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宗澤忠雄の「福祉の世界に夢うつつ」

入所型施設とグループホーム・ケアホーム

 この間、「住まいと暮らし」にかかわる話題にブログを割いてきました。それは、都市部における障害のある人のグループホーム・ケアホーム(以下、ホームと略)のあり方に関する研究をテーマの一つにしているからです。

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 検討すべき課題は、大まかな括りで3つあるでしょう。
 一つは、暮らしの舞台であり条件である「住まい」そのものについてです。
 二つ目は、地域生活のあり方を含めたホームでの暮らしをどのような中身で考えていくのかについてです。障害のある人の領域は、青年・成人期が主要なライフステージとなりますから、医療・保健・福祉の諸サービスの組み合わせだけではなく、「働くこと」との関連を含めた暮らしの多彩なバリエーションが構想されなければなりません。
 三つ目は、暮らしの場における生活者と支援者の親密圏に関する課題があります。「暮らしの場」という私生活の領域でありながら、そこに公共の立場にある職業的支援者が親密なかかわりを追求するという点は、他の専門領域ではあまり想定されてこなかった「支援」です。学校や病院は「公共圏」であり、「親密圏」の時空間ではありません。これまでの入所施設の取り組みについては、この観点から議論が掘り下げられてきたとはいえませんし、グループホームや入所型の施設がしばしば「虐待または不適切な行為」の温床になってきた点も、この課題の重要性を示すものです。

 これらをトータルに考慮すると、ホームとは従来の「オール・イン・ワン型」サービスを提供してきた入所施設を「小規模化」したものではないことが分かります。私は、従来の入所施設を全面否定するような立場はとりませんが、地域生活をゆたかにするというテーマに据わるホーム拡充の課題には、はかりしれない重要性があると考えています。少なくとも、「親亡き後の入所施設」という旧来の発想は、地域福祉の課題を永遠に素通りするだけであり、歴史的に克服されなければならないものでしょう。

 ここでは、施設を全面否定しない点について若干説明しておくことが必要でしょう。

 まず、障害のある人の支援領域は、障害の状態像の個別多様性に広範なライフステージに由来する支援課題が加わるため、落ち着いた地域での暮らしと活動の保障のあり方に未解明な部分を残している問題があります。
 たとえば「強度行動障害」の研究は、現在の医療的・福祉的支援の技術水準ではいかなる努力をしても事態の改善がみられない方が2割強は存在することを明らかにしています。また、法制度による支援が始まったばかりの発達障害の領域では、20歳未満の段階で「広汎性発達障害」と診られていたケースが、20歳以降に「統合失調症」や人格障害圏の確定診断に移行する場合があり、生活の質を保障する支援をどのように組み立てていくかについての方針は今後の努力に期待される面が多くあるのです。
 このように実践的な方針が定まっていない未解明な支援について、「オール・イン・ワン型」の条件のつくれる施設の枠組みの中にさまざまな専門領域の英知を結集し、これからの支援のあり方を開拓していく役割はとても重要であると考えます。

 次に、施設が果たすべき一時保護の役割についてであり、虐待や災害時の対応を念頭に置くものです。一時保護は、児童相談所や婦人相談所の一時保護所の機能を引き合いに出すまでもなく、ひとまずの安心した暮らしの回復と保障のために「オール・イン・ワン型」のサービスでなければなりません。
 これは、従来からのショートステイとは異なるものです。虐待対応に苦しむ児童相談所の一時保護所は、数日から2~3週間の保護期間という「建前」がとうの昔に崩れ去り、数ヶ月から一年近くに及ぶ「一時保護」が常態化しています。虐待対応には親族関係の調整に手間をかけなければならない時間が必要なケースも多い上、虐待に由来する後遺障害の軽減と克服に相当高度な専門的支援を継続しなければならない事情も加わります。
 今後の虐待対応を考慮すると、一時保護には、グループホームやケアホームよりも施設が条件面でアドバンテージをもつと考えます。

