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和田行男の「婆さんとともに」

水も舌足るいい焼酎

 認知症になると、どうしてもそれまでの暮らしに制限を加えざるを得なくなる。
 理屈で「暮らしの継続」なんて言ってみたところで、それまで通りの暮らしを営むことはできないし、それを支えきれるものでもない。
 でも、認知症になったことを少しお借りし、事実真実ではなく実感真実を大切にする支援で、本人にとって「それまでと変わらない」と実感してもらえることは可能である。
 全国各地でそれに取り組んでいる専門職に出会うが、先日も大分県の町でこんな話に出会い、愉しくなった。

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 源蔵さん(仮名)は、何よりもお酒が大好き。
 お酒のために生きてきたような人だったが、認知症になり、その大好きなお酒による生活への弊害が出てきたため、関わっていたケアマネは「お酒を止めさせたい」と考えた。
 ここまでの話なら、「危ないから」と言って行動制限することしかしないことや、「栄養価が大事だから」と言って食事を管理するなど、本人の意思や気持ちとは無関係に押し付けるのと変わらない。
 でもこのケアマネさんは、和田さん流に表現すれば、「お酒を好きなだけ飲めてアルコールのない生活」を実現できないかと考えたのだ。
 いろいろ試行錯誤はあったのかもしれないが、行きついた方法は、焼酎のパックに水を入れて置いておくようにしたところ、源蔵さんは認知症のおかげで、水(事実真実)を焼酎だと思って(実感真実)飲むようになったのだ。
 ところが焼酎を飲まないケアマネさんにとっては、芋だろうが麦だろうが米だろうが焼酎は焼酎。焼酎のパックなら何でも良いと思うのは無理ないのだが、源蔵さんにとっては焼酎なら何でも良いというものではなかったようで、芋焼酎のパックに同じ水を入れておいたものを飲むと「何か違う」と言ってパックを眺め、「俺は麦しか飲まないんだ」と言われたそうだ。舌に足りなさを感じるんだろうね。可笑しいなぁ。
 また、水を取り換えたりしながら何度か使っているうちにパックがふやけてくると「この焼酎は古い」と言って飲んでくれなかったようで、ケアマネさんは“麦”焼酎の紙パックを集めるのが仕事になっているそうだ。
 まさに「お酒漬けの生活」は継続できているがアルコールのない生活になり、当然アルコールによる弊害もなくなり自宅での一人暮らしが継続できているそうである。
 とかく「酒をとりあげる」とか「もう自宅での一人暮らしは無理だから施設へ」となりがちだが、このケアマネさんが「生活支援の専門職」だったことで、源蔵さんは今まで通りの生活を実感できているということだ。
 こんな専門職がどんどん増えていけば、「認知症になっても大丈夫よ、私たちがいるから」と胸を張れるし、国民の安心感は高まるだろうね。
 みんな、力尽くそうぜ!!!

追伸
 実感真実と事実真実については、9月23日のブログに書かせてもらっていますので、それを参考にしてください。


コメント


目から鱗の対処法ですね。
とかく、制限ばかりしがちな援助のなかで、認知症を逆手にとった対処で、とても勉強になりました。


投稿者: あすか | 2013年12月16日 21:11

何だか安心しました(笑)私がまだGHで管理者をしていた頃、同じ様な事をしてた事を思い出しました。ブログを読ませて頂き、私の思いがようやく昇華された気がします。支援の正解は誰も教えてくれませんよね。「認知症」と言う言葉で全ては片付けれらます。これで良いと思えば、そこで全て終わります。しかし、人としての人生は終わらないし、認知症の状態も終わらないですよね。だから私達は悩むのでしょうか。因みに私の関わった方は日本酒が大好きでDMの方でした。私は水に酢を入れたり、塩を入れたりと何とか日本酒の味に近づけようと切磋琢磨していました(笑)もう他界されましたが、最後は桜の下で一升瓶を抱えて一緒に写真を撮った事が思いでです。○○さん有難う。


投稿者: 博一 | 2013年12月19日 18:21

主体的に生きていけるように
自分の力で生きていけるように
自分らしく生きていけるように・・・支援する

なども正確には、「そう実感できるように(支援する)」
という大事な部分が省略されているように思えます。
出来事の連続が「生活暦」だとしたら、実感の連続が「人が生きること」のように思えます。
そういう意味でも自分の仕事は、出来事を重視した生活暦を彩るのではなく、いかに実感しているかを大切にした「人が生きること」を支えるほうだろうなと、やっぱり思います。

歩行介助や食事介助も同じで、自分はどうやって食べているんだろう、自分はどうやって立ち上がっているんだろう、自分はどう生きているんだろう・・・から展開させて、自分の力で食べている、自分の力で歩いている、と極力実感できるように支援していくわけで、その人(例えば認知症のあるこの方にとってどうか)と考えるのも、単に相手の立場になってという親切心や思いやりだけではなく
人が生きることを私なりに考えた結果の「実感」を大切にする、プロとしての行いだと自分では思っています。

認知症になった人と関わったことで、実は自分は思い込みで生きているんだなあということも気付かせてもらえた気がします。


投稿者: 夜勤ヘルパー | 2013年12月20日 16:24

※コメントはブログ管理者の承認制です。他の文献や発言などから引用する場合は、引用元を必ず明記してください。

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プロフィール
和田 行男
(わだ ゆきお)
高知県生まれ。1987年、国鉄の電車修理工から福祉の世界へ大転身。特別養護老人ホームなどを経験したのち99年、東京都で初めてとなる「グループホームこもれび」の施設長に。現在は大起エンゼルヘルプでグループホーム・デイサービス・小規模多機能ホームなどを統括。2003年に書き下ろした『大逆転の痴呆ケア』(中央法規)が大ブレイクした。

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