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和田行男の「婆さんとともに」

認知症と炎

 僕らにとって、目に入る情報はとても大事である。
 目に映らなければ「思い描く・察する」しかないのだが、知識や経験がないと描くことも察することもできず「思いもしなかった」となる。
 今の時代を生きる高齢者にとって、炎がなくても湯を沸かすことができるIHコンロはまさに「思いもしない道具」であり「?」の連続となってもおかしくないのだ。

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 1999年、施設長を任されたグループホームは、僕が着任する前の段階でガスコロンを使用する仕様になっていたため、入居者にとって「経験とのズレがなく」、炎を見ながら火加減する光景は日常化していた。
 東京都で初めてのグループホームだったので、後続の皆さんに悪影響が出ないように「火災」と「食中毒」と「ゴミだし」に対しては職員一同かなり気を使って行動していたが、それでも「炎によって菜箸を焦がしてしまう」ことが起こるなど、「炎」をコントロールしきれなくなる認知症という状態にある人の生活支援の怖さも実感していた。
 もちろん、入居者が「炎」を使っているところに職員が張り付くが、炎を使っているあいだそれに集中して付きっきりになることもできず、ほんのちょっとしたスキに小火騒ぎになったのだ。
 そんなこともあって、据え置き型のガスコンロよりはるかにリスクの高いカセットコンロの食卓上での使用については無理をせず、卓上用のIHコンロを使ってみることにしたが、予想どおりの結果だった。
 水炊きをすることになり、食材を切ること以外は、食卓テーブルで一からやることにした。
 IHコンロに鍋をのっけて、婆さんに「これは電熱器だから炎はないですよ」と伝えてスイッチを入れ、湯が沸くのを待った。
 ところが、待っている間中入居者から「せんせん、これ火がつかないんだよ」の言葉が繰り返された。
入居者にとってIHコンロは、初めて使うか使った期間が短くて(IHコンロの歴史が浅い)使ったことを憶えていないため「初物」で、「思いもしない道具」である。
 電熱器のように真っ赤になれば「目に映る」ため、使ったことがなくとも「火がついているから待っていれば湯が沸く」となりやすいが、「炎がなくても湯は沸く」なんて思い描けないのだ。
 そうこうしているうちに湯煙が出て目に映りだすと、炎があるかないかはどうでもよく、次の手順である「具材を鍋に入れる」ことに集中しだす。ところが、鍋に再び具材を投入して湯温が下がると、「湯煙が目の情報からなくなる+炎はない」ため「せんせい火がつかない」と元の黙阿弥である。

 そんなこともあって、その当時関係のあった電力会社のそれなりの部署の人に「鍋をのっけても目に炎が映るIHコンロを開発してほしい」と本気で依頼させてもらったほどである。
 その当時でも暖炉には、素は電気なのに炎そっくりに見えるものが開発されていたし、その炎も説明を受けないと、もとが炎を出さない電化製品だと気づけないほどリアルな出来栄えだったからなおさらで、それを高齢期の早期から使っていけば、「目には映らなくても思い描ける」のではないかと考えたからである。

 このことを結論的に言えば、僕は、炎が目に映るガスコンロは、今の時代を生きる認知症という状態にある高齢者にとって「ズレ」が生じないため使い勝手が良いと考えている。
 でも、正月気分の抜けきらない平成18年1月8日、長崎の親友から「グループホームが火事や、目の前で燃えてる」の一報を受けたことを機会に、「より火災のリスクを下げる」ために「炎との絶縁」へ舵をきった。
 それ以降造るグループホームなどはすべてIH方式とし、ガスコンロを使っているところも経年劣化等のよる交換を機会にIH化をすすめている。
 「稲毛のマウンテンさん」や「なんくるさん」が言われるとおり、炎が目に映ることの豊かさも含めて「そのとおり」なのだが、事業所が増えて職員が増えるということは、「ちょっとした不注意が増える」ということでもあり、人がすることで「ちょっとしたことによるミスをゼロにする」ことの難しさと「100%火事を起こしてはならない使命」を考えると、道具でリスクを下げる道に向かわざるを得ないということだ。
 「あっちたてばこっちたたず」はどこにでもあるが、「あっちをたたさねばならぬ」とき「こっちたたず」は致し方なく、残念ながら僕は「炎」がいたずらしないように、システム上「炎と縁切り」したが、相次ぐ「火災事件」で尊い命が絶たれてきた今、お上が「炎との縁切り」を僕らに求めてくるのも致し方ないことだと理解できる。
 炎の豊かさには炎のリスクはつきものだが、そのリスクを取り込んだ備えを常に怠らない職員集団を形成すれば、炎のいたずらを未然に防げることだろう。火災は事故ではなく事件なのだから。

