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“単なるコミュニケーション”が“プロの仕事”に変わる 秘訣 ワザ



 「人々が共に暮らしていくために支え合うという営みは、すべて対人援助だと考えることができる。だとすれば、市役所の窓口で住民に対応することも、サービス業の人が接客することも、対人援助だと思う。なのに、人にかかわる仕事をする人が共通して身につけておくべき『対人援助の作法』のようなものがないのはどうしてだろう──。」

 「はじめに」にも記されていますが、本書は、米子市福祉政策課長の大橋賢二さんの投げかけに端を発して動き出しました。鳥取県発、誰もが地域で安心して暮らしていける仕組みを研究することを目的として発足した「地域で支える仕組み研究会」での一コマです。
 研究会の有志は即座にワーキンググループを立ち上げ、仕事後の夜に集まり議論を重ね、「援助者に必要な作法は何か?」「どのようなコミュニケーションスキルを高めると、よりよい援助に結び付くか?」等々、検討を深めて具体化に向けて走り出します。

  同研究会のメンバーであり、弊社から『対人援助職に効く ストレスマネジメント』『対人援助職に効く 認知行動療法ワークショップ』の2書を刊行する、鳥取大学大学院医学系研究科臨床心理学専攻准教授・竹田伸也先生からご連絡をいただいたのはその頃です。

 実は、「対人援助職に効く」シリーズの第3弾として、竹田先生と検討していたテーマが【コミュニケーション】でした。
 “コミュニケーション”というと、「もう知っている」「何を今さら……」「できて当たり前」という反応をされる印象があります。しかし、私自身のこれまでの経験を振り返ってみても、“あのとき、こうしておけば良かった”“何であんな言い方をしてしまったんだろう”などと、他者とのやりとりで失敗したと感じたり、後から悔むことが度々あります(皆さんも、そうではないでしょうか?)。

 対人援助の仕事に就いている方々は、人一倍、誰かの力になりたいという思いを強くもっています。そんな熱い思いに溢れた方々が、クライアントとのコミュニケーションで苦労するのは、とてももったいないことだと感じていました。

 竹田先生のフィールドである、人の考え方(認知)と行動にアプローチする「認知行動療法」をコミュニケーションに活用することで、対人援助職の方々をはじめ、人とかかわる仕事をするすべての方が、プロとしてさらにステップアップできるのでは、と考えていたのです。奇しくも、大橋さんの冒頭の発言に通じるものでした。私が、研究会の皆さんと一緒に走り出すことになった瞬間といえます。

 本書は、8つの章で構成されており、対人援助で押さえておきたい作法を、具体的な例も交えて紹介しています。
 “作法”というと、難しく感じてしまう人もいるかもしれませんが、「身につけておくと対人援助をよりよいものにするスキル(技術)」と考えてください。

  • 対人援助の作法を身につける前に(10)
  • 言葉を用いず信頼関係を築く作法(20)
  • 相手の気持ちに寄り添う作法(18)
  • 相手に質問するときの作法(24)
  • 相手に伝えるときの作法(20)
  • 相手のもっている力を引き出す作法(22)
  • 苦手を感じず相手とかかわる作法(24)
  • 対応が困難に思える人への作法(22)   ※カッコ内は当該章のページ数です

 書籍の内容をここに丸ごと示すことは難しいので、「4.相手に質問するときの作法」を例にとって、見出しだけを列記して紹介したいと思います。

1 質問にはさまざまな力がある

2 質問でつまづく4つの落とし穴
  1 相手の気持ちを深読みする
  2 こちらの個人的興味で聞く
  3 わかったつもりになる
  4 相手にラベルを貼る

3 基本は「開」と「閉」の2つだけ
  1 閉じた質問
  2 開いた質問

4 質問の力を上げるちょっとしたコツ
  1 尋ねたいことを事前にリストにする
  2 質問の意図をあらかじめ伝える
  3 無理に答えなくてよいと保証する
  4 心理的な構えを届ける
  5 「どうして」と「なぜ」は後回し
  6 知りたいことを具体的に尋ねる
  7 説得したくなったら気づきを促す質問を
  8 10点満点で尋ねる


 いかがでしょうか? ご自身の日常や、専門職としての実践を振り返ってみてください。
 見出しの内容を押さえるだけでも、クライアントやかかわる人とのやりとりが劇的に好転することが期待できるのではないかと思います。

 ちなみに、この章はたったの24ページ。最も多いボリュームの章がこの分量だと、気持ちも楽になりませんか?
 本書『対人援助の作法―誰かの力になりたいあなたに必要なコミュニケーションスキル―』、竹田先生が紡ぐ心地よい言葉で、対人援助職としてスキルアップをはかっていただければと思います。是非、秋の夜の読書のお供に。

(第1編集部 米澤 昇)