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【ケアの質の向上と維持】限られた時間の中で、職員全員が一つになって丁寧で利用者の気持ちを汲んだケアを実施するにはどうすれば良いでしょうか?

【ケアの質の向上と維持】限られた時間の中で、職員全員が一つになって丁寧で利用者の気持ちを汲んだケアを実施するにはどうすれば良いでしょうか?

もっと詳しい状況は?

 私の障害者入所施設で働いていて、現場に入りながらマネジメントをする立場になったばかりです。ここでは、ケアを早く終わらせ、余った時間を自分の業務の時間に使うことが許される風土があります。そのため、ケアを早く終わらせることが職員の日々の業務の効率化にも繋がっていると思われています。中には、利用者の意思を尊重した丁寧な介護ではなく、利用者に無言で素早くケアを実施するという職員が数名いて困っています。
また、例えば職員のAさんは、ケアが早すぎて雑である一方、Bさんは無駄な話ばかりをしているためにケアが遅い、という意見がそれぞれの職員から出ています。
私から見れば、どちらも一長一短で、利用者の気持ちに寄り添いながら短時間でのケアを実施している完璧な職員はいません。
職員からそのような意見がでた時には、『お互いにとって考え方の違いであり、長所でもある。職員の良いところなども見てほしい』と伝えてはいるのですが、職員たちはどうしても自分の価値観や考え方にあてはめてしまう考え方から抜け出すことができません。
ケアを早く終わらせたい職員と、ゆっくり関わりながら実施したいという職員の中でも対立も起きてきていてどうすればいいのか困っている現状です・・・。

A 質の高い安全安心な介護を提供するためには、ケアにかける時間ではなく、介護の倫理に基づいた「介護基準」を参考にし、「利用者の意思決定支援」や「根拠に基づいた介護」を目指しましょう。

【ポイント】

●「介護基準」によって、ある一定の介護レベルを設定し、そのレベル以上の介護の提供を求めていきます。
●「介護基準」をもとに、介護者自身に求められるレベルを見直し、一定のレベル以上の介護が提供できるよう職員の教育目標と連動させましょう。
●「介護基準」を現場の業務マネジメントのツールとして活用しましょう。

「介護基準」を参考にする

 2015年度厚生労働省の委託を受けて公益社団法人日本介護福祉士会が「質の高い介護サービスの提供に向けた介護業務分析に関する調査研究報告書 (PDF)」をまとめています。
 報告書では介護の質を一定程度担保する「介護基準」の作成の必要性を求めています。
 この介護基準は、報告書冒頭で「倫理綱領」の内容を踏まえて、具体的な手順書(個別ケアマニュアル)の前段階の基準として位置付けられています。基準のもう一つの役割は介護職間による介護の「差」を無くし介護職から提供される介護の質を一定担保することです。
 また、「介護基準」は介護現場のマネジャーが現場を運営するための基準でもあります。
 現場で守らなければならない介護倫理は、抽象的でわかりづらい面があります。なので、「介護基準」ではケアの場面で何をすれば介護倫理が守られるのかわかるようになっています。

 介護基準の項目は、次のようになります。

 これらの項目を見るとわかるように、介護する上で守るべき方針や実践する上での約束事が書かれています。それが介護の倫理ということです。
 つまり、それぞれの介護には目的があり(例えば、食事介護の目的は何か、排泄介護の目的は何かなど)、そのためには、根拠となる知識や技術が必要で(例えば、こころとからだの理解、福祉用具の活用など)、また、介護する上で配慮しなければいけないこと(アセスメント、安全の確保、尊厳の保持など)があるということです。

