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ルポ・いのちの糧となる「食事」

下平貴子(出版プロデューサー・ライター)

食べること、好きですか? 食いしん坊な私は、食べることが辛く、苦しい場合があるなんて考えたことがありませんでした。けれどそれは自分や身近な人が病気になったり、老い衰えたりしたとき、誰にも、ふいに起こり得ることでした。そこで「介護食」と「終末期の食事」にまつわる取り組みをルポすることにしました。

プロフィール下平貴子(出版プロデューサー・ライター)

出版社勤務を経て、1994年より公衆衛生並びに健康・美容分野の書籍、雑誌の企画編集を行うチームSAMOA主宰。構成した近著は「疲れない身体の作り方」(小笠原清基著)、「精神科医が教える『うつ』を自分で治す本」(宮島賢也著)、ほか。書籍外では、企業広報誌、ウェブサイト等に健康情報連載。

第41回 在宅介護の食の悩み引き出し、サポート
ゆにしあ主催イベントに参加して

はじめに

 山形市を主たる活動拠点とする一般社団法人ゆにしあは、老人ホームの管理栄養士だった池田百合子さんが中心となって設立した団体で、その事業目的は「食べることを諦めてしまうシニアの方や、食の介護に悩み自分らしい生活を諦めてしまうご家族をなくすこと」です。
 すこし前のことになりますが、ゆにしあがシニア向けのレシピなどを紹介する「食の親孝行サイト」というウェブ運営を始める記念に、ゆにしあを支援している日本財団(東京都港区)にて『食の親孝行講座in東京』と題した公開講座を開きました(2015年2月14日土曜日開催)。
 今回はその公開講座に参加した雑感と、「食の親孝行サイト」のご紹介をします。

『シニアなりきり体験』後に「食べにくさ」について解説する池田百合子さん

食べにくい体験で再確認
食べるサポート普及の大切さ

 ゆにしあは先述の通り、老人ホームに管理栄養士として勤めていた池田さんと宗片恵理さんが独立し、地域の在宅介護のサポートをするために立ち上げた団体です。きっかけは池田さん達が老人ホームや特養などで「デイサービス利用者と家族の多くが、食べることで悩みを抱えていることに気づき、サポートの必要性を感じた」こと。
 開催された『食の親孝行講座in東京』の冒頭、ゆにしあの成り立ちと事業について説明に立った池田さんは次のように話しました。

「施設介護に携わる中で、在宅介護で食べることのサポートを必要としている家庭が多いことは分かったけれど、食事で困っていると自分から外部にサポートを求める人は少ないことにも気づきました。食べることはあまりにも日常的なことなので、専門家からケアを受けるという発想がない方が多いのです。
 どうして食べられないのか、どうしたら食べられるのか分からないまま、相談先も思いつかず、家庭でできる工夫をして食の介護を続けている。1食当たり3時間もかけて食事を用意し、食べさせて、介護者もへとへとになっている。誤嚥が起こり、介護者が自分を責めている。そんなケースを数多く知って、サポートする場をつくり、積極的にはたらきかけていくことを決めました」。

 老人ホームを退職した池田さん達はまず2011年1月に任意団体「栄養支援室uni-sia(ゆにしあ)」を設立。現在に至るまで、山形県やその他の助成・支援を受けながら、少しずつ事業の幅を広げています。主たる活動は、

  • ・摂食嚥下障害の予防や誤嚥の予防など、基本的な「シニアの食」関連知識を普及する
  • ・誰もが食べやすいレシピを提供する介護者向け料理教室を開く(一般並びに施設職員向け)
  • ・食べにくい人に対する、食べさせ方(食事介助)を伝える
  • ・身近な食事を通じたリハビリテーション(患者自身が調理して、食べる)を提案し、栄養状態をチェックする
  • ・施設職員向けに「食べることの悩み」を引き出すケア法を指導する

などで、詳しい歩みと事業内容はゆにしあのウェブサイトに記載されていますので割愛します。
 イベントに話を戻すと、最も印象的だったことは「シニアの食べにくさを身をもって知る」を目的にした『シニアなりきり体験』でした。