■再びのお知らせ
平成25年度庄原市委託事業
 第12回認知症介護予防講座
 7月27日(土)13:00-16:00
 広島県庄原市民会館
 主催:医療法人社団聖仁会(広島県庄原市)

○講演
~認知症の人と共に暮らす~ 池田学氏
熊本大学大学院生命科学研究部神経精神医学分野:神経精神科教授
○対談
 池田学氏・和田行男

 池田さんは認知症の研究・臨床・地域活動の第一人者で、NHKテレビでご一緒させてもらって以降、「友人」にさせてもらっていますが、超多忙な方で、なかなか講演を聞けない方です。
ものすごくわかりやすく認知症や支え方を説いてくれます。
 遠方で不便な場所ではありますが、ぜひ聞きにきてください。僕とのやりとりは、僕が言うのもなんですが「絶品」です(笑)。


コメント


金沢での講演ありがとうございました。
改めて認知症とは?と、自問自答出来る良いきっかけになりました。講演の中で痴呆には二つの意味があるとおっしゃっていましたが…
一つしか聴けなかったと思います!
自身で調べても良いのですが、和田さんなりの解釈があるのかと思いコメントいたしました。
この度、小規模特養を単体で行おうと思います!
職員の資質向上の良きアドバイスなどありましたらお聞かせ下さい。
益々の発展、改革を応援しています。


投稿者: 「たかり」に便乗した不届者(ナカネ) | 2013年07月24日 23:26

早速のご回答本当に有難うございます。「なんくるさん」にも重ねてお礼申し上げます。有難うございました。和田さんのお考えを職員皆に伝え、アクシデントを防ぐことに重点を置いて、美味しい食事を作っていくしかない!との結論に至りました。このような疑問に真剣にお答えいただき、本当に皆さんがおっしゃる通り、和田さんは僕達福祉職人の「神様」ですね。今後ともよろしくお願い致します。昨日グループホームは足場が解体され綺麗なタイル張りが現れました。外見に負けないよう、中身(ソフト)を輝かせるように意気込んでいる今日この頃です。がんばるぞ~!


投稿者: 稲毛のマウンテン | 2013年07月25日 10:36

IHは五徳がないことも、認知症の人の状態によっては、辛いだろうなぁと思う。
流しで鍋に水を汲み、「よいしょ」と鍋をコンロにかけることができるのは、五徳の存在のおかげ?!と思ったりして


単発で「炒める」という作業をしてもらうだけなら問題ないけど、できれば鍋を選んだら、次は水。水を汲んだら火にかけて。ふたはどこ?。。次々発生する目的を達成させるために動けるように、できる人にはなるべく、その連続の営みを途切れないよう応援したいと思う。IHになれば、そこがコンロと認識できるような工夫は必要だろうなぁと思います。


今回一番考えたのは実は「見た目のこと」です
私たちは「調理するための手段=コンロという選択肢がそこに存在してる」ということを覚えているから、必要なときに使えていて

意識こそしていないけど、こういうことも含めて「自分の力で生きている」ということだと思うし、コンロを使っている時でも使っていない時でも、目に映るコンロは、こうやって生きてることを「記憶」や「実感」できるものの一つだという気がします。

だから使っていない時でも、そこがコンロに見える工夫は必要だと思います。

最近は生活感をかもし出すことではなく、生活していることを実感できるようにということを意識していますが、まだあまり自分でもよくわかっていません


投稿者: すみこ | 2013年07月29日 15:55

※コメントはブログ管理者の承認制です。他の文献や発言などから引用する場合は、引用元を必ず明記してください。

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プロフィール
和田 行男
(わだ ゆきお)
高知県生まれ。1987年、国鉄の電車修理工から福祉の世界へ大転身。特別養護老人ホームなどを経験したのち99年、東京都で初めてとなる「グループホームこもれび」の施設長に。現在は大起エンゼルヘルプでグループホーム・デイサービス・小規模多機能ホームなどを統括。2003年に書き下ろした『大逆転の痴呆ケア』(中央法規)が大ブレイクした。

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