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【意見対立によるチーム不和】介護業務への思いや進め方の違いによる対立をおさめ、チームをひとつにするにはどうすれば良いでしょう?

Q 【意見対立によるチーム不和】介護業務への思いや進め方の違いによる対立をおさめ、チームをひとつにするにはどうすれば良いでしょう?

もっと詳しい状況

介護福祉士の山田一郎さん(33歳)はN特別養護老人ホームに入職して5年目に介護主任に昇任しました。各ユニットを管理する役職です。山田さんが介護主任となった1か月後に中途採用となった佐々木浩さん(40歳、介護福祉士11年目)は、前職場で介護主任の経験があり、山田さんにとっては良い相談役となりました。

しかし半年ほど経過すると、二人の考え方の違いが明確となります。山田さんは利用者中心に考え、時間をかけて丁寧にケアするようスタッフに促しました。ケアの時間をつくるため、清掃や食器片づけなどの周辺業務を山田さんが積極的に手伝いました。一方佐々木さんは職員優位で、何事も効率よく仕事を済ませる働き方を信条としていました。「時間通りに勤務が終わらない」「職員が疲弊する」というのが佐々木さんの口癖となっていきました。
山田さんが介護主任になって半年が経つ頃に、各ユニットのリーダーから不満が出はじめました。定時に帰れないことへの不満が多く、山田さんは職員たちと何度も話し合いをしました。そんな折、石川緑さん(36歳、介護福祉士8年目)が中途採用で入職しました。石川さんは中立な立場でしたが、次第に佐々木さんの意見に賛同するようになり、職場の雰囲気が変わっていくことを、山田さんは肌で感じ始めました。

山田さんの考えに対するスッタフからの反発は強くなり、賛同者も少なくなっていきました。利用者と向き合う時間が減り効率を優先した現場では、誤嚥や転倒など、明らかな見守り不足による事故が多くなっていきます。しかし、多くのスタッフが佐々木さんの考えに導かれ、止めることはできそうにありません。いつまでも佐々木さんとの対立が続くことは、利用者のためにもチームのためにも良くないと山田さんは考えています。

A 意見の相違や対立の種類を整理して捉え、種類ごとの解決法を知りましょう。

【ポイント】

●対立には3つの種類があります。それぞれの解決法を知ろう
●二重関係モデルとよばれる5つの解決方法から、自己と他者への配慮を振り返ろう
●対立が複雑化した時は、対話を重視し、チームを落ち着かせることを目指しましょう

 山田さんは有能で瞬く間に介護主任に昇任しますが、中途入職のベテラン勢の意見と対立し、厳しい立場に追いやられてしまいました。どう対処していけばよいか、いくつかの理論から考えていきましょう。

チームに必ず訪れる「混乱期」を乗り越える

 新しいチームが形成され、しばらくすると起こるのが混乱期です。山田さんの職場は今まさに混乱期にあると言えます。チームとして成長し、さらに機能するためには、この混乱期をどうしても乗り越えなければなりません
 今回の事例では、利用者中心の山田さんの価値観と、職員優位で業務の効率化を主張する佐々木さんの間に対立が起こっています。経験年数の多い佐々木さんや石川さんに職員が誘導され、山田さんは窮地に立たされています。

対立には「種類」がある

 一口に「対立」といっても、それぞれ種類があります。種類を把握せずに同一の対応をすることは、問題解決に役立たない場合があります。
 そのため、まずは対立(コンフリクト)の種類を知り、このケースがどこに当てはまるのか考えてみましょう。対立は大きくわけると、仕事にかかわるものと、人間関係にかかわるものに大別されます。もう少し細かくわけると、①タスクコンフリクト、②プロセスコンフリクト、③関係コンフリクトの3種類があると言われています。

①②が仕事にかかわる対立で、③は人間関係にかかわる対立です。
①タスクコンフリクトは、簡単に言えば、仕事の内容や目標を巡っての衝突です。
②プロセスコンフリクトはもっと具体的で、仕事の手順、シフト、責任などに関する対立です。
③関係コンフリクトは感情的なもので、好きとか嫌いとか、不満や怒りなどを含みます。

 タスクコンフリクトとプロセスコンフリクトの一部は、仕事の質の向上につながり、生産的な解決を生み出します。
 一方、プロセスコンフリクトの一部と関係コンフリクトは、非生産的と言われており、早めに原因を除去することが望まれます。

 利用者優位の山田さんと職員優位の佐々木さんの間には、価値観の違いからタスクコンフリクトが生じ、仕事が効率的でない、定時に帰れない、などプロセスコンフリクトが加わりました。
 さらに職員の不満が募り、関係コンフリクトも始まっています。つまり、①②③すべてのコンフリクトが発生しています。
 時間を追って振り返ると、タスクコンフリクトとプロセスコンフリクトが長引き、関係コンフリクトに至ったと考えられます。こうなる前に何とかできれば良かったのですが、実際にこれは典型的な流れです。できれば、早めの対処をしたいところです。