  • (1)参加者はペアになり、食べる役の人は目を閉じ、もう1方から何かを食べさせてもらう
  • (2)口を開けたまま水を飲んでみる
  • (3)手・唇・舌・頬を使わず、歯だけで「スルメイカ」や、「さまざまな硬さ(柔らかさ)のせんべいを、さまざまな大きさに砕いたもの」を食べてみる

 ちょっとやってみただけで、食べにくさが分かります。(1)では食品の大きさや長さ、味が分からないものを口に入れられる不安、食べ物の匂いの役割を実感しました。匂いを感じると唾液が出て、食べる準備ができます。物によっては、食べたくないと感じます。
 (2)はほとんど不可能。口を閉じて飲むとき以上に喉の力が必要で、弱いとむせ、誤嚥の危険がありそうです。(3)についてもほとんど不可能。無意識に食塊をまとめようと舌や頬を使ってしまうので、体験になりません。しかし、舌や頬をうまく使えなければ、どれほど食べにくいかは察することができました。
 そして、「食べにくさ」がすこし分かってみて、専門的な知識と技術をもった人が食べることで困っている人や家族を支える大切さをより強く感じました。
「お水をほとんどこぼしてしまった」「細かいせんべいは食べにくい! 初めてせんべいを食べるのが怖いと思った」などと口々に食べにくさを語る参加者に対して、池田さんは『65歳からの食べ力(たべりょく)チェック』を行なって、家庭でも食べ力に合わせた調理をする必要があり、それは要介護者だけ特別な料理ではなくて、家族も一緒に食べられる料理をすることができると『親孝行レシピ』と「食の親孝行サイト」の紹介につなげました。

「よく硬いものが食べられなくなった(噛む力が弱くなった)シニアの方に『食べやすいように細かく切る』をしてしまいがちですが、かえって食べにくくなる場合もあります。
 食材によって下ごしらえや切り方の工夫で食べやすくできるので、親孝行レシピにはそうした具体的な方法を盛り込んでいます。ウェブサイトでは『食べ力』を判定し、レシピを『困りごとから選ぶ』こともできます」(池田百合子さん)。

 サイトには個別の悩みを受け付ける相談窓口(電話・メール相談、ワンコイン相談カフェ、無料相談所)も紹介されています。
 例えば、とろみのつけ方について、いつ誰がつくっても同じ状態をつくるコツとして「とろみ剤の量を決め、同じ食器、スプーンでとろみ剤と合わせる習慣にする」など、簡単なコツは聞けばなるほどと思いますが、知らなければ悩みになります。相談に対しては要介護者の状態に合わせたトレーニングプランを提案するほか、多く寄せられる悩みへの回答集やオリジナルレシピ、マニュアルなども配布して、対応しているとのこと。

「介護食とはいえ、家族と共に食卓を囲み、食べる楽しみが感じられる『料理として成立する』レシピを提案することを心がけています。家庭で、摂食嚥下障害や誤嚥、低栄養の予防になる安全な食事が続けられるように、今後とも活動していきます」(池田百合子さん)。

 ゆにしあと同様のサポートを必要とする人は山形だけでなく、全国的に数多いて、今後はますます増えていくと考えられます。在宅療養患者の高齢者を調べたデータで、

  • 低栄養37.4%
  • 低栄養のおそれあり35.2% (参考:低栄養+低栄養のおそれあり 計72.7%)
  • 栄養状態良好27.3%
(国立長寿医療研究センター調べ、平成24年度老人保健健康増進等事業 在宅療養患者の摂取状況・栄養状態の把握に関する調査研究報告書 調査対象者数990名)

という数字が出ています。
 食べることに困ったら専門家に相談する。相談できることだという啓発が進むと共に、全国のさまざまな地域で、今まだ同様のサポート環境がない場所では、サポートの仕組みや組織が生まれることが望まれます。さらに、摂食嚥下障害や低栄養が起こっている場合も対象とする、医療や歯科医療と連携した「地域栄養ケア」の進展が期待されると、改めて思いました。
 ゆにしあほか、全国の先駆的な取り組みの中に、既にノウハウがあると思います。先駆例のノウハウに地域特性を加味した仕組みが、携わる人の情熱で広がるのを待たず、各地の「地域包括ケアの仕組みづくり」など制度の中で広がり、実る必要があります。

 次回は、農文協から発売された書籍「ご飯が食べられなくなったらどうしますか?」(花戸貴司・文、國森康弘・写真)を紹介します。