 三つ目に、すでに長年にわたって施設での暮らしに慣れ親しんできた方への対応についてです。地域支援の貧しい時代に施設入所や入院を余儀なくされた方の問題の所在は、明白に施策の貧困にあります。この問題を、障害者自立支援法になったからといって、障害程度区分判定を根拠に「施設から地域生活へ」とするのは、ご都合主義以外の何ものでもないでしょう。
 事実、ノーマライゼーションの母国デンマークにおいても、従来型の施設中心主義の政策の時代に施設生活に慣れ親しんだ方に対しては、今日でも「施設生活」をしっかり保障していますし、そのような経緯のある入所型施設を廃止する予定もありません。彼の国では若い人たちの新しい世代から、可能な限りグループホームを住まいとする地域での暮らしづくりを地道に積み重ねる努力を続けてきたのです。
 それに対し日本では、いかにも拙速な制度変更によるご都合主義がまかり通ってはいないのでしょうか。
 わが国の都市部の代表格である東京都は、地価の高さに音を上げる格好で、数十年前から都外の地方県に入所型の施設をたくさん作り、都内の障害のある人を入所させてきた経緯があります。生まれ育った家族と地域から遠く離れ、たとえば秋田県に設置した施設にまで暮らしを移すことを「措置」してきたことの責任を棚に上げたまま、「施設から地域生活へ」というのは納得しがたい問題です。
 以上を踏まえた上で、私は、地域生活保障に資するグループホーム・ケアホームの拡充をあくまでも重要視すべきだと考えます。


コメント


 こんにちは。去年北九州市立大学で講義を受けさせていただいた学生です。ありがとうございました。

 福祉サービスを充実させるためには、明確な制度を設けて効率的に政策を実施していく必要があると思います。
 しかし、その制度のみに偏りすぎると、サービスそのものが機械的なものになり、結果的に質の低下を招いてしまうでしょう。
 福祉支援は、人間に対して行われるサービスであることを常に念頭に置き、精神的な面からのケアも重視してかなければなりません。
 制度の枠組みは、効率化を考える上では必要だと思います。しかし実際に行われるサービスは、利用者が必要としている様々な要求に対して、臨機応変に応えていかなければならないだろうと思います。
 そのためにも、施設の在り方を再確認するということはとても重要だと思います。


投稿者: 口 | 2010年01月16日 21:38

 こんにちは。先日は北九大で講義をしていただきありがとうございました。
 施設生活から地域生活に移行していくためにはそれなりの時間が必要になるのは当然ですが、ただ時間をかけるだけではうまく移行していくことはできないと思います。
 施設と県や自治体がうまく協力して施設やグループホーム等を地域に開かれた場にしていくことで、少しずつ馴らしていくことが入所者の方たちにとっては必要なのではないかと思います。
 国の施策が変わったからといっていきなりそれまで馴染んできた施設などから放り出されても精神的にも肉体的にも負担にしかならないのではないでしょうか。地域生活に移行する前に、うまく生活の変化に適応していけるよう支援者や地域の方々で環境を整えることが必要なのではないかと思いました。その点で、施設の在り方や、施設と地域の関係について考えることが大切なのではないかと思います。


投稿者: 李音 | 2011年01月20日 22:01

初めて知りましたオーガニックのアフリカフェというアフリカのインスタントコーヒー
同城交友 http://www.216ons.com/


投稿者: 同城交友 | 2013年11月23日 03:17

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プロフィール
宗澤忠雄
(むねさわ ただお)
大阪府生まれ。現在、埼玉大学教育学部にて教鞭をとる。さいたま市障害者施策推進協議会会長等を務め、埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

【宗澤忠雄さんご執筆の書籍が刊行されました】
タイトル:『障害者虐待 その理解と防止のために』
編著者:宗澤忠雄
定価:¥3,150(税込)
発行:中央法規
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