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宗澤忠雄の「福祉の世界に夢うつつ」

数々の疑問

 先週末、市原市障がい者虐待防止セミナーに講師及びパネルディスカッションのコメンテーターとして参加しました。袖ケ浦の虐待事件の影響からか383名もの参加があり、期せずして、袖ケ浦の事案をめぐる情報や見解がやり取りされる場ともなりました。参加者に共通するのは、袖ケ浦の事案に関する夥しい疑問を抱く点です。

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市原市障がい者虐待防止セミナー

 今回のセミナーは、市原市と地域の相談支援関係者を中心に、虐待防止の取り組みを地域で進めていくことを目的に開催されたものです。したがって、袖ケ浦の一件だけに振り回されることなく、あらゆる虐待の防止に資するセミナーにしようとの注意を払って進められました。

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 障害のある人とそのご家族、自治体職員、支援事業者職員など多様な立場からの参加が見られましたが、講演とパネルディスカッションの間の参加者の集中力には並々ならぬものが感じられました。

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会場の参加者

 千葉県の障害のある人に係る関係者の皆さんが、袖ケ浦の一件に決してひるむことなく、虐待・差別の克服に向けた取り組みを力を合わせて進めていくことを確信させてくれたセミナーだったと感じています。

 しかし、休憩時間になると、袖ケ浦市に隣接する市原市が会場であるためか、虐待死亡事件のことがどうしても話題に上ります。ここで、さまざまな参加者から提起されるこの事案に対する疑問には、3つの共通点があることに気づきました。実は、この3点は全国の自治体職員から寄せられる疑問の最大公約数でもあるのです。

 一つは、障害者虐待防止法が施行されてなお、今回の虐待事案の通報が施設関係者からなかったのはなぜかという点です。

報告を受けていながら事態を放置した施設長はむろん、事態を知っていた職員・サービス管理責任者にも法的な通報義務があります。しかし、だれも通報してはいません。すると、この施設は虐待防止にかかわる初歩的な周知さえしていなかったということなのでしょうか。まさか、虐待防止研修まで実施した上で誰も通報しなかったなんてことはありませんよね?

 もう一つは、1995年の児童養護施設恩寵園事件を千葉県は何も教訓にしてはいないのかという疑問です。恩寵園事件は、2000年の児童虐待防止法の施行に向かう時期に明らかとなった児童養護施設の虐待であり、自治体が虐待対応に係る適切な権限を行使しなかった点で、全国の児童養護施設と自治体関係者に重い教訓を残しました。

 恩寵園では、施設長とその息子の職員を中心に、性的虐待を含む数々の虐待行為が確認され、最終的には刑事事件となってしまいました。県の児童相談所・児童福祉課には虐待の情報が寄せられていたにもかかわらず、適切な権限を県は迅速に行使せず、子どもたちの虐待被害を逆に拡大させる事態さえ招いたのです。この事件の経緯は、20年近く経った今日の養育園虐待事件との共通性を感じさせます。

 恩寵園事件をめぐっては、事態を放置した県の責任が問われないようにする県庁の悪しき体質があったと指摘されています。また、当時、問題解決のためにほとんど何もしなかった県の児童養護施設関係者も批判されました。そこで、今回の養育園の虐待事案については、千葉県養護施設協議会の関係者がかつての事件を教訓にした素早い対応をとっています。それでは、県庁は何を教訓にしたというのでしょうか。

 三つ目は、障害のある人もない人も共に暮らしやすい千葉県づくり条例をつくってきた自治体であるにも拘らず、どうして今回の虐待が長年にわたって見過ごされてきたのかという不審です。

 差別・虐待を地域の力をより合わせて乗り越えていこうとする条例づくりは、千葉県を皮切りに始まったと言っても過言ではありません。私も取り組んださいたま市の条例づくりも、千葉から多くのことを学んでの事でした。

 この種の条例は、美しい理念をアドバルーンとして高く上げるだけのものではなく、障害のあるなしにかかわらず地域で共に生きる内実を一歩一歩作っていくためのものです。そこで、実務的には条例の推進体制が重要な課題となるため、県庁内部の推進体制は十分な検討を重ねて構築されていたはずです。

 県の幹部職員が理事長に天下りし、県職員の「渡り鳥」が事業団施設に多数配置されていたにもかかわらず、県の元職と現職の全員が県の条例を遵守することなく、虐待の事実を放置し、あるいは隠蔽さえしていました。市原市虐待防止セミナーには、条例づくりとその推進に力を尽くしてきた関係者も多数参加されていたため、「今回の虐待事件には耳を疑う」「事業団職員と県職員に対する不信はまことに大きい、残念だ」などの感想があちらこちらで聞かれました。

 最後に、今回のセミナーの中で、袖ケ浦の虐待は「遊び感覚でしているような虐待だった」という事態が明らかにされました。力づくめで言うことを聞かせようとするのでもなく、抑制しようとするものでもない、虐待者の主観としても「遊び感覚」だったというのが事実であれば、このタイプの虐待は、これまでに事例としてあまり確認されたことがなく、十分な検討をされたことのない施設従事者等による虐待であると私は考えます。

 このようなタイプの虐待についての仮説は以前から私の中にあったため、別な機会に詳述する予定です。ただし、これはブログではなく、研究論文になると思います。現時点で申し上げたいのは、現代の学校における子どものいじめのように、先行世代の教師からはいじめとして確認することが難しく、気づいても問題解決への手がかりをつかみにくい問題の特質があったのではないかと推測します。少なくとも、これまでの虐待対応に関する実務指針では不十分であり、新たな知見を加える必要が明らかになるでしょう。


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プロフィール
宗澤忠雄
(むねさわ ただお)
大阪府生まれ。現在、埼玉大学教育学部にて教鞭をとる。さいたま市障害者施策推進協議会会長等を務め、埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

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