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和田行男の「婆さんとともに」

魔の手

 婆さんの暮らしが脅かされている。
 認知症という状態にあっても地域社会で暮らしていけるようにと願って様々なことが考えられ実践されているが、その陰で確実に「認知症をターゲットにした魔の手」も伸びており、魔の手は「いわゆるプロの詐欺師」だけではなく「善意の仮面を被った普通よりいい人」だったりするから、厄介である。

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 認知症という状態になれば「憶えられない・忘れる」といったことが起こる反面、同時に「忘れない」が合わさるので厄介である。
 例えば、よねこさん(仮名)。
 よねこさんには、近所に住む友人がいる。その友人に対して安心感をもっており、お金の管理まで相談していた。
 そのよねこさんが認知症になり、身の回りのことは「できごと」だけでなく「所持金品」のことまでわからなくなってしまった。
 ところが、その友人のことは憶えていて「この人は安心できる人」が脳に染みついている。
 この友人が最期までよねこさんの支援者ならば何の問題もないのだが、この友人に「魔」が忍び込みよねこさんに手をかけだしたからひとたまりもない。
 よねこさんに関わっている専門職の人たちは「友人の魔の手」から守ろうとするのだが、肝心のよねこさんの「忘れない」が邪魔してどうにもならなくなっている。

 グループホーム入居者が、毎日のように買物にでかける市場で「事」が起こった。市場とは、八百屋、魚屋、肉屋、乾物屋、豆腐屋、金物屋、衣料品屋など「数種・数十店舗」が一つ屋根の下で同居して商売をする、いわば「商店のグループホーム版」である。
 そこのグループホームは、職員たちが僕の話を聞いて実践しようと、市場やスーパーで、入居者ひとりで市場内を自力で行動し、買物できるようにと実践しているところである。
 市場の商店主たちとはすっかり顔馴染みになり、名前を呼んでもらえるようになり、冗談会話もできるようになり、とても愉しそうに買物ができるようになって、職員も家族も喜んでいた。
 ところが、「どうも様子がおかしい」ことに気づき、注意を払っていると「同じものでも高額な商品を買わされている」「質の悪いものを買わされている」といったことが判明。
 認知症や顔馴染みになったことを逆手にとった魔の手が、グループホーム入居者にまで及んできたということだ。

 認知症のことを国民に広めるために様々な啓蒙活動が展開されているが、広めれば広めるほど魔の手も広まり深まる。
 今は一般市民でさえ、自分の身のまわりの者に「認知症かも」と思って様々なことを試し、「やっぱり」と確信をもてる知識くらいはもっている。認知症に対する知識は、認知症という状態にある人を騙す武器にもなるのだ。
 認知症でこうした被害にあわないようにすることをいくら啓蒙しても、肝心要の本人がこうした予備知識等を「憶えられない・忘れる」ため、この被害は後を絶たないだろう。「魔の手をもつ普通にいい人」は増殖し続けるのではないか。
 家族や専門職による虐待にばかり目を向けていると「事件にならない市民犯罪」を見逃しかねない。
 かといって、すべての市民に「魔の手」があるわけではないだけに厄介ではあるが、何かしら手を打たないと「知らぬ魔」の加害者・被害者増殖で、この国の秩序は乱れてしまうだろう。
 僕らにできること、まずは「目を光らせて魔の手を見抜くこと」かな。イヤ、その前に自らが魔の手にならないことである。


コメント


お久しぶりです。本当、ご無沙汰しております。

本当、今犯罪が身近に起き過ぎていて驚きます。家族様も周り近所もスタッフさえも犯罪に巻きこまれやすくなっています。

目を光らすこと…大事ですね。


投稿者: つくし | 2013年07月17日 10:27

かなしい出来事ですね。売上と天秤にかけたことによるものなんでしょうか。
しかし、商売人というプロとして、顧客を騙すことはあるまじき行為だと思いますし、
そこに「認知症=分からないから」が前提としてあることなんだとしたら、立派な犯罪と言えるんでしょうね。
前提としてなくても、商売はこんなもんだと、悪気なくやってしまうことがもしかしたらあるかもしれませんね。その重大さを知らず。
良い勉強になりました。


投稿者: ねむりねこ | 2013年07月17日 16:54

暑くて思考停止状態になりそうな中、お疲れ様です。
~魔の手~には関係ない質問になってしまいますがごめんなさい。今現在GH開設準備をしていて、いくつか疑問を持ちました。そこで1つ、システムキッチンがガスでなくIHでないとダメだということです。火災予防だそうですけど・・・。想像するに、お婆さん達と料理をする際に、「それ弱火にして~とか火が強すぎる!」を、どのようにすればよいのか答えが出ません。良い経験がございましたら教えて下さい。お願い致します。他のいくつかは、もう少し悩んでみます・・・。


投稿者: 稲毛のマウンテン | 2013年07月18日 11:54

暑い毎日でもすが、ばあさん達は楽しいこと、食べることに飽くなきパワー全開です

食事作りで味付けがどうのこうの・・・
盛り付けで多い少ない・・・
振り回されながらも、飛び交う声に
今日も元気で活き(生き)ている姿に
力を貰えます。
狭い台所(ガスコンロ)だけではなく
カセットコンロを使い食卓テーブルで煮物や炒め物を皆さんにお願いしています。
確かにリスクは多いですがの皆さん現役のお姿を見れます

味付けが濃く仕上がってしまうことも多いですが
一発でとても美味しいお味に決まることも多く、さすが!です
IHだと、その辺の力が活かせないですよね


投稿者: なんくる | 2013年07月21日 10:34

※コメントはブログ管理者の承認制です。他の文献や発言などから引用する場合は、引用元を必ず明記してください。

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プロフィール
和田 行男
(わだ ゆきお)
高知県生まれ。1987年、国鉄の電車修理工から福祉の世界へ大転身。特別養護老人ホームなどを経験したのち99年、東京都で初めてとなる「グループホームこもれび」の施設長に。現在は大起エンゼルヘルプでグループホーム・デイサービス・小規模多機能ホームなどを統括。2003年に書き下ろした『大逆転の痴呆ケア』(中央法規)が大ブレイクした。

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