メニュー(閉じる)
閉じる

ここから本文です

梶川義人の虐待相談の現場から

梶川 義人 (かじかわ よしと)

様々な要素が絡み合って発生する福祉現場での「虐待」。
長年の経験から得られた梶川さんの現場の言葉をお届けします。

プロフィール梶川 義人 (かじかわ よしと)

日本虐待防止研究・研修センター代表、桜美林大学・淑徳大学短期大学部兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。

実は怖い「共感力」


家族に起こった悲劇

 私は最近のブログで、「虐待の発生は、進化論でいう自然淘汰(自然選択)によって滅んでしまうような不健康な状態であり、実際、虐待事例はいずれも破滅的だ」と書きましたが、残念なことに、これを体現するような事件が続けて発生しています。

 1つは、母親を自宅に監禁したなどの疑いで4きょうだいが逮捕され、長女の6歳になる長男が自宅近くで遺体となって発見された事件であり、2つは、有名歌舞伎俳優が母親への自殺ほう助容疑で逮捕された事件です。

 前者は虐待の世代間連鎖の様相を呈し、後者は一家心中の様相を呈していますから、家族の歴史を紐解かないと、真相は掴めないように思います。しかし、この2つの家族に起こった悲劇は、私たちにとって良い教訓なのかもしれません。

鍵を握るのは「共感力」

 事件について、マスコミ報道の情報をもとに推理してみると、私には「共感力」が鍵になっているように思えます。共感力は、他者の喜怒哀楽を感じ取れる力であり、他者の立場に立てるか否かをも左右するものですが、かつて興味深い実験が行われました。

 実験は、2~3歳児にビデオを見せて質問をするというものです。ビデオは、実験者のいる個室に、2~3歳の女の子が入室するシーンで始まります。その部屋のテーブルの傍には、赤い箱と青い箱とぬいぐるみが置いてあり、実験はこれらを使って行われます。

 女の子は、実験者に促され、赤い箱にぬいぐるみを入れてフタを閉めて退室しますが、続いて男の子が入ってきて、こちらも実験者に促され、今度は、ぬいぐるみを青い箱に入れ替えてフタをして退室していきます。

 その後、再び女の子が入室し、実験者から「ぬいぐるみを取り出して下さい」と言われてビデオは終わります。そこで、実験者がビデオを見ていた被験者に「さて、女の子は赤と青、どちらの箱を開けると思いますか?」と尋ねます。

低くても高くても怖い共感力

 大人ならすぐに正解できますが、2~3歳児だと「赤」と答えられる割合は2割位にとどまります。というのも、8割位の子どもはまだ共感力が低くて女の子の立場には立てないので、自分の立場だけから考えて「青」と答えるからです。

 この実験は、共感力の発達を示すものですが、1つ目の事件では、4きょうだいは幼い頃から母親に虐待されて育ったそうですから、共感力の低さが代々連鎖してエスカレートしてしまった可能性があると思います。

 もっとも、共感力は高過ぎても、困った事態を引き起こしかねません。無自覚のうちに他者に過度に共感してしまうと、それが原因で自分の心身が不安定化し易くなるからです。2つ目の事件でも、共感力の高さが仇となった可能性はあると思います。

 実際、自殺をリードする人と、リードされる人が心中を企図する事例も少なくありません。また、共感力の高い人は、相手の「心の痛み」が手に取るように分かるため、攻撃に転じたらとても怖い存在になり得ます。事件と「パワハラ」との関係も取り沙汰されていますから、やはり共感力の高さが仇になってしまったのかもしれません。

「く・や・し・い!」
「共感も嫉妬の前では無力…」