「時間」ではなく「エビデンス(根拠)」に基づこう

 質問者は、短いから雑、長いから丁寧という「時間」という物差しで介護の質を測っているようです。でも、本来はそれぞれの介護には「目的」があり、また「必要な知識や技術」や「配慮すべき点」がありますね。
 いくら長い時間をかけても、雑な介護であれば、目的、知識、技術、配慮すべき点が見落されているかもしれません。時間ではなく「介護基準」のようなエビデンス(根拠)に基づいた、客観的な物差しでマネジメントすることが大切です。
 例えば、食事介助について介護基準には次のようなことが書れる必要があります。

1食事に関するアセスメント

 食事量や食事形態、摂食動作、障害等の基礎的知識を理解した上で、個々の利用者に応じた食事の支援方法を検討し、計画を立てます。
自立性を高め、利用者の個別性に配慮した食事支援を行うためには、利用者の出来ることと出来ないことを明らかにし、どのような食事をしたいと思っているのかを把握します。
同時に、食事摂取困難の原因・背景を解明し、利用者のニーズを把握します。
アセスメントで得た利用者の情報・ニーズは、必ず記録をとり、利用者の介護に関わる多職種からの意見を反映させ、チーム内で共有する明確なものにします。

⇨ここでは、本人の自立能力や意思決定、多職種による連携を前提とした介護が必要だと書れています。

2食事支援の目的

 食事は、栄養を摂取するというだけではなく、食べる楽しみを感じるという社会・文化的生活として重要な意味を持っていることを理解します。
その上で、食事支援は可能なかぎり自力での摂食を促します。食事は、身体に必要な栄養やエネルギー源を補給し、生命維持や健康、日常生活を送るための源となるものです。
「食べる」ことは日常の中で大きな楽しみになっており、食べる事に満足感を感じられるような食事を提供し支援していくことは、精神的・社会的・文化的生活からみても大変意味のあることです。
利用者の食生活の意味や価値観、食事方法等の個別性や口から食べることの重要性を理解した上で、自立性を高める支援を行います。

⇨食事介助の目的は何かを自覚することは、食事を手段として取り違えないようにするためにも重要です。

3こころとからだのしくみの理解

 栄養素・水分の役割、摂食・咀嚼・嚥下のメカニズム、摂食・嚥下障害等の基礎的知識を理解した上で、利用者の状態に応じた食事形態の選択や摂食時の姿勢等にも配慮した安全で自立をめざした食事支援を実践します。
また、精神的な満足感の高い食事支援の必要性を理解した上で、食欲を出す、食事を楽しむために食事の盛り付け等にも気を配る食事支援を行います。

⇨食事介助に必要な知識や技術といったエビデンス(根拠)を述べる必要があります。

4安全の確保

 医療上の食事制限や心身の機能・障害、現在の体調や食欲等を把握し、適切な食事支援を行います。利用者の見守りによって、適切な姿勢や食事方法での食事が出来ているか、咳やむせこみはしていないか等を確認し、適切な支援をすることで誤嚥や窒息等の予防に努めます。
咳やむせこみ等が発生した際には適切な対処を行い、万が一誤嚥や窒息等が発生した場合は速やかに医療職(看護師等)へ連絡します。脱水・栄養状態にも配慮し、必要であれば管理栄養士等の専門職との連携も行います。

⇨介護にはリスクが伴います、全ての介護行為についてリスクマネジメントの視点が必要になります。

「一定のルール」が介護の質を担保する

 質問者は現場をマネジメントする立場にいます。介護職員をまとめて、質の高いケアを提供するために日々奮闘してしることに敬意を評します。
 また、倫理に基づいた介護を大切にするその熱意を熱意だけに止めず、介護基準の作成など誰もが守るべき一定のルールに沿った、一定の質を担保する介護を目指しましょう。
 ルールがあれば、今のケアの水準が分かり、職員個々の差をなくするために業務支援や部下教育に活用でき、その結果、マネジメント(管理)の対象にすることができます。まずは、「介護基準」を法人、施設で作成するようにしましょう。

この記事は私が書きました

宮島渡(みやじま わたる)

日本社会事業大学専門職大学院特任教授
全国認知症介護指導者ネットワーク代表

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