「群像劇」的なダイジェスト版を描いている、と言えるのかもしれません。

 いずれにせよ、こうして考えると、名作や人気ドラマはいずれも、事例対応のイメージ・トレーニングの良き教材になるのではないでしょうか。

「今日もイメージ・トレーニングに励もう!」
「たまには、実践したら…」