 それでは3種類のコンフリクト別に対処の仕方を考えてみましょう。

タスクコンフリクトの解決方法

 タスクコンフリクトでは、対立している相手の考え方、思い、価値観を理解し、両者にとって有益な提案をすることで、解決を目指します。
 例えば、佐々木さんが主張する仕事の効率について、山田さんが理解を示したうえで、利用者に接する時間をどのように確保すれば良いか話し合っていく、などのやり方です。

プロセスコンフリクトの解決方法

 プロセスコンフリクトでは、相手の要望を受け止め、両者が納得のいく着地点を探りながら解決を試みます。
 例えば、職員たちは定時に帰れないことに不満を募らせています。定時に帰れるよう仕事を終わらせるために、記録のつけ方、申し送りのやり方、シフトのあり方などを見直し、職員達の許容範囲を確認しながら、利用者の安全を確保するために最低限やってほしい条件を提示するなど交渉を重ねて合意にもっていくやり方です。

関係コンフリクトの解決方法

 関係コンフリクトは、相手の気持ちや背景の理解に努め、誠意をもって共感することで解決を目指すことが基本です。
 山田さんは利用者のためにと、一途で頑ななところがあり、ベテランの佐々木さんが職員たちを先導し、対立へ向けてしまったのは何とも悲しいことです。
 佐々木さんは管理職の立場を知っているからこそできる助言もあるでしょうし、山田さんもまた佐々木さんから管理者時代の失敗例や成功例を引き出し、現状と照らし合わせられると良いでしょう。

対立の解決方法は5つある

 図に示した二重関心モデルという考え方では対立の解決方法は5つに分類されます
 縦軸は自分への配慮、つまり自己主張の程度です。横軸は相手への配慮、つまり共同志向の程度を示します。そうすると解決方法は図のように競争、受容、回避、協調、妥協の5つに大別されます。

 競争はwin-loseの関係です。win-loseの解釈は、winが縦軸の高い位置で、loseが横軸の低い位置と読みます。つまり自己主張を貫き、相手を服従させる方法です。
 競争は強制という言葉で解説しているものもあります。強力なリーダーシップに見えますが、相手の希望は満たされないので、感情コンフリクトを生み出しやすく注意が必要です。
 受容はlose-winの関係で、服従と説明されることもあります。相手の意向を受け入れる解決方法です。相手との関係性は良く、迅速に解決に持っていくことができます。一方で、自分の意見ではありませんから、受容した側のモチベーションは低下傾向です。
 回避はlose-loseの関係です。対立そのものを避けようと振る舞うことです。解決の先延ばしであり、ストレートに意見を言わない日本人にありがちなやり方です。回避戦略の場合は根本的な解決になっていないことを肝に銘じておきましょう。
 協調はwin-winの関係ですから、両者にとって有益な解決方法です。建設的な提案によって、両者が納得するわけですから、理想的な解決方法といえます。しかし、ここに辿り着くにはかなりの労力を要します。協調によって解決できる場合、発想の転換、コミュニケーション、信頼の3つがそろうことが必要条件と言われています。
 妥協はwin-win lose-loseと表され、妥協点を探す解決法です。痛み分けであり、双方が100%納得しているわけではありませんが、協調に辿り着けない場合によくやるやり方でもあります。

対話し、状況に応じて様々な対応を

 山田さんと佐々木さんの対立は複雑化しており、一気に解決を図るのは難しいでしょう。よって、問題を解決しようと考えずに、まずはチームを落ち着かせることを当面のゴールとしてはどうでしょう。これなら、ハードルが少し下がります。
 すでに、誤嚥や転倒などの事故が発生しています。事故を避けたいと思う気持ちは、専門職であれば誰でも同じでしょう。両者の共通項を見出し、同じ土俵に持っていきます。
 カンファレンスを行うなど、事故を起こさないようチーム全体で、リスクマネジメントについて話し合う場を設けると良いでしょう。カンファレンスでは、相手を否定しないというルールだけ作って、様々な意見や思いを吐き出し、対話することが重要です。

 Win-winまでいかなくとも、コミュニケーションが大切です。対話により双方の考えがいずれも大事であることを職員に伝われば、仕事の手順などの妥協案が提案され、プロセスコンフリクトの解消につながる突破口が見えてくるでしょう。突破口が見えることが職員の気持ちを落ち着かせ、長い目みれば感情コントラストをも解消するかもしれません。

 参考文献:井上由起子、鶴岡浩樹、宮島渡、村田麻起子『現場で役立つ介護・福祉リーダーのためのチームマネジメント』中央法規出版、2019

質問をしたのは私です

飯塚 弘幸(いいづか ひろゆき)
認知症介護研究・研修 東京センター 研修主幹

この記事は私が書きました

鶴岡浩樹(つるおか こうき)

日本社会事業大学専門職大学院教授
つるかめ診療所副所長

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著者:井上由起子、鶴岡浩樹、宮島渡、村田麻起子
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