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梶川義人の虐待相談の現場から

梶川 義人 (かじかわ よしと)

様々な要素が絡み合って発生する福祉現場での「虐待」。
長年の経験から得られた梶川さんの現場の言葉をお届けします。

プロフィール梶川 義人 (かじかわ よしと)

日本虐待防止研究・研修センター代表、桜美林大学・淑徳大学短期大学部兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。

保育の現場で一体何が起きている?


相次ぐ不適切保育報道

 私は、「虐待」などをキーワードに、ニュース配信サービスを利用して、毎日虐待関連のニュースを読んでいます。しかし最近、保育士による不適切保育の報道が増えてきたように思え気になっています。

 こども家庭庁等による実態調査によると、令和4年4月から12月の間に、全国の保育所や認可外保育施設や認定こども園などの保育施設で「不適切な保育」が1,316件、うち「虐待」が122件確認されたといいますが、氷山の一角に過ぎないとみられています。

 この件について私には思うことが2つあります。1つは、保育士1人あたりの負担が大き過ぎるのではないかという点です。保育士不足のなか「配置基準」で保育士の数は決められていますから、人的余裕はなく常に時間に追われているのではないでしょうか。

 また、保育士不足が深刻化すると、当然「質より量」が優先され易くなります。背に腹は代えられないからです。なかには「問題があるとわかっている人でも雇わざるを得ない場合がある」とも聞きますから、ことはかなり深刻です。

 2つは、子どもたちを支配して服従させると、仕事を早く終わらせることができる点です。これは、いつも時間に追われる保育の現場では大きなメリットです。しかも、一見「統率がとれている」と見栄えが良くさえあります。

三者間コミュニケーションの活性化

 とくに心配なのは、この2つが負のスパイラルを生じさせ、子どもたちに指示・命令を与えて仕事を早く終わらせることが、何より価値を持ってしまう点です。それに、「子どもにもルールを教える必要がある」などと言われれば、抗弁しにくくもあります。

 本来なら、子どもたちにルールを教えるには、時間をかけて説明をして納得してもらうところを、時間に余裕のないことを免罪符に端折るわけです。そのため、指示・命令はますます勢いづき、エスカレートするのは必至です。

 そこで、徹底的にICT化を進めて事務負担などを減らし、子どもとの時間を増やす必要があると考えます。最近では、ICTについての知識やスキルのない人でも、業務用のアプリケーションを作れるサービスがあるので、是非、活用したいものです。

 実際、こうしたサービスを使って、保護者とのやりとりはむろん、保育士同士のやりとりもみなアプリで行うようにしたら、「皆に時間の余裕ができた」という事例は少なくありません。ですから、使わないのはむしろ「罪」だとさえ思うのです。

 また、子どもはむろん保護者も保育士も、皆がその主体性を発揮できるようにする工夫する必要があると思います。狙いは、三者間のコミュニケーションを活性化して、支配と服従の構図をできにくくすることです。

 写真や動画のほうが子ども受けするでしょうから、インスタグラムやTikTokなどを活用し、まずはコミュニケーションの量を増やすよう努めたいものです。そうすれば、「隠蔽性」の抑止となり、虐待等の好発の構図を崩すうえで役立つと思います。

「先生、だいじょうぶ?」
「ローンあるから頑張る!」